第四章 沼とエルフ

エクランダルとエーヴェは、壮大な渓谷を進んでいた。彼らの目的は、この地を探索し、仲間を見つけることだった。太陽が渓谷の壁に影を落とし、眼下に広がる景色は息をのむほどに美しいものだった。しかし、その美しさとは裏腹に、渓谷には危険も潜んでいた。


彼らが岩肌に沿って進むと、突如として倒れているエルフを発見した。エルフは意識を失っており、その姿は過酷な旅の疲れを物語っていた。エクランダルとエーヴェは急いでエルフのもとへ駆け寄り、エーヴェが彼女に癒しの奇跡を施した。しばらくすると、エルフはゆっくりと目を開け、掠れた声で喋った


エルフ:「…が…これは…罠…」


彼女の話を聞いている最中、突然、岩の影から異形が現れた。渓谷の静けさが一瞬にして緊張に包まれ、エクランダルはすぐに剣を抜き、エーヴェも戦闘の準備を整えた。


渓谷の岩の影に潜む異形との戦いは、エクランダルとエーヴェにとって未知の試練だった。周囲は岩壁に囲まれ、断崖絶壁の上に立つ彼らの前に、触手が絡み合った異形の姿が現れた。太陽の光が届かないこの場所は、異形の潜む完璧な隠れ場所であり、その影から無数の触手が伸びている様子は、まるで生きている壁画のようだった。


異形は静かに、しかし確実に彼らに近づき、その触手を空中に振り回し始めた。触手は周囲の木々を容易く引き裂き、岩をも粉砕するほどの力を持っていた。エクランダルは聖剣を構え、その剣から放たれる光が周囲を照らし出す。彼は、異形の触手が彼らに届く前に、素早く前に踏み出し、力強く剣を振るった。聖剣が触手に触れるたびに、聖なる光が爆発し、触手を切り裂いていった。


一方、エーヴェは奇跡の力を用いて異形を浄化しようとした。彼女の杖から放たれる白い光が、渓谷の影を突き破り、異形に直接当たる。その光は触手に触れると、異形の体を徐々に浄化し始めた。しかし、異形は一筋縄ではいかない存在で、その触手は次々と再生し、二人に対する攻撃を続けた。


戦いが激しくなる中、エクランダルとエーヴェは背中合わせで立ち、互いを守りながら戦った。エクランダルの剣技とエーヴェの奇跡が完璧に融合し、異形に対する効果的な攻撃を繰り出していく。異形の触手が二人に迫るたびに、聖剣と光の奇跡がそれを撃退し、異形の力を徐々に削いでいった。


最終的に、エーヴェの浄化の光が異形の核となる部分に到達し、その全身を覆い尽くした。


《キャーーーーーーーーーーーーーッ…》


異形は悲鳴を上げながら、その姿を消し、周囲には再び静寂が戻った。エクランダルとエーヴェは、息を切らしながらも安堵の表情を見せた。彼らの力と絆が、この未知の脅威を乗り越えさせたのだ。戦いが終わり、二人は渓谷の岩の影から脱出し、光の差し込む場所へと戻っていった。


戦いが終わると、エクランダルとエーヴェはエルフに水を飲ませ、エルフは突然叫んだ。


エルフ:「兄さんが…兄さんが危ないんです!助けてください!」

エクランダル:「ま、まず落ち着きましょう、私の名前は…エクランダル右にいるのは…」

エーヴェ:「エーヴェよ」

エルフ:「あっ…ごめんなさい、私の名前はアルフィーユ、タリオーン兄さんを助けて欲しいの。」


エクランダルは戸惑いを隠せなかったがエーヴェが頷いたので、タリオーンを助けるために共に行動することを決意した。アルフィーユにとって、兄はただの家族以上の存在であり、彼を救うためならどんな困難にも立ち向かう覚悟があった。


三人はアルフィーユを案内に、タリオーンがいるとされる場所へと向かった。途中、渓谷の美しさに目を奪われることもあれば、未知の危険に心を脅かされることもあった。彼らの足元には、岩と土が入り混じった不安定な道が続いており、その道は彼らをタリオーンが療養している、エルフの里へと導いていた。


そして、一行はエルフの里へと着いた、しかし里の木々は枯れ果て、瘴気が満ちていた、しかし、彼らエルフの高潔さは500年経っても、枯れることはなく、長老や里の人々が丁寧に出迎えてくれた。


