第6話 尾行 休日

「で、なんで休みの日も?」

「仕方ないでしょ。本人の希望なんだから」

 結局登下校中に何も起きずに迎えた土曜日。森下の希望で練習試合の観戦をすることになった。体育館で立ち見をしながら隣の上中に愚痴を言う。


「ねえ、土曜日に学校で練習試合があるんだけど…… 見に来てくれないかな? 何かあるかもしれないからさ」

 本人から真面目な顔でお願いされると断りづらい。反射的に了承してしまっていたが、土日も出勤とはちょっとブラックな仕事過ぎないか?


そして、何故か毎日出勤している上中。責任感が強いのか優しいのか知らないが、休みの日まで熱心なことだ。俺が言うことでもないが。


「おー野口じゃないか。休日に珍しいな。何しに学校来たんだ?」

 通りかかった担任の森田先生に話しかけられる。森田先生は女子テニス部のコーチをしているので今日も部活に来ているはずだ。

「女バスの練習試合を見に来たんですよ。色々あって」

「それはまた…… わざわざ練習試合を見るなんてよっぽどの暇人か、彼女が出来たかくらいしかないと思うんだが」

「どっちも違いますね。話せば長くなりますが、よくわからない流れですね」

「ははは、なるほど。青春ということだな」

「何がですか……」

「よくわからないことに時間を費やすのが青春だよ。大人になるとどうしても無駄に時間がかかることはしなくなってな。お金になることだったり、自分に明確なメリットがないと動けなくなるもんだ。何があったかは知らないが、そういう時間を大事にしろよ」

 そういうと森田先生は去っていった。


「森田先生?」

「そうそう。去年の担任だったからたまに話すんだよ。なんか説得力のあることを言うんだよなあ、あの人」

「そう……」


 コートでは一進一退の攻防が繰り広げられているように見える。お互いにドリブルして、シュートして、拾ってドリブルして…… 控えの選手の声援や監督の指示も良く聞こえる。


「相手の高校は強いのか?」

「うーん、まあまあかな。全国大会に出るほどではないけど、それなりにトーナメントは勝ち進むと言うレベルだと思ってもらえればいいかも」

「へえ。そういえば上中はレギュラーだったのか?」

「ええ。今みなみちゃんがいるポジションでレギュラーとして出てたわ」

「じゃあライバル関係だった?」

「ノーコメントで」

 少し寂しそうな顔を見せる上中。察するに圧倒的にレギュラーだったのだろう。結果を出していたのに怪我で部活を諦めるってどういう気持ちなんだろうな。しかし本人に聞くほど野暮ではない。その後は無言で試合を見ることにした。


「礼!」

「ありがとうございました!」

 試合が終わり、両チームは円陣を組んで監督の話を聞いている。


「ここから後どれくらいで帰るんだ?」

「30分くらい。もうちょっと待っておきましょう」

「了解。腹減ってきたよ。ラーメンでも食べに行かないか?」

「もうちょっとだから我慢しましょう?」


「ごめんねー わざわざありがとう!」

「いや、試合見てて面白かったよ。バスケの試合は初めて見たがなかなか激しいな」

「そうなんだよー。接触に負けない筋力が大事なんだよね。とりあえず帰ろっか」

 森下と、同級生の林と上中の四人で帰ることになる。林からするとなんで俺と上中がいるのか疑問だろうが、特に聞いてこないため試合の話が続く。


「澪ちゃんどうだった? 私達」

「みんなすごい上手だったわ。全国大会も見えてくるんじゃない?」

「ありがとう、毎日練習している成果が出ているかな!」


「でも上中さんが入ればもっと強くなってたかもしれないからねー。怪我が残念だよ!」

「どういう意味……?」

 しかし、何気ない林の発言に冷たい声を出す森下。

「あ、いや別にみなみちゃんより上中さんが上手とかそういうは話をしているんじゃないよ? 単純に戦力の話」

「ああ、そういうことね」

 気まずい雰囲気が流れる。林は申し訳なさそうな顔をしており、森下は無表情である。どうしたらいいのか。

「そういえばアダムスミスって、「神の見えざる手」って本で言及したことないらしいわ。見えざる手って1回言っただけらしいの」

 上中は笑顔で何を言っているのか。

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