2-2.性棒

 気合の篭った健気な返事を聞いたオレは、足を進めて木の扉を開けて中へと踏み入る。


 小規模の会堂のような建物の中には戦う装備で身を固めた者達が集まり、依頼の受注や選別、納品を行っていた。


 入り口から向かって左手には食堂も併設されているが、そちらは後。まずはハンターズギルドにて行うべき情報の収集をプニマに教えるとしよう。


 彼女は武や力が集まるこの場所に気圧されているのか、少し怯えた様子でオレの側に付いている。


「そう怯える必要は無い。この場に居る者達は皆血気盛んだが、敬意には敬意を、礼儀には礼儀を返してくれる者達だ。失礼を働かなければ絡まれることはない。それに、だ。今後旅をするのならば、怯えるよりも堂々としていたほうが何かと得だぞ、侮られずに済む」


「うぅ……どうどう、と……むぅ……!」


 プニマは引けていた腰をしっかり伸ばし、胸を張ってこの場に立った。偉い、天才だ、なんて飲み込みが早いのだ。


「ハンターズギルドにおいて見るべき点は三つ。声を掛けやすそうな者、依頼張り出だしのボード、指名手配犯が書かれている人相書き。この三つを頼りに情報を得る」


 プニマの返事を聞いた後、オレは壁に張り出されている人相書きの場所まで移動してここら周辺にて警戒しなければならない人物を頭に入れる。


 二人で並んで見ていると、横に立っている斧を担いだ戦士風の男に声を掛けられた。


「よぉにーちゃん、ここいらじゃ見かけない顔だな。別の町から来たハンターかい?」


 声色や態度は優しいが、見た目がドが付いてしまうほど厳つい。戦士として纏う風格や装備もさることながら、元々の顔がそもそも厳つい。彼に脅され迫られてしまってはオレも夜のネコちゃんになってにゃんにゃんと啼(な)いてしまうことだろう。


「いや、オレは旅をしている真童師だ」


「そうかそうか、魔導師か。だったら忠告も必要ねぇだろうけど、一応気をつけときな。最近ここいらの森にゃ色んな意味で有名な『血染めの山河』っつう山賊集団が流れてきて幅効かせてるからよ。お嬢ちゃんも気をつけるんだぞ?」


「ひぅ、は、はい……」


「あぁっと、怖がらせちまったな……どうにも俺ぁ子供から怖がられていけねぇなぁ……」


「あ、えと、怖がってごめんなさい……」


「こっちこそごめんなぁ……」


 この戦士風の男、どうやら一際人間性が出来上がっているハンターのようだ。子供相手に優しく接しようとしてはいる。だが、見た目が厳つく筋骨も隆々なため、どうしても威圧感というモノが生じてしまい怯えられてしまうのだろう。


 本当にガッチリムッチリとした体をしている屈強な戦士だ、立っているだけでも相当の威圧感がある。恐らくだが、この者は相当な手練れのハンターだろう。ハンターのランクはF~Sまで存在するが、彼は低く見積もってもB、もしかしたら人外の領域と呼ばれるSの可能性もある。だが、ここまでスケベな体をしているならスケベのSでSランクハンターと断定しても良いだろう。


 しかし、ふむ……気になる名が聞こえてきたな……。


「『血染めの山河』か。どこかで聞いた事があるような気もする……」


「あちこち旅してるってんなら知らなくても仕方ねぇよ。これ、コイツが頭目のアッセンバークだぜ」


 そう言って戦士風の男が指した人相書きには、見覚えのある顔が描かれていた。


「あっ……! 昨日の人……」


 どうやらプニマも、この顔を見てようやく思い出したようだ。例え有名な山賊であっても、町で平和な暮らしをしていたプニマにとっては馴染みない情報だ。加えて、昨日は疲れと混乱、恐怖で名などまともに記憶をしていなかったのだろう。


 手配書を経てオレもプニマも思い出す。そしてプニマの発言を聞いた戦士の男は、訝しげな顔をしながら口を開いた。


「昨日の……?」


「ああ。先日遭遇した。が、寸での所で被害が出ずに済んだ」


「そうかい……あんちゃん賢そうな見た目してるし、魔導師としても実力がありそうだ。命があって何よりだよ。

 ああそうそう、おせっかいとしてもう一つ忠告しておくんだが。なんでも、近くの森にヘンタイが出るらしいんだ」


「ふむ。そちらとは出くわしていないな。良ければ話を聞いても良いか」


 ヘンタイも言わば危険人物のようなものだ、話を聞いておくに越したことは無い。


「良いぜ。全裸で湖畔に佇んでたり森ん中駆け回ったり、商人や通行人に裸で迫ったりと――まぁ、上げればキリが無いほど町に報告が来てるんだ」


「ほう……。個人の趣味をとやかくいうつもりはないが、そいつには常識が備わっていないらしいな。どのような性癖であっても人様に迷惑をかけるようなことをしてはいけないだろうに」


