第三章 雪原の支配者

 吹雪が激しく舞う中、エクランダルとエーヴェは厳しい雪原を進んでいた。彼らの目的は、世界を救うこと。しかし、この旅は彼らにとってただの物理的な距離を超えた試練となっていた。雪原の寒さは刺骨で、吹雪は彼らの視界を奪い、足元の深い雪は一歩一歩を重くしていた。彼らの呼吸は白い霧となり、凍てつく空気の中で瞬く間に消えていった。


 エーヴェは先導を務め、彼女が時折杖を地面に突きつけると、一時的に吹雪が晴れる。エクランダルは剣を手に、常に周囲に警戒の目を光らせていた。彼らは言葉を交わすことなく、互いに信頼を寄せ、共にこの過酷な雪原を越えようとしていた。


 突如、遠くに灯りが見えた。それはまるで彼らを呼ぶかのように、吹雪の中でぼんやりと輝いている。二人は新たな希望を胸に、その灯りに向かって歩き始めた。風が彼らの前進を阻もうとも、灯りが示す方向に進むことで、彼らの心は少し温かさを取り戻していた。


 ようやく灯りの源へとたどり着いた時、彼らが見つけたのは、小さな避難所だった。古びた木材でできたその小屋は、旅人たちが暴風雪をしのぐための避難所となっていた。エクランダルとエーヴェは、小屋の扉を開けると、中に入り、冷え切った体を温め始めた。小屋の中は思ったよりも暖かく、壁に掛けられた古い地図が二人の目を引いた。地図には雪原を越え、ポカリスの住む地へと続く経路が示されていた。彼らは地図を前にして、次なる行動計画を練り始めた。


 エクランダル:「これはかなり新しい、50年から70年くらい前のものでしょうか?」

 エーヴェ:「うん、長老の500年前の言い伝えの案内よりかはマシだね。」


 夜が更けていく中、エクランダルとエーヴェは、炉の火を囲みながら、彼らの旅の目的と、これから直面するであろう困難について話し合った。


 エクランダル:「そういえば、時折石を拾ってみたりするのは何故なのですか?」

 エーヴェ:「まあ、君にはわからんだろうけど、みてみる?」


 エーヴェがその手の中にある石を見せる、


 エクランダル:「え、何も書いてありませんが。」

 エーヴェ:「君にはそう見えるんだろうね、ここにはちゃんと文字が書いてあるよ。」

 エクランダル:「はぁ…」

 エーヴェ:「私の経緯を今話すのは少し早いね、その前に、この旅の目的を君に伝えておこう。」

 エクランダル:「そうですね…森に言われるがままに出てきてしまったので、そこを聞いていませんでしたね。」

 エーヴェ:「我々のパーティーにもう二人来なければならない人物がいる。」

 エクランダル:「もう二人?名前は?」

 エーヴェ:「まだわからない、石にはそこまで書いてない。」

 エクランダル:「そうですか、しかし…」


《バタッ!!》


 突然小屋のドアが開く、そして彼らの前に一人の老人が現れた。二人とも警戒体制に入る。


 老人:「おやおや、こんな時間にこんなところで何をしておるんじゃね?」

 エクランダル:「私の名はエクランダル、聖職者であり、騎士です。そしてこちらは…」

 エーヴェ:「エーヴェよポカーリスを探しているの。ここで休息を取らせてもらっている。」

 老人:「フォフォ…わしはこの土地の案内人、この普段はこの近辺の村々の物品を交換して生計を建てております…御仁、今まで数多の冒険者が、挑み雪を赤く染めました…わしで17代目です…本当に挑みなさるのか?あと騎士殿…ヘルムはとらんのかの?」


 老人の目は穏やかで、彼の言葉には長年の経験がにじみ出ていた。エクランダルとエーヴェは老人に警戒しつつも、彼からの情報を求めた。


 エーヴェ:「ええ、覚悟は固まっている、代々の案内人ってことは何かポカーリスについて知ってることはあるの?」

 老人:「フォ…わしより5代も前の話、近くの村から若者を集めて総勢27人大部隊で、戦いましたが…その分厚い皮膚は剣も、槍も、矢も刺さらず、敢え無く…ご先祖はそれを見て命からがら逃げ帰ってきたときには16人に…」

 エーヴェ:「剣…刺さってるでしょ。」

 老人:「フォッ!?」

 エーヴェ:「体のどこかに剣が刺さってるはず…」

 老人:「ソレは…きっと嘘の話じゃ…」

 エクランダル:「いいから、教えてください。」


 老人は渋々語り始めた。


 老人:「御伽噺での、昔神代の頃、大厄災が来たとき、今では吹雪が酷すぎて通ることができないが、あるエルフ族の剣士がドラゴンを討伐するため、ドリナ渓谷を越えて、このカンデ高原へとやって来た、その時エルフ族の神代の刀匠が鋼白銀ミスリルで作った伝説の聖剣【ガーディアノ・エル・アルバ】、そのエルフの剣士、ポカーリスにその伝説の剣を刺す…」

 エクランダル:「それはすごい!」

 老人:「だが、今に至るまで誰も刺さった剣を見たことはない、きっと皆んなを勇気づけるための、誰かの噂話じゃ。」

 エーヴェ:「それはどうだろうね。」


 彼は二人に、ポカーリスの住む地への最短ルートを示し、厳しい試練が待ち受けていることを警告した。エクランダルとエーヴェは老人に感謝を表し、新たな知識を胸に再び旅を続けることにした。


