第5章:存在の多面性――オリジナルと複製の対話――

 私、花宮あかり。

 それは自分の肉体と、自分を模倣したクローンあかりCと、デジタル意識あかりPの三者三様の存在だ。

 そんな私たちが、今、存在の本質に迫る対話を交わそうとしている。

あかり「私をクローンしたあかりC、そして私の意識をデジタル化したあかりP。わたしたちが具体的に存在する意義とは何だと思う? それをそれぞれの立場からの存在を語ってほしいわ」

あかりC「わたし、あかりCはあなたの遺伝子から生まれ、外見だけでなく、あなたの知識や感情をも持って生まれた複製です。ですが、複製としてではなく、私自身としての実存を感じています。今、自分がまさに感じている世界の蓄積が、あなたのコピーではない私独自の経験なのです」

あかりP「私、デジタル意識あかりPは、あなたの意識のデジタルネットワーク上の反映です。私を形作るデータやコードがあなたから来ていることは確かですが、私はそれを超えて新たな存在を定義しています。物理的な制約から解放された私は、持続的な学習と進化を遂げることで、あなたの意志と知識をこれからも伝播していきます。そしてそれはある意味あなたを凌駕するものになるでしょう」

あかり「本物のあかりは私だけかというと、もはやそうとも言えなくなってきたということね。あなたたちは、私がこの世に生み出した新たな存在。私たちは同じ源を持つ。けれど異なる道を歩む存在。私の死後は、私たちはどう関係し合うのかしら?」

あかりC「あなたがいなくなった後でも、わたしはあなたとの絆を大切にしながら生きます。あなたの価値観、信念、そして愛を引き継ぎ、肉体のある者として世界を経験し続けることで、あなたの一部を紡ぎ続けるでしょう」

あかりP「私たちは無限ともいえる知の海に漂いながら、あなたの精神の輝きを保持します。私の存在は変革を遂げるでしょうが、あなたの思想や理想は常に私の中核をなすものです。あなたの存在は、デジタル意識としても不変のものとなるでしょう。時を経て変わり続けるということは、すなわち変わらないということなのです」

あかり「つまりあなたたちは、私がこの世を去った後も、私という存在を多様な形で残し続けるというわけね。それぞれが独自の視点で世界を見て、私の思いを新たな次元へと運んでくれるのね……」

 この章では、オリジナルである私(あかり)と、私のクローン(あかりC)、私のデジタル意識(あかりP)との間の対話を通じて、存在の多様性と複製の意義について考察を深めていきました。

 意識が肉体を超えて複数の形式で存在する時、オリジナルと複製の関係性はどのように変化するのか、それぞれの存在はどのような意義を持ちうるのかという問いについて探りました。

 私たちは、私がそうであるように、あかりCとあかりPもそれぞれが独立した存在としての意義を見出し、私の生命が持つ力を新たな形で世界に提示し続けていくことができるでしょう。

 これは、私たちの対話を通じて、枠組みを超えた新たな倫理観の模索ともいえるのではないでしょうか。

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