第8話 ファンクラブ会長

「おー、見える見える。前の方だ。こっちこっち」

 三宅から着いたと電話がかかってきたので手を振り誘導する。

「どうもどうも。急にどうした? 珍しい組み合わせだな」

「最近仲良いんだぞ。知らなかったか?」

 上中が俺の隣に移動し、三宅が前に座る。ちなみに三宅は卓球部というマイナー運動部所属ながらかなりのイケメンで女子人気は高い爽やか系である。見た目はサッカー部のエースストライカーなのだが…… 人は見かけによらないものだ。


「へーそうなんだ。可愛い子には目がないな、お前は」

「まあな」

 そんな軽口を叩き合う。


「2人は…… 仲良いの?」

「まあ、去年同じクラスだったんだよ」

「そうそう。さて、なのに森下ファンクラブを結成したという話を聞いてなくてな。ショックで今日は呼び出したんだ」

「ああ、なるほどね。で、上中さんか。でも特に話すことないぞ? 森下さんを愛でる会という名称で皆で集まっているだけなのだが……」

「名前だけ聞くと相当気持ち悪い会だぞ。急にどうしたんだ?」

「いや、あの子は凄いからな。本当に誰にでもフラットに良く接してくれる。素晴らしい存在だよ」

「そこまでか? 普通の女の子というイメージだが」

「わかってないな。お前からすれば普通かもしれないが、俺らからすると、ちゃんとちょうど良くコミュニケーションを取ってくれる女子というのは貴重なんだ。好意も敵意もなくフラットに優しい。貴重な存在だよ。上中さんならわかるだろ?」

「ええ、まあ確かにあまり距離感を人によって変えるタイプではないけど……」

「だろ。それでもって可愛いときたら俺ら底辺男子からすれば神のような存在なわけだ」

 こいつはいつの間に底辺男子の仲間になったのか。どうせ取っ替え引っ替え遊びすぎて底辺に落ちていっただけだろうが、一応女の子の手前深くは突っ込まないでおく。


「で、色々な人に森下の話を聞いて回っているということか?」

「何それ? 聞いて回ってどうするんだ?」

「ファンクラブの活動として聞いたけど?「

「いや、知らないなあ。誰がやっているのか、山田あたりかなあ。なんか面白い情報があるなら共有してもらわないとな」


「まあわかった、けどそんな会作ったら彼女できないんじゃないか?」

「俺はもう恋愛は疲れた。しばし休憩だ。敢えて「愛でる会」の会長になることで、恋愛的に森下さんを狙っていない、というポジションを確保した戦略的一手といえばわかるか?」


「じゃあ恋愛的には森下に興味はないってこと?」

「うん、ないよ。他の奴らもないんじゃないかな。女子もメンバーだし」

「なんの活動をしているんだ?」

「いや、何も? Lineでお喋りする会だよ?」

「みなみもLineグループには参加しているの?」

「してない、してない。あ、本人にも名前の許可貰っているから安心してくれ」

 思っていた感じの組織ではない。ゆるっと繋がったコミュニティなだけのようだ。ラインのグループ名にしているだけなのかもしれないな。森下の情報を集めている人がいるのは気になるが、会長は把握していなさそうなので深掘りは出来ない。どうやら期待外れのようだ。


 それでファンクラブの話は終わり、しばし3人で雑談に興じることになる。授業の話や部活の話…… しばし盛り上がった後解散した。久しぶりに三宅と話せて楽しかったな。


「次どうする?」

 健やかな気分で帰りの電車に乗っていると上中からメッセージが届いた。そうだ、次を考えないと。

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