3-2.アゥン

 整った石畳を踏み、穏やかに流れる人波の中でオレ達三人は町を歩く。


 プニマが気になった店を見たり、町の景色に感想を言い合ったり、小道に入ってみたり――しているが。一人変な奴が居る。


 ずっと背筋を伸ばしたままガチガチに体を強張らせて、右手右足、左手左足を同時に出しながら歩いている滑稽な女がな。


「ニュークミルさん、さっきのお店――」


「アゥン」


「噴水綺麗でしたね――」


「アゥン」


「大道芸人さんの芸凄かったですね――」


「アゥン」


 町歩きを開始してから、ずっとこの調子だ。首を縦に降っては変な声を出して返事をするだけの変な奴が居る。


「……ニュークミルさん……もしかして、楽しくないですか……?」


「アゥ――ううん!? べ、別に楽しくないわけじゃないんだかね! 勢いで誘ったは良いけど友達とどうやって話をしながら町を歩けば良いのか分からないわけじゃないんだから! 緊張なんてしてないんだからねしてるわよ!」


「良かったぁ……。実は私も、少し緊張してたんです……。でも、ニュークミルさんも一緒だったんですね……。少し、ほっとしました」


「アゥン」


「やれやれ、見てられないな。見ていられないから置いていこうではないか」


「じゃあぷに、ぷ、にま、の事置いていってね。アンタだけ先に行ってなさい。アタシはぷ、ぷにまと一緒に行きたい所があるからここでお別れよ」


「ニュークミルさんの行きたいところ……? って、何処ですか?」


「恐らくGスポ――」


「アゥン」


「い、いえ、あの、行きたいところ……」


「アゥン」


「……? ……? ……?」


 どうやらプニマは初めてみる生物の生態が分からず困惑しているようだ。それもそうだ、誰がアゥンの鳴き声で意志を汲み取れるというのだ。啼き声をあげたいのならベッドで上げていろ。


「――……ちょっとアンタ、こっち来なさい!」


「ふむ――」


 オレは唐突に腕を引かれて、道の建物沿いに顔を付き合わされた。さすがビッチだ、男を強引に連れ込む手法には長けているな。


「アタシ、もっとぷ、に、ぷにまとお話したいの! 手を貸しなさい!」


「断る」


「そう。

 それでまずは本屋に行きたいのよ。友達との付き合い方が書いてある指南書を買いたいの。それさえ買えればぷ、にま、と、おしゃべりできるはずだわ! だから、本屋に行きたいって伝えて!」


「断る」


「任せたわよ」


 オレは背中をドンと押されてプニマの前に立たされた。


「ふぅ、やれやれだ。プニマ、どうやらこの女は人の手を借りながらおしゃぶりをしたいらしい。そして本屋でイきたいそうだ」


「……?」


「何言ってんのよアンタ!? アタシは本屋“に”行きたいの!」


「本屋……! 私も行きたいです……! 一緒に行きましょう……!」


「アゥン」


 オレ達は三人で町を歩く。本屋のある場所を、オレが尋ねながら、住人に話を聞きながら、プニマの為に本屋を探す。


 そうして見つけたのは、低い本棚と筆記用具が並ぶ、本屋と文房具屋を兼任している店だった。売り場の半分は多くはない本が置いてあり、もう半分はインクの瓶や羽ペン、ガラスペンなど文具を売っている店。


 本は新品というよりも古本が多く目立ち、紙とインクの匂いが店にの中にふわりと香っていた。


 誰でも使える機械的な活版技術はまだ、地方の土地には用いられていないからな。どちらかというと、魔法的な転写を用いて量産することが多い。だが、寧ろ、地方だからこそ珍しい叡智本が眠っている可能性が高いのだ。


