第5話 尾行 平日

「いつもは何人くらいで活動しているの?」

「5人くらいかな。後輩も先輩もいるし、明石とか平山とかわかるか? 時々だが来ているよ」

「ああ、そっか。写真部だったね」

「兼部だけどな。さて、そろそろ森下も帰るよな?」

「バスケ部厳しいからね。下校時刻に帰らないと顧問にどやされるから」

 うちの高校は部活が盛んだが、18時には帰宅しないといけないルールがある。なんでも勉強する時間を確保するためだとか。一応許可を得れば残ることも出来るが、特別な理由がないと許されない。


ぶるる、スマホに通知が届く。森下からだ。

『着替え終わったからそろそろ出るね』

「お、今から出るってさ。じゃあ行きますか」


校門前で友達と話す森下を見つける。ちらっとこちらを見ると安心した顔で歩き始めた。こちらも少し距離を取ったまま後をついていく。


「あれは宮城か。バスケ部以外とも一緒に帰るんだな」

「バレー部も一緒に体育館で練習したりするからね。更衣室も一緒だし、仲いい子は多いわ」

 なるほど、運動部コミュニティというやつか。文化部は皆で集まるタイミングがないため、そういった横のつながりがないのが欠点である。まあそんなことを気にする人は文化部に入るとは思えないが。

「普段は上中も一緒に帰るのか?」

「たまに……かな。バスケ部辞めてからは時間があえばってくらい」

「ああ、まあそうか。帰宅部だと学校にいる意味ないもんな」

「そうね。帰宅部とか部活が休みの人とだべったりすることはあるけど、いつもではないかも」


 森下が画角に収まるように斜め後ろをずっとついて行く。撮り逃しを防ぐために動画をずっと回しているが、確認するまでもなく特に何も起きていない。


「あいつら歩くの早くないか……?」

「辞めてから気づいたけど、運動部は体力有り余ってるから……」

「みんな細いけど、脚は筋肉の塊なんだろうな……」

 ぱんぱんのリュックサックを背負っているとは思えない速さでどんどん進んでいく森下達。走っているかのようにぴょんぴょん歩いているので必死についていく。心なしか通行人に注目されている気がするのは、見た目はもちろんのこと足の速さも関係あるだろう。

上中とゆっくり話ながら歩く余裕もない。


「おー野口じゃん。なんで上中さんと?」

 前を歩いていた野球部の平野が振り返り、目が合う。不思議な組み合わせを見た顔をしている。

「ああ、写真部に興味あるんだってさ。で、紹介してた」

「なるほど、なるほど。写真部か。ちゃんと活動しているんだな」

 納得した顔の平野に手を振り、急いで森下についていく。平野の方を向いたときにカメラも合わせて向いてしまうので、森下が写ってないシーンができてしまっただろう。気をつけないとな。


「あいつは歩くの早くないな?」

「スピード競技じゃないからじゃない? 知らないけど。そんなことより急がないと見失うわ」


 駅に無事たどり着き、森下が改札の中に消えていくのを見届ける。

「ふう。とりあえず今日は何もなしと。さすがにこっから先はもういいだろ。生徒を見かけることもないだろうし」

「そうね。確かみなみちゃんは駅から自転車使ってるはずだし大丈夫でしょう」

「電車内は……大丈夫だよな? 痴漢とか」

「そんなに混まないから大丈夫だと思うわ」

「わかった。じゃあまた明日、ってこれいつまで続けたらいいんだ?」

「私に聞かれても。とりあえず明日の朝はここ集合で。7時ね」


「朝? 7時?」

「バスケ部の朝練の時間。一応7時にここに来るよう私から話しておくわ」

「あ、ああ。起きれたら行く」

 いつもより1時間も早い。少し夜のゲームを我慢して早寝するか…… そこまでしないといけないのかという思いがよぎったが、手紙のメッセージと森下の心配そうな顔を思い出すと、頑張らないと、と思う。後はまあ、朝から森下の後ろ姿を眺めて登校するの悪くはない。スタイル良いんだよな。短いスカートがよく似合う。言ったら変態だと思われかねないので言わないが。


「わざわざありがとう! ごめんね朝から」

「大丈夫、大丈夫。宿題でもやる時間にするよ」

「助かります! 澪ちゃんもごめんね」

「気にしないで、やれることはやるから。じゃあ後ろからついていくね」


 次の日の朝、きっかり7時に駅で森下と上中と集合する。アラームを何回もセットしておいたからなんとか起きれたが…… 朝練は大変だな。駆け足のような速度で歩いていく森下を追いかける。


「なあ、なんであんなリュックサックはぱんぱんなんだ?」

「教科書とかを毎日持ち帰っているらしいわ。それで荷物がいっぱいになるんだって」

「ああ、勉強道具か。真面目なんだな」

「頑張り屋さんよ。成績はそこまで良くないけど、部活引退すればしっかり勉強して現役で良い大学行けるんじゃない?」

「まあ、確かに頑張り屋な雰囲気はあるな。上中は……確か勉強得意だったよな。聞いたことあるぞ」

「まあ、そうね。勉強は得意かもしれないわ。野口くんも勉強は得意なんでしょ?」

「まあまあ、だなあ。部活が忙しくないという意味では伸び代はあまりないかもだが」

 成績はオール10という噂を聞いたことがある。なんでも久しぶりに東京大学の進学実績ができるのではと先生も期待しているとか。


 そんな話を上中としながら歩いていると特に何も起こらず学校に着いた。

「何も…… 起きないな」

「まあ現実的な探偵もそんな感じでしょ? 1日目から都合よくイベントは発生しないわ」

「そりゃそうかもしれないが、なんというかこう…… 地味だな。まあ何も起きない方が良いことかもしれないが……」

「そうね…… 何か起きるなら起きてくれたほうが対応しやすいものね」

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