第4話 鈍感とジゴロと暴力系と

「はあ、俺って本当に愚かだったよな……」



 学校からの帰り道、俺はため息をついた。そしてそのため息の原因が俺の隣を歩きながら顔を覗き込んできた。



「公人さん、どうしたんですか? ため息をついてると幸せが逃げるっていいますよ?」

「誰のせいだと思ってるんだよ……」



 隣を歩く原因こと愛に対してため息混じりに言っていると、後ろを歩いていた悠仁が愛に話しかけた。



「ところで、愛。公人の家で暮らし始めてから二週間が経つけど、楽しくやってるか? 公人に着替えを覗かれたり夜寝てる時に写真を撮られたりしてないか?」

「おい、悠仁」

「大丈夫ですよ、悠仁さん。自主的にはそんな事はしてきていないですし、あったとしても着替え中に脱衣所で鉢合わせるとかつまづいた流れで押し倒されたのをお母様に見られたくらいですから」

「それだって愛の影響だろ!」



 その時の事を思い出しながら言っていた時、後ろからふんと鼻を鳴らす音が聞こえ、そちらに視線を向けると、那美が不機嫌そうな顔をしていた。



「なんだよ、那美」

「……べっつにー? そう言いながらも可愛い女の子相手だから悪い気はしてないんじゃないかとか思ってませんけど?」

「いや、愛はたしかに可愛いけどさ……」

「ほら、やっぱりそうじゃない! どうせ同じ家に住めてるのだって本当はラッキーとか思ってるんでしょ!」

「普通だったらそうだろうけど、愛相手だとそんな風に楽観的には……!」

「公人さん……私はいらない子ですかぁ……?」

「いらない子とかそういうんじゃなくて……!」



 愛が目を潤ませながら言うのに対して那美が更に不機嫌になる中、俺はどうしたら良いんだと思いながら今日までの出来事を想起した。


 愛が現れたその日、用事から帰ってきた父さんも認識を歪められた事で愛の事を不審がる事はなかった。それどころか愛は父さんと母さんの知り合いの子供で、俺や悠仁達とは小さい頃からの友達な上にその知り合いの都合で愛がウチにしばらく住む事になった事になっており、それに俺が驚いてる中で愛はすっかり母さん達と仲良くなっていた。


 それだけならまだ良かったのだが、愛はいつの間にかウチの学校の期間限定の転校生という事にもなっており、クラスであまり目立たない方だった俺が見た目だけなら万人受けするタイプの美少女の愛と事情があるとはいえ一緒に暮らしていたり懐かれたりしている事に対してかなり嫉妬されていた。


 それに加えて、愛が言っていたように俺の人生がラブコメ作品のようになっていたからか愛以外の女子に対してもその影響が働いてしまい、窓から吹き抜けていった風でスカートが捲れてパンツが見えたりつまづいた流れで胸に触ってしまったり、といわゆるラッキースケベ的な事ばかりが起き、女子からは変態男という不名誉極まりないアダ名を、血涙を流さんばかりの男子からは裏切り者という謂われのないアダ名をつけられるという事になっており、ここ二週間の気疲れは半端ない物になっていた。



「はあ……」

「ほんと可哀想だよな。代われるなら代わってやりたいくらいだ」

「……本音は?」

「お断りだし、端から見てる方がスゴく楽しい!」

「悪魔め……」



 恨めしさを感じながら悠仁を見ていると、悠仁は愛に話しかけた。



「愛、お前は公人のパートナーって言ってたけど、将来的には公人の恋人になるのか?」

「なっ……おい、悠仁!」

「それは内緒です。あくまでも私は公人さんにとってのヒロインの一人に過ぎませんし、ラブコメ的な人生を送る公人さんの案内役としてのパートナーですから」

「ヒロインの一人?」

「はい。ラブコメ作品というのは、基本的に主人公がメインヒロインとサブヒロインに囲まれる形で進行していきます。そしてメインヒロインですが……それは内緒です」

「内緒って……愛がそれじゃないのか? よくある展開だと主人公が実は想いを寄せていた相手がサブヒロインで、突然の出会いを果たした方がメインヒロインって感じだけど……」



 悠仁が驚く中、愛は笑いながら首を横に振る。



「あくまでもそれはよくある展開というだけで、全体的に見ればその限りではないんですよ。ただ、私はラブコメその物なのでメインヒロインが誰かはわかっていますし、それが私という可能性は普通にあります。私だってヒロインの一人になっていますし、そういう立場に憧れないわけではないですから。そして……もう一人いるんですよ、ヒロイン候補は」

「え?」



 愛が見つめる先には那美がおり、自分が知らない内に注目されているのを知った那美は驚きながら自分を指差した。



「え、私……?」

「はい、その通りです。那美さんは公人さんの幼馴染みな上にクラスメート、そして現在交際中の相手がいないという立場なので、十分公人さんから見たヒロインとしての素質はあります」

「私がヒロインって……そんなの公人だって困るでしょ。自分でもさっきからめんどくさい女やってるって思ってるし、そんな女がヒロインだって言われても公人は嫌なんじゃない?」

「いや、別に嫌じゃないけど……」

「え?」

「そりゃ最近は前と違って変に怒ってる時が多いなとか少し態度を前みたいにしてほしいとは思うけど、那美自体は別に嫌いじゃない。それどころか俺にとっても那美は普通に可愛い方だからヒロインだって言うなら嬉しいぞ?」



 那美が驚き、少しずつ顔を赤くする中、悠仁と愛は揃ってため息をついた。



「……前からなんとなく思ってたけど、公人って鈍感系な上にジゴロ系な主人公だよな」

「ラブコメの主人公としての適正は高いですよね。それに、那美さんが若干暴力系ヒロインみたいになってるのって……」

「お察しの通りだ」

「ん、悠仁。那美の様子がおかしい理由がわかるのか?」

「……まあな。でもまずは那美を起こそう。そうじゃないと帰れないしな」

「お、おう……?」



 何がなんだかよくわからなかったが、悠仁の言う事はもっともだったため、少し呆れたような視線を向けてくる愛に疑問を抱きながらも俺は悠仁達と一緒に那美を起こし始めた。

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