第4話

『千馬興産株式会社』


10階に着くと細い通路を歩き、エレベーター前に出ると会社名の入った看板が壁に掲げられている。


入口にはカウンターと人型ロボット『チッパーくん』が出迎える我社のスタイル。


「オハヨウゴザイマス」

「おはよう、チッパーくん」


世界に1台しかないというチッパーくんは、黒いおかっぱ頭で紺色のスーツに赤いネクタイの着色がされたデザイン。


システム部独自のオリジナルソフトウェアが搭載されているとか?


「ナトリコハルサン タンジョウビ

 オメデトウゴザイマス」

「えーわー、ありがとう♪」


チッパーくんの胸部モニターに花がポンポンポンと画面いっぱいに咲いた。


我社の癒やしキャラ、違った!

癒やしロボット。


残業する者への声かけや人生相談にも乗ってくれるらしい。

受付対応だけでなく社員のメンタルサポートもこなす。


昨年夏に新しくシステム部が立ち上げられた。

間もなくチッパーくんが導入され、他にもオフィスアプリやAIチャットボットも自社専用に開発。


各社員のパソコンやスマホで使用が始まると、あれもこれもとムダが省かれて効率よく捗る仕事に皆で驚いた。


「小春さーん!わぁ近くで見ると凄いっ!」

「ももちゃん、おはよ」


パタパタとワークスペースから駆け寄ってきたのは同僚の25歳ガーリーな女子。

たぶん新品だろうと思われるピンク色のワンピが、こりゃまたフリフリしてて内巻きのお嬢スタイルに合っている。


ももちゃんは私にとってかわいいのお手本。

だけど見た目とは違ってサバサバした性格ではっきり物を言う。

私は気が合うと思っているのだけれど、

少々個性が強いんだよね。


「下で見たよ!誰!?あのイケメン!?」


ああ、さっきのイベントに遭遇してたんだ。

私、周りが見えてなかったんだなぁ。

ももちゃんはしれっと私達の横を通り過ぎて、オフィスで私が来るのを待ってたのだろう。


「あの人はねぇ、千馬ちば副社長」

「えっ!?あの人が副社長!?うっそー、

 もものぼんやりした記憶だとさぁ…えー?

 とにかく影が薄くて超地味男?」

「う、うーん…」


超地味男、って……それな。

私の中でも印象が薄っすいこと薄っすいこと、記憶の千馬くんは完全に陰キャだ。


どうしてそれがああなったのか……

ダメダメがイケイケ。

超地味男が完璧美男。


マジックとしか言いようがない、と考えているうちにオフィスまで上ってきてしまった。


それに、なぜ、私にサプライズを???


「やっぱり私、騙されてるのかな?」

「なにそれ!?」

「シゴトノジカンデスガンバッテクダサイ」


チッパーくんが私達の間まで移動してきて声をかけた。

はっとして私達は奥へ向かう。


「小春さん、

 今日暇だったらヘルプお願いね」

「オッケ、じゃあ」


ももちゃんと手を振りあうとワークスペースの端を歩き、隅にある自分のデスクへ。

隣席のワンさんが私に気付いて目を丸くした。


「え〜、そんなんランチじゃ敵わんナ!」


いち早く赤い薔薇の花束に目を奪われたのだろう。

王さんは私の誕生日祝いにランチを奢ってくれると約束していたから、薔薇と天秤にかけたのだ。

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