「……」


 ふむ、何故だかプニマから視線を感じる気がするな。旅人としての振る舞いを学ぶべくオレを必死に見ているのだろう。健気な子だ。


 そうやってオレと戦士で言葉を交わしていると、ギルドの職員らしき人物がボードの前まで歩いて来て、手に持っている紙を人相書きが張られている場所に追加しようとし始めた。


「おっ、噂をすれば。さっき話したヘンタイの人相書きが出来上がったようだぜ」


「ふむ。一応だが覚えておくか」


 どのような危険性であっても、危険人物は危険人物だ。情報としてしっかりと記憶しておこう。


 故にオレと戦士風の男、プニマは三人揃って新しい張り出しに眼を向ける。横では、何故かギルド職員の女性がギョッとした顔でオレを見てくるが、まぁ、女性からそのような眼を向けられるのも興奮するな。


「どらどら。へー、あんちゃんにソックリな銀髪で……何々、注意事項、こちらの絵は裸ですが、黒いローブを羽織ってる可能性あり、か」


「肩口までの人相書きだが、まさか全裸で描かれてるとは。滑稽な者も居たものだ」


「おお、あんちゃんにソックリな凛々しくて賢そうな顔してんな」


「うむ、特徴が良く似ているな」


「へー……身長は百八十前後……あんちゃんと同じくらいだな……」


「うむ、まるでオレではないか」


「「……」」


 オレと戦士風の男は、互いに無言になりながら顔を見合わせる。


「お嬢ちゃん!!」


「ひゃわ!?」


 ――瞬間、戦士風の男はプニマの手を引いて背中に隠すと、オレに向かって武器を向けてきた。


「お、お前! お前だろこれ!? こんな小さい子連れて何しようとしてたんだ露出狂のヘンタイ野郎!!」


 戦士風の男が大声を放出(だ)した精で周りから注目が集まる。だが、それでなくても、振り向いてようやく気付いた。何やらオレの周りには大勢の者達が集まって取り囲んでる。


「なんだ、よってたかってオレを襲うつもりか。ならば待て、ケツを洗ってこよう」


「首を洗って待ってろってでも言いたかったのか!? どんな言い間違いだよなんもカンも間違ってるぜおい!? このあんちゃん見た目だけだぞ賢いの!!」


 やれやれ、言い間違いなどしているわけが無いのだがな。そう反論したい気持ちは山々だが、この場の本筋はソコにはない。誤解を解いてプニマを返してもらわなければ。


「貴様等良く見ろ。この人相書きとオレを見比べれば別人だということが一目瞭然だろう」


「同一人物だってことが一目瞭然なんだよ!! 何処が違うか言ってみろよぉ!!」


 敵意と武器をむき出しにした集団、その中でも女性陣はプニマを優しく保護してオレの元から遠ざけようとしてくる。オレ達を引き裂こうとでも言うのか……? さっさと簡潔に物を申してさっさとこの場を収めよう。暴力や手荒な真似が、始まらないうちに。


「コイツ、服着てない。オレ、服着てる。完全証明だ」


「んなもんお前の匙加減だろォ!! 皆ァ!! コイツひっとらえるぞ!!」


「「「おう!!」」」


 クソッ、なんてことだ。勘違いによってハンターズギルドの面々と矛を構えなければいけない状況になってしまうのか……いや、暴力は何事も最終手段であるべきだ。モテる男は、口先と少しの冗談によってスマートに危機を切り抜けるのだから。


 まずは時間を稼ぐため、少しの牽制をさせてもらう。


「動くな、オレは真童師だ。手荒な真似をする前に、話し合いで解決することをオスメスする」


「オススメするだと? くッ……!! ヘンタイ野郎の癖に態度だけはでかい……!!」


「魔導師――協会から認定を受けた者……!? 不味い、下手したらここら一帯が瓦礫の海になっちまう……!!」


「ま、まて!! ハッタリの可能性だってある!! バッジ、バッジを見せろ!!」


 真童師のバッチ、だと……? 自称しているのだからそのような物があるはずがないではないか。仕方がない。ここは代理として魔導師協会から認定を受けた導師だということを証明するバッジを提示しよう。