 さてさて、少し物色をさせてもらおうではないか――。


 オレはマニアックな本が無いかと、本棚に眼を走らせる。オレの視界の端では、プニマと並びながらビッ乳が必死に本棚に眼を向けていた。


「――これ、じゃなくて――これ、でもなくて……え、どうして友達に関する指南書が無いの……? 皆困ってるはずでしょ……?」


「おともだちに関する指南書、ですか……? そしたら、わたしも、ちょっと、欲しいです……。お友達、居なかったので……」


「――――なんですって……?」


「すこし、事情があって……家で過ごす事、多くて……。だ、だから、私、ニュークミルさんと、お友達になれるって、思ったら、うれしくて、でも、緊張しちゃって……。で、でも……! 初めての、お友達……欲しくて……こ、これから、旅人、として、色々あるなら、ここで、怖いけど、勇気出してみよう、って……!」


「は、はっ、はぁぁぁぁああああああ! ……ふーん。そ。私は? 百人くらい友達いるけど? でもふーん? ぷに、ぷにまにとって、アタシが始めての友達なんだふーん? しょ、しょうがないわね、友達百人居るアタシがぷい、ぷにまに友達との接し方教えてあげても良いわよ?」


「ほんとですか……! あれ……? でも、そしたらどーして指南書を求めてるんですか……?」


「そ――そ、れはもちろんぷ、に、まにま、ぷにまにプレゼントするためよ! アタシくらいの友達プロになればふ、ぷにまに友達が居ない事くらいすぐ見抜けちゃうんだから!」


「ふくざつなことみぬかれました……」


「!? ……!?」


 ふむ。どうやらこのビッ乳、強気に振舞って相手にマウントを取るようなコミュニケーション手段か突き放す言葉でしかまともに会話ができないようだ。無遠慮な言葉を言い放ったせいでしょんぼりしたプニマを相手に、どうしたら良いのかが分からず困惑しては手をあたふたさせている。


 しょんぼりプニマは見ていられないな、見ているとこっちまでしょんぼりしてしまう。


「プニマよ、そうしょげるな。このビッチにまともな友達が居るはずが無いだろう。もしかりに居たとしてもセが付くフレンドだ。寧ろ居る事がマイナス、ゼロのキミはマイナスを相手にマウントを取って良いのだぞ」


「そ、そんなことしませんよ!?」


「おいビッ乳、プニマに謝れ。人と話す際には言葉を選び、相手を不快にさせない話し方で会話をしろ。プニマが友となりたいと思っているならば、お前はその思いに真摯に答える義務がある。プニマがお前に合わせるのではない、お前がプニマに合わせろ」


「くぅ……! アンタにだけは言われたくないのに正論ぽいこと言われてるから反論できない……! …………ごめんなさい、ぷに、ま……さっきの言葉は失礼だったわ」


「い、いえ! お友達が居ないのほんとーの事ですから……。

 えへへ、でも、一人目の友達、ニュークミルさんです」


 プニマの心は海よりも広いらしい。先ほどの失礼を水に流し、更には笑顔でビッチの手を取って微笑みかけている。


「でっれっへっへっへ……」


 対してビッ乳は顔を後ろに向けて変な声を出していた。股も声もだらしの無い奴だ。


「どーしたんですか? ニュークミルさん」


「別に?」


 グリンと顔を戻したビッ乳は、極めて冷静な表情のまま言葉を言い放つ。


 見たところ、ガッチガチの緊張感が抜けきっている。が、それは、プニマ相手にマウントを取れる――いや、この女、プニマに友達が居ないと知って、親近感に似た思いを抱いているな。


 人付き合いが苦手な癖にプライドが高いクソビッ乳は、プライド故にプニマの前でみっともない失敗をできないからと今まで緊張をしていたが、そもそも友達が居ないプニマを相手に失敗することなどないと踏んで安心をしている。


 人と関われない者は人との関わり方や順序を知らず、詰め寄り方もおかしい奴が多い。プニマとの関わり方を見るに、コイツもその類の人間だろう。


「もう指南書なんて要らないわ! 今日は全部アタシに任せなさい!」


「は、はい……!」


 見栄とプライドとは恐ろしいものだ、自信のないことを自信満々に言い放てるとはな。年上としてプニマに良い所を見せたいのか、それともただ単純に自分が人間関係において上の立場になりたいのか定かではないが、とにかくあの女は何事においても虚勢が先行するようだ。


