第3話 提案

「とは言ってもなあ」

「私も一緒にいるから。それなら自然でしょ?」

「俺と一緒に森下を後ろからつけるということか?」

「そう。さすがに野口くん一人でずっと後ろからつけてもらうのも問題だし、他の子はみんな目立つから…… 私なら大丈夫だと思うの」

 上中と二人で登下校か…… まあ確かに目立たないキャラではあるが。学校から駅まで15分、商店街を取っていくことになる。人通りはそれほど多くはないが、同じ高校の生徒には確実に目撃される。


「女の子と二人で帰るのもなあ。変な噂が出かねないしなあ」

「そんな注目されるとは思わないけど、私が写真部に体験入部しているってことにすればいいんじゃないかしら? で、色々教えてもらってると」

「野口くんには申し訳ないんだけどここ最近気味が悪くて…… 何も無ければないでいいんだけど助けて欲しい」

森下の目は真剣だ。まあ脅迫文まで出ているとなると本人の恐怖は相当なものだろう。女子であるということもあるだろうし、何か助けて上げたい気持ちはなくはない。役に立てるか自信はないが。


「わかった。協力するよ。週一回フラペチーノ一杯で手を打とう」

「ありがとう! それくらい全然大丈夫!じゃあ早速今日からお願いしてもいい?」

「スタバに二人で行くの?」

「いや、テイクアウトで問題ないが……」

 上中は友達思いだな。森下と男子の個人的な絡みは気をつけたほうがいいということだろう。幸いなことに俺のタイプではないので今のところ問題はないが、距離感には気をつけよう。風の噂ではファンクラブもあるらしいからな。俺が後ろから刺されかねない。

しかしそこまで男性をブロックしていると、社会の荒波に耐えれるのか心配になるな。大学生になった途端すごいはっちゃけたりしないだろうか。変なところで心配になってきた。


「森下は彼氏はいないのか?」

「その質問はNGです」

 ……なぜか割って入る上中。芸能人のマネージャーか?

「もう、澪ちゃん辞めて。いないよー。よく大学生と付き合ってるとか言われるけど、全くそんな縁もないし」

「なるほどなるほど。とりあえず頑張って尾行するよ。尾行の仕方調べておかないと」

 気分は探偵だ。まあ、さすがに、生徒同士のトラブル大事になる話ではないだろう。

いつか探偵をすることになったときに備えて練習だと思えば良い。

「じゃあとりあえず部活行ってくるね! 終わったら連絡する! じゃあ後で!」

 そう言うと森下は去っていった。


「なんで彼氏の質問?」

「こういう時は彼氏の出番じゃないかと」

「逆に出にくくない?」

「まあそれもそうか」

 冷静に考えると、彼氏に頼めることなら俺に話が来ることもないか。あまりにもセンスのない質問だったな。そのせいかこころなしか上中の目が冷たい気がする。とりあえずこの話は切り上げよう。


「さて、部室に行くかなあ。上中はどうする?」

「さっきも言ったけど写真部に体験入部ということで、お願いできるかしら?」

「ああ、わかった。ただ、俺は忙しいから適当に過ごしてくれよ?」

 写真部は10人ほどの小さな部活で、掛け持ちしている生徒も多い。部室に言っても部長と何人かがのんびりしているだけのことが大半だ。友達を連れ込む部員も多いので適当に仮入部と言っておけば歓迎されるだろう。

「何で忙しいの?」

「今、写真集の構想を考えているんだ。」

「写真集なんて作ってるんだ。すごいね」

「まあ今どきの電子写真集だけどな。アマゾンでリリースするのが目標だよ。一人でも誰か見てくれる人がいるとモチベーションになる」

「人を撮るの? 風景とか?」

「人を撮るのはハードル高いし、基本風景とか物かな。インターネットに出ることを考えると周りのやつにはお願いしにくいからな」

 SNSに自撮りをアップするのと何が違うんだと思わなくもないが、高いわくハードルが違うらしい。写真集に出るとなると気軽な気持ちではいられないと。まあそう言われるとそうなのかもしれない。

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