「これでどうだ」


 この鈍く輝くバッジは、以前オレがとある学院に乗り込んで自らの力を解析して貰おうとした際に、『えぇ……もう魔法でいいじゃろコレ……』と、お偉いさんから実質魔法のオス味つきを貰ったあとに渡されたバッジだ。色々と便利ではあるが、オレは真童師であって魔導師ではないからあまりコレを見せびらかしたくは無い。


「本当に持ってるんかい……」


「マ、マジもんの魔導師かよ……ッ!! 態度がでかいヘンタイの癖に実力もありやがる!!」


 バッジを眼に映した者達はどよめき、構えていた武器に乗せている意志を牽制から警戒に変えた。オレへ攻撃の意志を向けるよりも、自らの身を守ることを優先したようだ。


 魔導師とは、魔法使いの中でも上澄みの存在。このバッジによって、ハンターズギルドの者達にとってはAランクハンター以上の力を持つようなものだと証明したようなものだ。


 しかしオレは、一応は認定を受けた魔導師としての地位もあるが、やはり真童師で居たい。


 だが、自らの力を形で証明する場合においてはこのバッジに頼ることでしか眼に見せることが出来ない故、こういうときにはよく頼らせて貰っている。貰っといて便利といえば便利な代物ではあったな。


「なんで魔導師が森で露出して人襲ってたんだよ! 魔法の研究で気が狂っちまったのか!?」


「オレは露出などしていない、人を襲うなどするはずもない。まず理解しろ、この人相書きの男とオレは別人だ」


「じゃあ別人だって証拠を出してみろよ!!」


「やれやれ、仕方がない。

 オレに露出をする趣味は無い。そして人を襲う趣味など無い、そんな純愛に叛旗を翻すようなことは絶対にしない。

 確かにこの人相描きの男同様に、全裸で森を堪能したり事情により通行人に声を掛けはした、だが確実にこの男のように常識の無い行動などはしていないのだ。これがヘンタイとオレが別人であるという決定的な証拠だ」


「「「…………」」」


 どうやら皆、分かってくれたようだ。武器を下ろして、呆れた目を――呆れた眼だと?


「アイツバカじゃねぇの?」


「自供しやしたね」


「頭良いのかバカなのかどっち分からんねぇよ」


「この子は町で保護しましょ。ヘンタイは牢獄にぶち込みましょ」


「――ランクの低い奴等は下がれ、B以上でヤる。慎重にいくぞ」


 戦士風の男が放った最後の一声で、皆の目が真剣なものへと変わった。


「そこの人相書きが別人だろうがなんだろうが、あんちゃんが森で裸になったことには変わりねぇ。怪我したくなきゃ大人しく捕まってくれ」


「結果は同じだが過程が違う。オレは露出をしていたのではない。自然を体で感じていたのだ。

 それに、オレを捕まえると言っているが――森で服を着る動物が居るか? 法が存在する森などあるか? 法律とは人の中の決まりごとだ。ならば、自然の中には自然の決まりごとがある。オレは町ではなく森で、生まれたままの姿であの森の美しさを感じていただけだ。流石に人の町ではしない。そして、声を掛けたのは街道近くにモンスターの気配を感じた故(ゆえ)緊急措置により裸で注意をしたに過ぎない。

 キミ達がやろうとしていることは、例えるならば服を着ていないからと動物達を罰しようとする、人間が振りかざす正当性の無いエゴだぞ」


「結果を見ればあんちゃんはヘンタイなん……過程も変態じゃねぇか!? 人なんだから服着ろ? 服着てない人間を罰するのは正当性しかないからな!?」


 ジリジリ、ジリジリとハンター達がオレとの距離を詰めて来る。どうやら、話し合いは失敗に終わったらしい。


「やれやれ、仕方がない……」


 ならばとオレも、両手を下げて股に両手を添える。


「こ、この状況でも露出を……ッ!? 極まったヘンタイだ……ッ!!」


「今日のオレは勃ちが良い。この場に血を流すことなく制圧できそうだ」


 昨日のオレは本調子ではなかった。だが、今日は違う。


 血を巡らせれば硬さが生まれ、大きくなる。男の象徴とは、自らの精神を全て注ぎ込むことによって雄雄しく立派なモノへとなり、輝く自信となって勃ち上がるのだ。


 さぁ、杖よ――マグヌスグロリアよ――皆を理解(わか)らせるためにオレへ力を貸してくれ。


 オレは右手でズボンのボタンを弾き、輝く光を露にさせる。


「うぉ!? まぶしい!?」


「お、お前なんだよそれ!?」


 社会の窓から光りが漏れ、その光りは棒状の輝きを持って皆の前に顕現した。そう、これが杖、基(もとい)、マグヌスグロリア、これこそがオレの有するオレだけの輝きなのだ。


