4-1.む・な・さ・わ・ぎ・の・は・な・し!!
ハープルから程近い森の中では――。
「た、たすけてくれえええええええ!」
「お前等は――血染めの山河!!」
ドラゴ達が分かれて調査を開始しようとしたところ、森の茂みから五人の男達が息を切らしながら現れた。
その者達は山賊、名を血染めの山河と言い、全員が激しく息を繰り返しながら青い顔を揃ってドラゴ達へと向けている。
「調査とは関係ないがここで――」
「それどころじゃねぇんだよ! お前等Sランクパーティの<ドラゴンテイル>だろ!? だよな!? やべぇんだって森にやべーやつ居て追われてんだって!」
血染めの山河の頭目、アッセンバーグは焦りの様相を呈しながらドラゴの防具を掴み、縋るように言葉を言い放った。
その様子に疑問と嫌な予感を覚えたドラゴ達<ドラゴンテイル>の三人は、まさかと思い事情を聞きだそうとする。が、それよりも先に、重い音が辺りに響き段々と接近してくる。
「アッセンバーグ! 何を見た、何と出会った!」
「どでかいミノタウロスだ! 多分だがアイツァ魔王軍四天王のクイダロスだぜおい! なんでこんなトコに居やがんだよ!」
「おいおいマジで居たのかよ……」
「どうする、ドラゴよ。ここで迎え撃つか。手負いならば我等三人で十分だろう」
「聖剣に選ばれた勇者様が勝てなかった相手よ? 手負いでも五分五分よぉ」
「手負いだぁ? 何言ってんだお前等? アイツぴんぴんしてやがったぜ? 手負いだってんなら俺達が逃げきれねぇわけねぇからな」
「「「……」」」
何処から来るんだその自信は、という思いと同時に、ドラゴ、ハイドゥ、エヴァーの三人は嫌な情報を聞いて押し黙る。
最近四天王となったクイダロスについては情報が乏しい、が、<ドラゴンテイル>の三人は王国北部の戦争に参加していた、クイダロスの強さはその目で直接見ている。そしてその際にどれだけクイダロスが負傷したかも眼にして知っている。こんな短期間で全快していい怪我ではないということも。
嫌な予感が、更に嫌気を増した、その瞬間――
「ぶるんふっふっふゥ!!!! 人間共の匂いがこっちからするぜェ!!!! さっきの五、いや増えて八だなァ!!!! 町の人間喰う前に前菜食うぜブルフフフフフフゥ!!」
――低く重い声と共に、先ほどまで聞こえていた重い音の頻度が上がった。確実に速度を上げながらこちらへ向かってきている。
「クソッ!! 森の中じゃ分が悪い! 一旦平原まで撤退するぞ!!」
「「ええ!! (了解)」」
「「「「「あじゃあ俺達はここでぇ」」」」」
山賊達は揃って手を上げながら、この場を全てドラゴ達に預けて逃げ出そうとした。
「テメー等も死にたくなきゃ付いて来い!!」
「「「「「へい……」」」」」
どういう因果か、Sランクパーティと山賊集団が一丸となり足並みを揃えて逃走を開始したのだった。
背後からは木々をなぎ倒す音が聞こえ、腹に振動さえ感じる足音を背に、八人はただ死なないために全力で走る。
その最中、発端となった山賊集団へドラゴは疑問を口にした。
「何でお前等追われてんだよ!」
「森ン中の地形把握しておこうと思って探索してたらよ――」
「なんかうすぐれートコにある大岩の周囲に剣やら槍やらモンスターの残骸があったんで――」
「こりゃラッキーって思って集めてたら――」
「実はその大岩って思ってたのがデケーミノタウロスだったんでさぁ――」
「随分風鳴りがうるせぇなぁって思ってたんですがね、ありゃミノタウロスのいびきだったってわけですよ――」
「「「「「普通気付くわけねーだろあんなデケーミノタウロスが居るなんてよ!!!!!!!!」」」」」
「この方達はよくもまあ今まで色んな騎士やハンターから逃げ延びて生きれていられたものねぇ……」
「ある意味での有名――勇者様から逃げ切る実力だけはある者達だ。バカだが悪運は強いのだろう」
「ブルハハハハ近い近い、匂いが近づいてきたぞォ!!」
「不味いッ!! このままでは追いつかれるぞ!!」
「しゃーねぇ、俺達だって命が惜しい。この森に張り巡らせた罠と、持ち合わせの逃亡用アイテム使って時間ぐらいは稼いでやるよ」
「だから倒してくれよ!? 頼むぜSランクパーティ!!」
「モンスターに食われるだなんてまっぴらごめんだからな!!」
「こいつ等うるせぇ……」
戦いの場は平原へ――そこまで、追いつかれずに持つかという攻防が、森の中で始まったのだった。
* * *
「嫌な胸騒ぎがするわね……」