長老:「人間を見たのは500年ぶりじゃ!あの雪原を超えてきたのか?あとパラディン殿…ヘルメットは…」

エーヴェ:「そうよ、雪原を越えてきた。」

長老:「つまり、あの白熊を…」

エクランダル:「倒しました。」


長老は『バン!』と机を叩く。エクランダルは驚いた様子だったが、エーヴェは石を眺めていた。長老が涙を流しながら言う。


長老:「500年前のわしの息子の仇を討ってくれてありがとう…」

エクランダル:「もしかしてこの剣の持ち主ですか?」


長老は驚きを隠せていない様子だった…また机をバンバン叩いている、そして落ち着きを取り戻し、再び喋り始めた。


長老:「其れはあなたが持っていて良い、その代わり願いがある、」

エクランダル:「なんでしょう?」

長老:「ヨルムトグルを倒してこのエルフの里を救ってくだされ!」

エクランダル:「ヨムルトグル?」

エーヴェ:「ここら一帯に瘴気をばら撒いている蛇塊よ。」

長老:「おお!なんと!知っているなら話が早い、出来れば我々だけで解決したかったんじゃが…里一番の戦士がの…」


突然部屋のドアを男のエルフが開けて入ってきた、後ろには彼の服を引っ張って連れ戻そうとするアルフィーユの姿が見える。


エルフ:「里の外から来た奴は信用できない…」

エルフィーユ:「兄さん!安静にしててって!」

タリオーン:「アルフィーユが持ってきた毒消しの花を煎じて飲んだから大丈夫だ…長老、悪いが彼らには帰ってもらおう。」

エーヴェ:「君、それは毒ではない。」


彼の体はヨルムトグルの呪いによって大きく苦しめられており、その表情は深い苦痛に満ちていた。エーヴェが目を細めながら険しい顔で言う。


エーヴェ:「君はどうやら、呪われた様だね。一週間はもたんだろう。」

タリオーン:「…ッ!何を世迷言を!毒と言ったら毒だ!人間のお前らに何がわかる!」


タリオーンは体中から滝のように汗を流しながら、鋭くエーヴェを睨みつけて、部屋を後にした。


アルフィーユ:「兄が調子が悪い理由が呪いだとなぜ断言できるんですか?」

エーヴェ:「まあ、今はわからないだろうけど、数日たったらわかるだろう。」

エクランダル:「え、わからないのに言ったんですか?」


数日後、タリオーンの容態は急変した。ベットの上で、タリオーンが苦痛に顔を歪めていた。彼の体は異形の蛇塊ヨルムトグルの呪いに侵され、その影響で彼の肉体は異常なほどに苦しんでいた。その強靭な体が不自然に痙攣している。彼の肌は呪いによって青白く変色し、その表面には毒が浮かび上がっていたかのような暗い斑点が現れていた。


彼の呼吸は荒く、時折、痛みによって断末魔のような叫び声を上げる。タリオーンはこの森で最も優れた弓使いであり、多くの戦いを生き抜いてきたが、ヨルムトグルの呪いは彼の肉体だけでなく、彼の意志にも深く影響を及ぼしていた。彼の目は苦痛に満ち、一時も安らぐことなく、周囲を警戒するように虚空を見つめていた。


彼は自らの体を引き裂くような痛みに耐えながらも、たった一人の妹の手を握る手は決してその強さを失わなかった。しかし、ヨルムトグルの呪いはただの肉体的な苦痛だけではなく、彼の心にも深い闇を植え付けようとしていた。


呪いに侵されたタリオーンの体からは、時折、黒く不気味な煙が立ち上り、それが彼の苦痛を外界に示していた。彼の体は次第に力を失い、眠りにつく時間が長くなっていった。


タリオーンの話を聞いた一行は迅速に行動をし、エーヴェは少し、『ニヤけて』いた、それを見てエクランダルは少し不快に思ったが、理由があるのだろうと思い言葉を呑み込んだ。一行がタリオーンのそばに来ることには、すでに満身創痍であった。


エーヴェは迅速に行動し、杖を手に取り、タリオーンの胸に、杖の先を置いた。彼女の奇跡は光と共にタリオーンを包み込み、呪いに働きかけた。この過程は時間との戦いであり、エーヴェの額には集中のための汗がにじんでいた。一方、エクランダルは手を組み祈り、アルフィーユは自分の目の前で起こっていることが理解できていない様子だった。


しばらくして、エーヴェの努力が実を結び、タリオーンの苦痛が和らぎ始めた。彼の呼吸は徐々に安定してきており、毒による苦しみから解放されていく様子が見て取れた。タリオーンが意識を取り戻すと、彼はまずアルフィーユの顔を見て微笑み、次にエーヴェとエクランダルに深い感謝の意を表した。すると突然エーヴェが倒れる。兄妹は驚きの顔をしているが、エクランダルは何か理解したのか、落ち着いている。


タリオーン:「どっ、どうしたんだ?」

エーヴェ:「この世に万能の奇跡は存在しない。」


エーヴェはそう言うと、そのまま眠りについてしまった。エクランダルはポーチからメモを取り出して読み始める。


エクランダル:「どうやら、彼女の奇跡は、あなたの呪いを自分へと移すようですね…」

タリオーン:「なんでオレにそんなこと…」

エクランダル:「どうやら、蛇塊を倒せば、呪いも解けるようです。」

タリオーン:「じゃ、じゃあ早く行かねえと!坊主さんよ、着いてきてくれねえか?」

アルフィーユ:「行っちゃダメ!お兄ちゃん!兄の代わりに私が行く!」

タリオーン:「ダメだ!お前戦えないだろう。」


そうすると、エクランダルが二つ目のメモを取り出して読み始める。アルフィーユとタリオーンはそれを不思議な目で見ている。


エクランダル:「あいやこれは、彼女が『私が倒れた後順番に読め』と…ゴホン!えーとアルフィーユさん貴女も行けとのことです。」

タリオーン:「どう言うことだ!」


タリオーンはベットから飛び出しエクランダルの胸ぐらを掴む、エクランダルは次のメモを取り出し、「彼女が預言者で里の者の誰にも口外するな」と言った、タリオーンは「奇跡が起こせる預言者なんているか!」と吐き捨てた。


その後タリオーンは、彼は自らの経験とヨルムトグルについての知識を共有し始めた。ヨルムトグルはただの蛇塊ではなく、500年前から渓谷に潜む邪悪な存在であること、身体中から瘴気を放ち、無数の頭から毒を吐くということを語った。


新たな情報を得たエクランダルは、ヨルムトグルとの直接対決に備えることになった。タリオーンもまた、彼と共に戦うことを誓った。三人は里を後にし、ヨルムトグルが潜むとされる場所へと向かった。エーヴェの様子は長老が診ていてくれると言うことであった。彼らの前には更なる試練が待ち受けていることも知らず…

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