2-3.勇者と四天王
「改めて自己紹介を。俺の名はドラゴ、Sランクハンターだ。この町にはパーティメンバーと共にとあることを調査するため足を運んでいる」
Sランクハンター。ハンターの中でも限られた者しか到達する事の出来ない最上の地位だ。そうそうお目にかかれる者でもないというのに、偶然こんなところで出会えるとはな。そして――そんなSランクのハンターがわざわざ赴いて調査をしているとなると、なにやら不穏な空気を感じる……が。まず、何を考えるよりも挨拶をされたのならば返さなければな。礼儀は大事だ。
「改めてオレも、デルコイノだ」
「ぷ、プニマです……! デルコイノさんと一緒に旅をさせていただいてます、よろしくお願いします……!」
「こちらこそよろしくね。
お互いの紹介は軽くで終わらせよう、早速だが本題に入らせてもらう。先日、この町の近くで魔王軍との小競り合いが起こったと報告があった。もしかしたらだけどよ、四天王の一人クイダロスが潜伏してる可能性があってな――」
四天王。魔王軍の最高戦力四人を差し、個人個人が国を揺るがす力を持っている。六年前からずっと欠けていたはずだが、ようやく補充されたのか。
オレが知っている現四天王の名は、カマキリヤイバ、ドリームフォールン、デストルドの三人。ドラゴが言った、クイダロスという名は聞いた事が無い。そいつが新しく入った奴の名なのだろう。
「何故四天王が城を離れてこのような町に。ここはアウギュス王国の東部、魔王国の領土は王国北部と面しているはずだろう。距離があまりに遠すぎる。
……だが何よりも。世界各地で進行が行われているとはいえ、四天王が重要拠点を離れるとはただならない事情があるとしか思えんな」
奴等四天王はよほどのコトが無い限り、魔王城から離れることはない。だというのになぜ、このような町を狙い潜伏している“可能性”があるのだ。
「実は…………かの聖剣に選ばれた者、今代の勇者様がこの国に訪れているんだ。魔王はそれを察知したんだろう、四天王が一人クイダロスと多くの兵を送り込んで、王国の北東部にて両陣営が衝突し、戦争が起こったんだ。そのせいでこっち側……アウギュス王国にも甚大な被害が出た、勇者様達御一行も深手を負われてしまい現在療養中だ。
ただ……いや、ここは言葉を選ばずそのまま伝えよう。勇者様達は四天王と戦い、互いに大きな傷を負った。だが倒せてはいない、仕留め損ねたんだ。戦自体には勝ち星を挙げたが、四天王を倒せず逃がし、残党と共に王国内に潜伏させてしまった」
「……成る程な。負傷中のクイダロスは敗残兵と共に逃亡中、魔王国に戻ろうとも国境では王国軍が監視の目を光らせていて戻れず、アウギュス側にて潜伏する判断をした。故にキミ達のような力のある者が王国中を捜索しているというわけか。この町だけではない、もっと広い範囲で相当な数が動いているのだろう」
「ご明察。今回は見た目に見合った賢さを見せてくれて嬉しいぜ」
「……? ……?」
プニマはいまいち理解が追いつかないようだ。それも仕方がない、先日まで平和に暮らして居たものが、話を聞いただけで戦の情勢を思い浮かべることなどできないのだから。
「プニマよ、面白くない話を聞いているよりも茶や菓子を食べたほうが楽しいだろう。待っていろ、買ってくる」
「俺が買って来ようか? 何が良いプニマちゃん、何でも言ってよ」
「い、いえ……! ちゃんとお話聞きます……! しっかり、理解します……!」
「ふむ……ならば。
国を脅かす力を持った猛獣が大怪我を負っている状態で逃げ、縄張りに帰れず、この国の何処かをほっつき歩いているらしい。とっても危険だから皆で捜索しなければ、となっているのが今の状況だ」
「な、なるほどです……!」
口と表情をキュっとさせて一生懸命に理解を示したプニマ。健気だ、天才だ。
「となると――ドラゴ、キミはこの町周辺での異変を元に四天王へと繋がる情報を探しているというわけだな」
「そういうことだ。ってなわけでデルコイノがさっき言った――」
「モンスターが街道に姿を現した、という話を詳しく聞きたいのだろう。
奴等もバカではない。奴等は人が通る道へ姿を現す危険性を理解している。だというのにも関わらず姿を現したということは、縄張りの移動か、もしくは何かから逃げようとしているのか――が、今回の主題となるぞ、プニマ」
「は、はい……!」
「お前さん急にまともになったなぁ……。そう、正にその異変こそ、俺達がこの町に留まってる理由なんだ。
多くの情報が寄せられている訳ではない、大災害の前触れのように動物やモンスター達の大移動が起きているわけでもない。だが、確実に些細な異変が起きている。
取り越し苦労ってんならそれでいいが、取り越し苦労じゃ無い可能性だってあるんだ。
それに、生態系が乱れるということは、四天王でないにしても何か強い力を持った者が現れたという証拠でもある。ハンターとしては事件が起こる前に討伐しておきたい」