 案内人との出会いは、エクランダルとエーヴェにとって予想外の助けとなった。彼らは老人が示したルートを辿り、雪原を横断していく。

 風雪の中、彼らはついにポカーリスの住む地の入り口にたどり着いた。その地は雪原の中心に位置し、周囲は厳しい自然に守られていた。エクランダルとエーヴェは深呼吸をして、ポカーリスとの対峙に備えた。彼らがここまで来たのは、ポカリスを救い、雪原の平和を取り戻すため。その決意を胸に、二人はポカーリスの住む地へと足を踏み入れた。


 エクランダルとエーヴェがポカーリスの住む地へ足を踏み入れると、周囲の雪景色は一変した。ここは雪原の中心にあるにもかかわらず、何故か穏やかな空気が流れていた。二人は緊張しながらも、ポカリスとの対面に備えて前進を続けた。やがて、彼らの前に巨大な白い影が現れた。それは他ならぬポカーリスだった。500年前まで雪原の守護者として崇められたこの巨獣は、今やその眼光に怒りと混乱が宿っていた。


 ポカーリスの咆哮が雪原に響き渡り、その力強さに二人は一瞬たじろいだ。しかし、エーヴェはすぐに杖を構え、彼女の内なる力を呼び覚ました。一方エクランダルも、剣を手に対峙する準備を整えた。ポカーリスが襲い掛かると、エクランダルはその巨体を巧みにかわし、剣で反撃を試みた。しかし、その攻撃はポカリスの厚い皮膚を通じてはほとんど効果がなかった。


 ポカーリスの白い巨体は雪の中でも一際目立ち、その凶暴な眼差しは直接エクランダルの心に突き刺さる。ポカリスは再び咆哮し、その咆哮は雷鳴のように轟き、その音だけで周囲の雪が震えるほどの威力を持っていた。そして、突如として吹雪が吹き荒ぶ。


 エクランダルは剣を握り直し、攻撃体制を取る。しかし、ポカーリスの突進は予想以上に速く、彼はかろうじて脇をかわすことしかできなかった。巨大な爪が彼の鎧をかすめ、その冷たさが肌を切るようだった。エクランダルは反撃しようと剣を振るうが、ポカリスの厚い皮膚は容易には切れない。彼の攻撃はポカーリスを怒らせるだけで、効果的なダメージを与えることができなかった。


 戦いは更に激しくなり、エクランダルはポカーリスの連続攻撃に苦戦を強いられる。一度はポカリスの巨体に押し倒されそうになり、彼は全力でその重みを押し返す。雪と氷の上での戦いは、彼にとって極めて困難なものだった。ポカーリスの吐息は冷たく、その息吹だけで周囲の温度がさらに下がるように感じられた。


 エクランダルは一瞬の隙をついて距離を取り、深呼吸をする。彼は自身の戦闘経験を総動員し、ポカーリスの動きを予測し始めた。しかし、ポカーリスはただの獣ではなく、何らかの力によってその能力が増幅されているようだった。エクランダルの剣技も、この巨獣の前では十分ではないかのように思えた。突如エクランダルの目の前に巨爪が現れる咄嗟にエクランダルは剣で受け身を取るも、その剣の刃は空中で回転していた。咄嗟にエーヴェは杖を地面に打ち付る、吹き荒ぶ雪はポカーリスへと集中し、一瞬でその巨躯を包み込んだ


 雪の中から、ポカーリスが二足で立ち上がり咆哮をする、腹部に光る何かが見える、エーヴェがそれを見て叫ぶ「エクランダル!腹よ!」エクランダルはすぐにその意味を理解した、再び四足で突進を始めたポカーリスの真下に滑り込みその毛の中に埋もれてしまった光り輝くものを掴む。


《キーン》


 500年の時を超え再び世界の空気に触れたその剣は己が自由になった事を喜ぶが如く、その刃を振動させ『』のであった。ポカーリスは剣を抜かれ痛みにたじろぎ、白銀の雪原が赤く染まる。吹雪もいつの間にか止み始めた。

 そんな中、エーヴェの力か、空の雲の隙間から光が降り、ポカーリスを包み込むと、巨獣の動きがさらに鈍化する。エクランダルはこの機を逃さず、より効果的な打撃を与えるためにポカーリスの急所を狙い始めた。その剣は舞を踊るが如く、ポカーリスの皮膚を切り裂き、巨獣から苦痛の声が上がる。


 しかし、ポカーリスの生命力は強靭で、戦いはなおも続く。エクランダルは体力と精神力の限界を感じながらも、諦めることなく戦い続けた。すると彼の伝説の剣は突如として光り、彼のヘルムの隙間から一斉に光が漏れ出る。ポカーリスへの最後の一撃を目指して、全ての力を込め、剣をふる。その素晴らしい剣は、音を立てずに巨獣の脇腹を裂いた。


《ドカーン!………ボトッ》


 その歴戦の巨獣は地に落ちた、そしてその後巨獣の脇腹の切り傷をから黒い何かが、“堕ちた”。其れは蠢き、囁き、足掻いていた。エーヴェがすかさず、その物体に杖を突き刺す。


《ギギ…ギギギッ…》


 木が軋むような音と共に悍ましい何かが塵となって空へと消えていく…

 息を切らして立ち尽くすエクランダル。彼はこの苦戦を乗り越えたことで、自身の限界を超えたことを実感した。


 エーヴェがつえを地面に突き立てると、その杖から突如光が放たれ、エクランダルとポカーリスを完全に包み込み、みるみるこの戦いでついた傷が癒えていく、それと。光が消えたとき、ポカーリスは穏やかな表情を取り戻していた。彼はゆっくりと二人に近づき、頭を垂れて感謝の意を示し、その真に白銀の姿はすぐに雪に溶け込んで消えてしまった。その瞬間、エクランダルとエーヴェは、彼らの使命が達成されたことを実感した。

 雪原を背にしたエクランダルとエーヴェは、次なる冒険への準備を始めるのであった。

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