「自信のある奴から掛かってくるが良い。だが、力を振るうのなら、こちらも相応の対処はさせてもらうぞ。

 真・呪文スペルマ <性棒(セイバー)>」


 オレは光り輝くマグヌスグロリアを扱く。その扱きはオレ本来のマグヌスグロリアを越して大きく、次第に大きく、更に大きく、エアで扱く。すると、オレのマグヌスグロリアはその扱きに答えようと虚栄を張ろうとし、光りを伸ばして扱く手に輝きを合わせてきた。


 光は伸びたがオレ本来の杖の大きさは変わっていない。眼前まで伸びた光りの杖は所詮見栄だ、男が小さく思われたくないと思って虚勢を張った、虚しい見栄。しかし、だが、張った虚勢をホンモノにすれば良い、杖から放たれた光りの刃は、偽者でありながら本物となってオレに扱けと命じてくる。


 だから――コレは――偽りの光りではない。杖も、光りも、まとめてオレのマグヌスグロリアだ。貴様等の刃でオレの輝きを折れるなどとは思うなよ。


「バ、バカみてぇなことに魔法使いやがってる……。そしてなんだ、あの溢れ出る自信は……ッ!!」


「さ、さすが狂った魔導師だぜ……だ、だが……! くらえ!!!!」


 一人の剣士がオレへと飛び込んできた。


 両手上段から振り下ろされる刃は、当たれば怪我をする。だが――


 オレが腰を突き出すと当時に、甲高い金属音が建物内に鳴り響いた。


「な、なにィ!? 受け止めやがっただと!?」


 剣士の驚愕は、眼前の交差する武器に向けられている。鋭い刃と、光り輝く刃、互いに同等の力を持って亀甲し合っていた。


「何を驚くことがある。屹立したモノは鋼よりも硬く、何者にも折られない。貴様も男ならば、そういった自信が自らの杖に宿っているだろう?」


「クゥ……! む、無理だ……! 俺は勃ってもやわらけぇんだよぉ……! アンタみたいな自信は持てねぇ……ッ!!」


「柔らかいモノもふにふにしてて叡智だ、悔いる必要など無いフゥン!」


 オレは腰をはらって目の前の剣士を弾き飛ばす。


 ついつい剣士の大きくなっても柔らかいモノを想像してしまって力が入ってしまった。思ったよりも大きく飛ばされた剣士は、群集に抱きとめられながら地面に伏して悔しさに剣をおろしている。


「け、剣がダメならハンマーだ!」


 次いで槌使いの大男が走る勢いと共にオレへハンマーを振り下ろしてくる――が。鈍い音を立てながら、その槌は止まった。ハンマーの面とマグヌスグロリアの先っぽがぶつかり合った瞬間に、クエストボートの紙やローブの裾がはためいたが、それでも折れることの無い意思がここにある。


「嘘だろこんなことってあって良いのかよ!?」


「貴様が全身を使ってハンマーを振ったように、こちらも全身を使って突き上げている。更にオレは、貴様のハンマーに対して突き抜けたいという思いも乗せているのだ。女を孕ませるが如くな」


「こんな勢いで突いてもいてーいてーって言われるだけだ! 俺なんて嫁さんに夜を拒否されてんだぞ!」


「それは貴様が独りよがりで気持ち良くなろうとしてるからだ、嫁が居るなら二人でヨガれフゥン!」


 目の前の大男に一方的に抱かれることを想像してしまったオレは、また力が入って大きく飛ばしてしまった。


 流石に大男を抱きとめられなかったのか、皆が避けて地面に落ちた槌使いは悲嘆に暮れながら泣いて天井を見上げている。


 男の勝負とは、かくも儚きものよ。


「あんちゃん……何故、反撃や追撃をしない。俺達はお前さんを捕らえようとしてんだぞ」


 斧を携えた、厳つい戦士がオレの前に立った。


 鋭い眼光は、獲物を定めているようで観察もしている。威圧感と風格は戦士の中でもトップクラスのモノだろう。そして同時に、冷静さも。


「今のオレは争いなど好まん……と、言いたい。だが何より……オレを、手本にしてくれている者が居る。その者の前で、困ったときは暴力で解決しろと言えるだろうか、見せられるだろうか。