 ――――。


 ――なに? 愛する右手デクストラアマータ。オレも二人がもっと仲良くなれるように協力してやれと? ふむ……まあ、キミがそう言うならば仕方がないな。


 自信満々に歩き出したビッ乳にオレとプニマは付いていき、店を出て町歩きを再開した。


「ニュークミルさんニュークミルさん! お聞きしたいことがあります……!」


「どんと来なさい、何でも答えてあげるわ!」


「ニュークミルさんは休日やお友達とお出かけするときにどんなお店に行くんですか?」


「……」


「ニュークミルさん綺麗でオトナっぽいから、きっとオシャレなカフェとかオトナなお店とかいくんですよね……! 私、憧れちゃいます……!」


 純粋無垢なプニマは憧れを持ってキラキラした眼を向けている。が、質問の内容は悪魔的な残酷さを秘めていた。


 ビッ乳の見た目だけは確かに綺麗だ、顔も整っていて駄肉もでかく、足も長い。そしてAランクハンターという地位も確立している。プニマから見れば独り立ちをしている大人なお姉さんとでも見えているのだろう。


 ただし――


「お出かけは――そうね、武器屋行って、防具屋見て、本屋寄って、武器屋見て防具屋寄って本屋見て、武器屋防具屋本屋武器屋防具屋本屋――」


 ――あぁ、壊れてしまったではないか。コイツは男と寝る以外の生活ボキャブラリィが貧弱のようだ。


「ス、ストイックです……! Aランクハンターさん凄い……!」


「そ、そうよ! アタシはストイックなハンターなの! 友達と遊んでる暇なんて無いんだからね!」


「早速矛盾し始めているではないか。

 やれやれ……。プニマよ、この女は友達など居ない。昼間の遊び方も知らない。そもそも先日、ドラゴがコイツには友達が居ないといっていただろう」


「え、で、でも……さっき、百人居るって……。ドラゴさんが知らないだけで、きっとたくさんいます……! だって、ニュークミルさん綺麗でカッコいいですもん! お友達たくさんいてもおかしくありませんもん!」


「おいクソメス。こんな、お前の口から放たれたでまかせを真摯に信じようとしてくれている純粋な子に対して嘘を付き続ける気分はどうだ」


「……心が悲鳴をあげてるわ……ッ! でもしょうがないじゃない……! 今までずっと舐められないような態度で人と関わってきたのよ……ッ! 急に変えることなんてできないの……例え、ぷにぷにぷにまの前であっても……!」


「ニュークミルさん……? どーしたんですか……?」


「プニマ、キミは人へ信頼と期待を向けすぎだ。無垢な心は美徳だが、同時に危うさでもある。疑うという事を知ったほうがいい」


「あやうさ……うたがう……。…………そ、それでも、私、信じたいって思った人を、信じたいです……。優しくしてくれる人、良い人だから……」


 プニマは汚い世界を知っても尚、心が綺麗で在れている。きっと、両親の育て方が良かったのだろう。性悪説よりも性善説を信じて止まないような良い子ではある。


「ビッ乳も偽りの見栄を張るよりも正直な言葉で話せ。身は裸になるのが得意だろう、その要領で心も裸になれば良いのだ」


「死ね。

 正直な言葉……心を裸に……。……折角友達が出来たのよ、アタシ。ここで変わらなくてどうするの、ぷに、ま、は、良い子、アタシを舐めたりいやらしい目で見たり女でソロハンターって笑ってきたりおっぱいをバカにしたりしてこないとってもいい子……。よしっ」


 なにやら口に手を当てブツブツと呟いていたビッ乳は、気合を入れた声とともに顔を上げると、プニマへと視線を向けた。


 心を裸にし、正直な言葉で話す決心がついたようだ。


「へっ、へへ、ぷ、ぷにまは可愛いなぁ……お、お、お姉さんとお友達に、なってくれて、あり、あり、ありがとぉねぇ……へへへ」


「事案だろう」


 どうやら本心を丸出しにして良いわけではないらしい。コミュニケーションが苦手な奴特有のニヘラ笑いと言葉の詰まり方をしながら話している。傍から見れば不審者がプニマを見て興奮しているようにも見えなくは無い。


