第5話
中国人の
細身でスラッとしている2児の母。
古参メンバーなので私は開口一番に疑問をぶつけてみた。
「王さん、会社の福利厚生で、
誕生日に乙ゲー的なイベント発生する、
ってゆうオプションありましたっけ?」
「何ゆうてんの?ナイワ。誰に貰ったん?」
「えー、副社長に…」
「副社長?アタシ一度も見たことナイヨ」
私も1年前に
王さんはそのとき産休だったし。
「いやぁ私も1年ぶりに会ったんですけど、
別人みたいで何が何だか…」
「怖いな。だってその花、本気やん」
「ええ〜、どうしよう〜」
「何か裏があるかもしれん。
ヤバい奴だったらすぐアタシに言いな、
ワンパンくれたるヨ!」
「王さん…… ハオがすぎる」
「
私、気の強い人が好きっぽい。
王さんがサムアップすると、デスクの上でスマホがバイブして応答に移った。
中国語で喋り始めたので仕事の電話だ。
私も花束を壁際の棚に置かせてもらい、バックを椅子に乗せコートを脱いだ。
今日のデスク周りは私と王さんだけだ。
他のメンバーはイースター休暇中。
この会社は部署がほとんど無くて、ここは言うならば海外事業部といったところ。
私は前職の経験から、欧州に関わる仕事を主に担っている。
と言っても取引のメインは米国とアジア圏なので、海外と国内業務の両方にサポートで就く仕事内容が多い。
創業1976年、現社長は2代目の一族経営。
お堅い縦割り会社かと最初は身構えたけれど、私と同じような転職者だらけで若くフレキシブルな社員で纏められている印象。
爽やか系27歳イケメン社長『
2年前に会社検索で見たWeb記事のタイトル。
千馬
―――25歳で祖父が逝去して遺言で社長に就任しました。いきなり危機に直面して。
地方のワンマン経営で伸し上がったツケが回ったんです。
次々契約は切られるし、社員は見切りをつけて辞めていく。倒産しかけました。
祖父のやり方じゃ今のビジネスに通用しない。
経営方針を刷新し、東京で勝負しようと決断したんです。
記事の内容はこんなだったはず。
にこやかにインタビューに応えている画像は、確かに若くてイケメンで推せる風貌だった。
でも少し……胡散臭くない??
私と差程歳は変わらないのに都心のオフィス街に進出してきて、破滅ルートじゃないの??
勢いで転職をする羽目になった私は、
当時そんなふうに記事を見て思った。
結局のところ、
ブラック企業じゃなければいっか、
と面接を受けて採用されたのだけれど。
入社してみれば……
ベンチャーぽくも外資系ぽくもあって、
給料と休暇制度も明確に整っているし。
それにちゃんと実益をもたらしたんだろう。
11階フロアも借り上げて管理部とシステム部に社長室などを引越しさせた。
お陰で10階フロアはフリーとグループ用のデスクエリアや休憩室が備わってより働きやすくなり福利厚生も優秀。
だからさっきのイベントも…
今年度から新しく試みた制度なのかと、
ふと頭に浮かんだのだ。
そうゆうノリも許されそうな社風だし。
でも副社長は個人的なサプライズと言った。
さて、御礼はすべきなのか…
おいおい考えておこう。
世にも奇妙なハプニングはとりあえず置いといて、まずはパソコンを開き仕事を始める。
突然現れた、千馬の王子様。
人生28年目の私に到来した―――――
好機なのか?危機なのか!?
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