「ならばオレはキミ達が絞り込めるよう、街道にてモンスターを確認した位置を教えれば良いわけだな」
「ああ。現状じゃ近郊の森で何かが起こっているという所までは絞り込めたが、そこからがどうにも……な。こっちも手分けして捜索をしているんだが、あンの『血染めの山河』共が……クソ、森中にトラップしかけてて邪魔なんだよ……ッ!」
悔しさ交じりに語るドラゴだったが……ふむ、トラップ……か。たったそれだけの事でSランクハンターの障害になりえるとなると、奴等は相当な手練れの山賊集団だったのか。無傷でプニマを助けられて良かった。
「あれ……トラップ……? デルコイノさんは大丈夫だったんですか……?」
「勿論引っかかったが、森の戯れかと思っていた」
「…………はい!」
プニマは元気な返事を返してくれた。
「プニマちゃん、はいじゃないよ、俺何も理解できなかったよ」
「きっとデルコイノさんは『不測の事態に遭遇しても冗談を言えるくらいの余裕を忘れず、寧ろ楽しむ気持ちで危機的状況をプラスに考えろ』って言ってくれたんだと思います! とっても参考になります!」
「ふむ、キミなりのとんでもない解釈である意味の正解に至ってくれたようだな。それも旅人として持つべき一つの心得だ」
「じゃあ違うって言ってるようなモノじゃないか……。プニマちゃん、自分の中で解釈するのも良いけど、分からないことはまずちゃんと尋ねたほうが良いよ」
「え、っと、はい……! デルコイノさん、先ほどの言葉の真意を教えてください……!」
「言葉通りの意味だが?」
「????」
「バカと天才は紙一重っていうけど、紙を突き抜けて混ざっちゃった狂人なのかもしれねぇなぁ……。けど、実力は確かなんだもんなぁ……。
デルコイノ。お前さんも今回の調査に協力しちゃぁくれねぇか? 報酬はちゃんと出すからさ」
「断らせて貰う。オレはプニマと共に町を散策し、ヒューマンウォッチングをしなければならないのだ。それに、だ。もしオレが調査に手を貸すとして、その間はプニマが一人になってしまうではないか」
プニマは散々怖い思いをして、ようやくオレという拠り所を見つけてくれたのだ。そのような子を放ってまですることなど、何一つとして有りはしない。
「デルコイノさん……。……。……私、一人でお留守番できますよ? 危ないことが、町に近づいてるなら……」
「一人でお留守番が出来るといって二人一緒に居てはいけない理由にはならないだろう、今オレが優先したいのは何よりもキミと一緒にいることなのだ、キミのコトしか考えられない、キミと一緒に町を歩きたい。
キミはその、人を慮る事の出来る優しい心は大切にするといいが、自分自身のことも大切にすると良い」
「……はぃ……」
少し強く言い過ぎたようだ、返事と共にプニマが俯いてしまった。
プニマが、俯いて、しまった……。言いすぎた……か……?
「お前さんどうした、真顔で俯いちまって……?」
「いや、なんでもない。そう言う訳でオレは調査に手を貸すことは出来ない。情報提供と言う形でだけ協力をさせてくれ」
「そんだけでもありがたいってもんよ。じゃあ早速地図に――」
ドラゴはすぐさま腰のポーチから地図を取り出し、テーブルに広げ準備を始めた。
……今のうちに何か甘いモノでも買って来よう。
そうして、オレはそっとプニマにクッキーと紅茶を差し入れ、その後にドラゴへと情報を渡して地図にマーキングを書き入れて行った。
* * *
デルコイノとドラゴが情報の擦り合わせをしている最中、他の場所では――。
森の中にある洞穴。血染めの山河が拠点としている場所では、手下四人とアッセンバーグが金品を数えながら言葉を交わしていた。
「お頭ぁ、そういえばまーた仕掛けた罠ぶっ壊れてましたぜ。不気味ったらありゃしませんよ」
「頭の良いサルでも居んだろうよ。っつっても、俺達が拵えた罠なんざ相当頭の良いサルじゃなけりゃ逃げ出せねぇがな」
「いや……アレ逃げ出すために壊して解除したってより……手当たり次第に引っかかってぶっ壊したって感じなんでさぁ……。なぁ?」
「あぁ……。猛獣ですぜ猛獣、きっとこの森には恐ろしいモンスターが住んでて……ひぃぃ、こえぇ……」
「だったら御の字じゃねぇか。つえーモンスターが居るってことはそれだけ人間から隠れ住みやすいってことになる。ありがてー話しだぜ」
「で、でも、俺達が襲われちまったら……」
「ガハハ! そんときゃ逃げりゃぁ良いのよ! 勇者共から逃げたときみてーにな!」
「そ、そうですね、そうっすね!」
「俺達血染めの山河は勇者だって怖くはねぇ!」
「だって逃げれば良いんだから!」
「「「「「わっはっは!!」」」」」
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