「あわ!? ニュ、ニュークミルさん!? えと、あと、こ、こちらこそありがとうございます!?」


「よくこの顔と言葉を前に律儀にお礼を返せるものだ、キミの清さは留まるところを知らないな。おい、ビッ乳、もう少しシャンとしろ」


「はぁ……はぁ……実はね、お姉さんね、友達居ないの……ぷ、ぷにまたゃんが初めてのお友達なんだぁ……だから、あーんなことや、こーんなこと、はぁ、はぁ……二人でしたいなぁ……」


「ぇわ……! そ、そうだったんですか……!? えとえと、えと、えと!?」


「ふひひ……へへ……」


 ビッ乳の豹変した姿と、語られる真実の両方に困惑しているプニマは、あたふたしながらどちらを優先して言葉を発すべきか迷っていっぱいいっぱいになっている。やれやれまったく、どうしてプニマはこれほどまでに健気で可愛いのか。


「止まれビッ乳。殻を破って正直に話したことは評価してやろう。だが、相手の事を考えず一方的に話すな。相手の反応を無視して自分の言いたい事、話したい事をただひたすらに話すなどモテない男がする会話の特徴そのものだぞ。本当に会話が上手い者は話が上手い者ではない、聞くのが上手い者だ」


「聞く……? 話ってどう聞くんだったかしら……?」


「お前はどれだけ一方向のコミュニケーションばかりをしてきたのだ。さぞベッドの上では一人ヨガりな叡智をしていたのだろう、やはり愛のない奴はダメだな」


「ぷ、ぷにま、アタシになんでも話しなさい! ちゃんと聞いてあげるから!」


「あ、そ、そしたら、早速お聞きしたいことが……。先ほどのお顔や話し方は一体……」


「別に? 勘違いしないでよね、ぷ、ぷにまが可愛いくて仕方がないからああなっただけ!」


「可愛いだなんて……そんな……」


「可愛いの、すっごく可愛いの! ホント可愛いわぁ、小さくて素直っていう、アタシに無いモノ持ってて……ああなるのも仕方がないじゃない」


「そ、そんな……。……照れちゃいます……」


「かーわーいーいー! はぁ可愛いゥ! ……勘違いしないでよね、アタシがこんなになるのなんて、ぷ、ぷにまだけなんだからね!」


 勘違いするなというのならば勘違いさせるような言動をしろ。もはや口癖に成り下がってるではないか。


「私、だけ……ふふっ……。ニュークミルさん、ありがとうございます」


「お礼言われた可愛いッッッ! あぁ゛! 友達って最高! 友達って素晴らしい! 世間は知らないでしょうね、友達ってこんなにも至高の存在だという事を!」


「殻を破ったと思ったらワールドワイドでマウントを取り始めたな。根底にある性(さが)は変わらんようだ」


「アンタは友達の素晴らしさ知ってるのかしらぁ? てか、友達居るのぉ? いなさそぉ」


 友達が一人出来た途端に下を探し始めるこの浅ましさ。ビッ乳云々を置いておいても人としてどうかと思うぞ。


「オレに友は――……」


「……で、デルコイノさん……?」


「――旅をしているとどうしても友というよりは知り合いの方が多くなる。故にオレに友は居ない」


「あーっはっはっは! かわいそーな人ねぇ! 友達居ないの? 居ないんだぁ? それって人としてどーかと思うわアンタ性格に問題でもあるんじゃないの?」


「お前ほどではない」


 高笑いを浮かべて勝ち誇るビッ乳。その姿を、神妙な面持ちをしていたプニマがきっと睨んだ。キッ、とではない、きっ、と。


「ニュークミルさん。今の物言いはどうかと思います」


「……」


 まさかプニマから、確かな意思を持ってこのような事を言われるとは思っていなかったのだろう。ビッ乳は膝から崩れ落ちて絶望の表情を浮かべるとともに、土下座をしてきた。色々と触れ幅が酷い奴だなこの女は。


