第2章ー2


 俺たちは「慧都音楽大学附属中学校けいとおんがくだいがくふぞくちゅうがっこう」へ進学した。「慧都音楽大学附属中学校」は、その名のとおり、国内の音楽大学の最難関と言われる「慧都音楽大学けいとおんがくだいがく」の附属中学校だ。言わずもがな、相当レベルが高い。将来を期待されるハイレベルな音楽家の卵たちがウヨウヨと集まる。”神童”と騒がれ、すでに、プロのピアニストとしてリサイタルを行なっている有名人も少なくなかった。そんな、化け物じみた実力者たちの中でも、泉は頭抜けていた。はっきり言って、俺が「慧都音中けいとおんちゅう」に入学することができたのは、奇跡に近い。合格者のうちの一人が、権威のあるピアノ講師に師事することになったらしく、急遽渡仏することになり、一人分の空きができたのだ。

 

 ―― ”首席”入学の泉と、”補欠”入学の俺。


 この時点で、二人の差は歴然としており、その差が広がるのに比例するかのように、母の愛情の差もまた、大きく広がっていくように感じた。次々にコンクールに挑み、好成績を残していった泉は、ルックスの良さも相俟って大変な人気者となり、メディアからも注目され、テレビ出演することも多くなっていった。しかし、どんなに有名になろうとも、決して天狗になることはなく、毎日ストイックに練習に取り組み、真摯にピアノと向き合っていた。


 俺は兄が羨ましかった。それと同時に、憎くて憎くてたまらなかった。もう決して埋まることのない、二人の差。母から貰い受ける”愛情”の差。いつからか、母の目に、全く自分の姿が映らなくなっていたことに気付いた俺は、愕然とし、ますます、ピアノが嫌いになっていった。


――『ねえ、泉くんと舜くんは、ピアノを弾かないの?』


 あの言葉さえなければ……と、俺は、心の中で、まったく罪のないマリカお姉さんを何度も恨んだ。

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