 オレは良い、だが、あの子にはもっと平和な手段を、分かり合えるような手段を知って欲しい。出来ればで構わない、話し合いで解決できないだろうか」


「あの魔導師イカれてやがるぜ……」


「コレの何処が手本になると思ってやがんだ…………?」


「…………」


 戦士風の男は黙ってオレを見下ろしてくる。周囲の者達は、この男に信頼を寄せているのだろうか、黙ったまま視線を向けて言葉を待っているようだ。


「……。俺の名はドラゴ。あんちゃんの名前は」


「デルコイノだ」


「……」


 戦士風の男、ドラゴは仁王立ちしたままオレを見下ろしてきて、言葉を一つとして発さない。ギルド内には静寂が訪れ、微かだが固唾を飲み込む音さえも耳に入ってきた。


 オレ達の視線は交わり合うが、意味は違う。オレは彼に誠実な心を目で語り、彼はオレの瞳を通じて見定めようとしてくる。


 お互いの無言、そしてこの場の静寂は――彼にしか破ることができないだろう。故に皆もオレも、彼の言葉をただひたすらに待つ。


「…………。まだ若いってのになんつー鋭い眼してやがんだ……良いぜ、ここは俺が預かろう。

 ちょいとごめんね受付の……えーっと、誰か、職員でも良いよ、この男の手配書は取り下げておいて。町長には俺から話を通しておくから」


 戦士の風貌から優しそうな男に代わったドラゴは、気さくな表情になって周囲に声を飛ばした。それに応じるように周りも動き出し、周囲に漂っていた緊張感や警戒は解かれ始める。


「……状況を鑑みれば、キミに――ドラゴに感謝をしなければならない。本当にありがとう」


 誤解から始まったこの状況は、ドラゴの手によって平和的な幕引きを迎えた。故に、ならば、腰を折ってでも感謝をしなければならないだろう。


「そうやって感謝を言える奴に悪い奴はいねぇさ。……だけどよ? その光ってるのはしまってくれ。気になって気になってしゃーねーよ」


「うむ、そうしよう」


 オレは性棒(セイバー)を解除してからマグヌスグロリアを落ち着かせ、ズボンの中にしまいこむ。おやおや、まだ完全には治まらないようだ、股間が淡く発光しているではないか。


「あと――嬢ちゃんを放してやってくれ。こっちにおいで」


 ドラゴの言葉で、女性ハンター達から大事に大事に保護されていたプニマがようやく解放された――が、トテトテと小走りするプニマの背後からは、女性ハンター達から冷めた視線を向けられる。……興奮するじゃぁないか。


「あの、あの、デルコイノさん……! ごめんなさい……」


 寄って来たプニマは、自分が全く何も悪くないというのに謝罪を述べてきた。きっと、何も出来なかった無力感から発してしまった言葉なのだろうが、その謝罪を発するべきはオレのほうだ。


「こちらこそすまなかった、プニマ。オレが森の自然を堪能していたばかりにあらぬ誤解をかけられてしまって」


「……デルコイノさん、裸になるの、ダメ、です……!」


 プニマから腕でバッテンをもらえた。癖になりそうだ。


「ちょいとごめんな。

 話を遮るようで悪いけどよ、お前さんの話しでちょいとばかし気になることがあったんだ。あっちで詳しく話を聞かせちゃくれねーか」


 そう言ってドラゴは親指を背後に向ける、そちらには食堂があったな。だが、人だかりがまだ完全に引いていなく、壁が出来上がっていてすんなりと通れそうに無い。


「すまないが道を開けてくれ」


 オレは道を明けてもらおうと、股間に残る光を直線状に放って光りの道筋を作る。さすれば当然、人だかりはこの輝きに畏敬の念を込めて素早く道を明けた。


「神々しい光りだが触りたくはねぇ……」


「ちょ、押ないでバカ! 当たっちゃったらどうするのよ!」


「……」


 ドラゴは何かを言いたげな表情でオレを見てくるが、感謝などいらない。これしきのコトはさせてくれ。


 そうしてオレ達は食堂へ場所を移し、ドラゴの用件を聞くべく話を始めた。

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