「おねがい見捨てないで謝るからアタシちゃんとごめんなさいするから友達で居てくださいお願いします……」


「――。あっ……! わ、私、ちが、言い過ぎましたごめんなさい!」


 ビッ乳があまりに迫真の声色で反省の言葉を述べるものだから、正論を言ったプニマが罪悪感を覚えてしまったではないか。


 どうやら二人の主導権はプニマが握っているようだ。プニマがたずなを握っているのならば、今後何があろうともプニマがビッ乳から悪い影響を受けることは無いだろう。


「アンタ、さっさと許しなさい。じゃないとアタシぷに、ま、に、見捨てられちゃう……」


「元よりお前如きの挑発に怒りなど抱いていない。さっさと顔を上げて立て、往来で土下座などしていたら変に目立つだろう」


「ぷ、ぷにま、もう怒ってない? アタシのこと見捨てない?」


「見捨てるだなんてそんな……! ……一人は、寂しいです。私は、ニュークミルさんと出会えて嬉しかったです、ニュークミルさんにも、出会って嬉しかったって、思って欲しいです……二人一緒のお友達で居たい、です」


「ぷ、ぷにま……!」


 落ち込んだ様相は何処へやら。眼を爛々と輝かせたビッ乳は服や髪を浮き上がらせながら元気に立ち上がると、プニマの言葉に感激して手を祈るように胸の前で合わせていた。そのせいで駄肉が腕に押されてむっちりもっちりとしている。下品な女だ。


「で、でも、人をバカにして笑うの、ダメ、です……!」


 はぁ、プニマはささやかな胸の前で腕をバッテンにして意志を示している。なんと上品さ溢れる美しい所作なのだ。


「もうしない、絶対にしない! ぷにま天使に誓って約束するわ!」


「はい、約束、です……!」


 むんとした表情のプニマと、必死の様相のビッ乳は互いの顔を見合いながらしっかりと約束を交わした。身長差や見た目の年齢の差は有れど、どちらも小さな子供のような雰囲気で向き合っている。


「ふむ。仲が良いようで何よりだ」


「……ねえアンタ。さっきから気になってたんだけど、急に協力的になったじゃない。なに? アタシと友達になりたいの?」


「ほざけクソメス。オレはこの右手、愛する右手デクストラアマータから言われて協力したに過ぎない。ああ、勿論初めからプニマに協力する気は有ったが、お前にも仕方なく、という意味だがな」


「えぇ……前半何言ってるのかさっぱり分からない……」


「アマータさん……! ありがとうございます!」


「あまーたさん……」


「ふっ。気にするな、と言っている。――ふむ、愛する右手デクストラアマータがキミと手を繋ぎたいようだ。良いかな」


「はい! アマータさん、おいでー」


 プニマが両手を開いて受け止めるように差し出すと、愛する右手デクストラアマータはその手にそっと降り立ち、優しくぽんぽんと撫でてから左手を握った。


 なんと小さいお手手なのだ。細く、柔らかく、華奢な少女の手。この手で扱かれたらさぞ気持ち良いことだろう。この感触は一生の宝物として脳内に保存しておこう。愛する右手デクストラアマータがにぎにぎとすると、プニマもにぎにぎと返してくれる。この行為だけで数時間は過ごせそうだ。


「あっ! ずるい! アタシも手繋ぎたい!」


「断る」


「アンタじゃない! ぷ、ぷにまとよ!」


「はーい。ニュークミルさん」


「はぁぁぁおててちっちゃいかわいぃ……」


 差し出された右手をすぐさま握ったビッ乳は、ヘンタイのような感想を呟いてプニマの手の感触を味わっていた。そんな不遜な思いで手を握るなど、本来ならば今すぐにでも蹴り飛ばしたいが、プニマが望んでいる事だ。邪魔はしないで置こう。


 こうしてオレ達三人は、並んで手を繋ぎながら町を歩き始めたのだった。

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