オレが噴水の縁に座りヒューマンウォッチングをしていると、プニマと並んで菓子を食っていたビッ乳が急に妙な事を言い出した。
「口ですら騒がしいというのに胸も騒がしいのかお前は。主張するのならばその無駄なデカさだけにしておけ」
「おっぱいのでかさ弄るの止めろ。ただでさえこれ以上大きくなりたくなくてベルトと服で押さえてるのよ、アンタにこの苦悩が分かる? 分からないわよね男だものね」
「こ、これいじょうおおきく……!? ニュークミルさん、まだ成長してるんですか……!? うらやましいです……」
「羨むことなんて何一つないわよ、むしろアタシはぷ、ぷにまのちっちゃくて可愛い天使みたいな体が羨ましいわ……」
「お前の事だ、そう言いながらどうせ心の中では世の貧乳を見下しているのだろう」
「当たり前でしょ? 完璧な体型ですっごく可愛いぷ、ぷに、ぷにまだから羨んでるのであって、他の女なら問答無用で見下すわ。無いよりもあったほうが絶対に良いもの」
「本当にお前は良い性格をしている。
ところで――なぜお前はプニマの名を呼ぶとき一々詰まるのだ。耳障りだ、止めろ」
「……あ、それ、私も、気になってました……」
「ん!? べ、別に、友達の名前呼びなれてないからちゃんと名前呼ぶまで時間掛かるとかじゃないんだからね! というか今はアタシの胸騒ぎの話でしょ!? なんで脱線してるの!?」
「誰もお前の話を聞きたいとは言っていない。オレのヒューマンウォッチングの邪魔をするな」
「ただ噴水に座って三時間も過ごしてるだけじゃない……。そもそも何よヒューマンウォッチングって――じゃない!! む・な・さ・わ・ぎ・の・は・な・し!! ハンターとしてのこういう胸騒ぎって結構当たるのよ!! きっとドラ兄達に何かあったんだわ!」
「た、たいへんです……! デルコイノさん、たいへんですよ!」
根拠の無い言葉を心から受け取り信じたプニマは、あわあわしながらオレへと言葉を投げかけてきた。
だが、まあ、そういった胸騒ぎは結構当たるものだ。それが、肉親であるならば、ほぼ確実と言っても良いだろう。
兄の危機。それも、Sランクのハンター達に対して覚える胸騒ぎ。ただ事ではなさそうだ。
「ごめんなさいぷ、ぷにま! アタシちょっと森に行って来る!」
居ても立っても居られなくなったビッ乳は、すぐさまこの場を離れようとする。その様子を見たプニマも、緊迫した空気と緊張を感じ取ってオレへと顔を向けてきた。
その瞳に宿る意思は、オレに助けを、ビッ乳やドラゴ達への手助けを願っているのだろう。だが――。
「すまないな、プニマ。今日のオレは少々消耗していてあまり戦えない。何が起きているかは分からないが、ただ事でないということだけは理解している。助けに向かったところで邪魔になるだけだ」
「アンタも魔導師なんでしょ手伝いなさい!」
「ふむ――」
おかしい。オレは断ったはずなのに、何故かクソビッ乳に思いっきり手を引かれて体が浮き上がる。
さすがAランクハンターだ。オレの体一つを浮かせて走るのは容易らしい。だが――。連れて行かれる寸前に、プニマがオレの腰を掴んで付いてきてしまった。急速に流れる町並みの中で、そんなオレ達三人は住人達から眼を向けられながら街道のど真ん中を移動していた。
オレは足を地面に付け、土埃を上げながら抵抗をし、だが走行は止まることなく引き摺られる。
「おい止まれクソビッ乳。せめてプニマは町に置いていく」
「なに言って――ぷ、ぷにま!? 付いてきちゃったの!?」
「は、反射的に掴んでしまって……お二人と、離れるの、怖くて……」
「どうしましょうドラ兄達心配だけど大切な友達を戦場に連れて行くわけにはいかないしうんすぐに宿屋に送るから!」
「ぁわ――!!」
速度を上げたビッ乳は、足から炎を噴出しながら更に速度を上げる。
この女、純粋なスキルで戦う剣士ではないな。魔法、火属性の魔法を使えるようだ。その魔法を利用して推進力を生み出している。
物凄い速度だ、プニマもこの風圧は辛かろう。オレは右腕でプニマを抱きかかえながら体を宙に流して引っ張られる。そうして、町を駆け抜け息をつく間もなく宿屋までたどり着くと――
「デルコイノさーん! ニュークミルさーん! どーかお気をつけてー!」
――遠ざかる声を聞きながら、プニマと分かれオレは無理矢理に戦場へと連れ出されたのだった。
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