第4話 写真部
誰もいない廊下を上中と歩き、3階の一番端にある部室にたどり着く。運動部が盛んなこの高校では、放課後に学校内で生徒を見かけることは少ない。さらに3階の端ともなると、通り過ぎる生徒もいないため、静かな場所になっている。
「ん? その子は誰だい?」
扉を開けると、中から部長の不思議そうな声が届く。今日は部長以外は誰もいないようだ。一番面倒な人がいた。部長ははっきり言って変人である。ザ、生徒会長のような雰囲気を出しているが、集団行動は苦手らしく行事ごとは全て欠席している、と言えばわかるだろう。部長になったのは先輩からの指示らしいが、基本的に部長らしき振る舞いはない。
一応相談事には的確なアドバイスをくれる、など尊敬するポイントはあるのだが……
「写真部の活動に興味があるらしいです」
「へえ。そうなんだ。私は部長の川島だよ。よろしくね。名前を聞いてもいいかい?」
「上中です。野口くんと同じ2年生です」
「2年生か。部活はやってこなかったのかな?」
「バスケ部に所属していたのですが、怪我で辞めたんです。で、文化部でどこかに入りたいなって」
「なるほどなるほど。それで写真部か。写真部の何に興味があるのかな?」
「部長、写真部なんだから写真に決まってるじゃないですか。とりあえず座らせてください」
あまり深堀りされると適当さがバレる可能性があるため口を挟む。
「そうだな、すまない。気楽に座ってくれ」
「ありがとうございます。」
すっと椅子を引き、座る上中。姿勢が良いため、上品さを感じる。茶道部とか向いてそうだな。うちの高校にはそんな部活はないが。
「普段どういった活動をされているんですか?」
上中の質問に苦笑する部長。
「活動は、自由だよ。みんな各々で写真撮影をしたり、構想を練ったりしているね。野口のように真面目に活動している子もいれば、ほぼ幽霊部員まで多種多様だよ。ただ、皆写真好きという点では共通しているかな」
「そうなんですね。皆カメラを持っているんですか?」
「いや、スマホで撮影する子もいるよ。逆にその方が味がある、とか気楽に撮影できる、とか言う子もいる。ただ個人的にはやっぱりちゃんとしたカメラの方が綺麗に撮影できると思うが、強制はしないよ」
「部長は良い一眼レフ使っていますもんね」
「ああ、親のお下がりだが、綺麗に撮れるものだ。スマホも悪くないが全然違うね」
「ボケてる感じが良いですよね。ちなみに俺はコンデジみたいな小さいカメラの方が好きなんだ。いつも持ち歩いてさっとシーンを収める感じが合っているんだよなあ」
「なるほど、色々あるんですね」
「まあ、そういう方向性は追々決めていけばいいと思うよ。最初から型を持つ必要はないし、撮影する中で気づくこともあるだろう」
「ありがとうございます。ちなみに」
上中が真剣な顔で部長を見ている。
「被写体っていう選択肢もありますか?」
「うん? モデルってことかな? 良いんじゃないか。スタイルもいいし、写真映えすると思うよ。制服の女の子が写っているだけで青春の写真になるし、部員も歓迎するだろうね」
まさかのモデル志望。そういう華がある部活ではないんだけどな、と焦ったが部長は面白そうにニヤニヤしている。部長はモデル撮影もしているので、被写体が増えるのは歓迎なんだろう。というか上中は本当に入る気なのだろうか?
「まあ、その辺り詳細は追ってでいいのでは? とりあえずアルバムとか見て勉強してもらいましょうよ」
「そうだな、そこの本棚に色々な先輩方が撮った写真がある。見て勉強してみるといい」
「わかりました。ありがとうございます」
その後は、部長はPCで何か作業をずっとしており、俺はひたすら写真集の構想を練り、上中はアルバムを見る時間となった。普段であれば雑談をしながら過ごすのだが、凛としてアルバムを眺める上中の雰囲気に押されてしまったわけだ。普段は存在感がないが、こういうところでは目立つ存在なんだな、と新しい気づきを得る。そんなこんなで夕方、下校時間。
「今日は、誰も来なかったね。普段だともう少し部員が来てくれるのだが…… 運が悪かったみたいだね。よかったらまた来てみてくれ。部の雰囲気がわかるだろう」
「はい、ありがとうございます」
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