第7話走れ耕太!
詩織と金田のお見合いが始まる2時間程前の事……シチローは、ある所に電話をかけていた。
『お見合いですって!!』
電話の向こうの相手は、シチローの言葉にさぞかし驚いた様子だ。その相手とは……
森永探偵事務所の今回の依頼者、山口耕太。その人である。
「そうだ! ……今から丁度2時間後に、詩織さんはIT企業の社長とお見合いをする。場所は図書館にFAXを送っておいたよ……耕太君、君は詩織さんが好きなんだろ? このまま告白もせずにもしも詩織さんが結婚してしまったら、君は一生自分の勇気の無さを悔やむ事になるぞ! これが本当のラストチャンスだよ!」
シチローは、自分達が詩織のお見合いをぶち壊す計画を立てている事は敢えて耕太には伝えず、まるでこのお見合いで詩織が結婚してしまうかのような言い方をして耕太を追い詰めた。
シチローから電話で話を聞いた後も、耕太はまだ迷っていた。
詩織のお見合いの相手は、IT企業の社長だという……
こんな図書館勤務の今の自分と付き合うよりは、IT企業の社長と結婚した方が詩織にとって幸せなんじゃないだろうか……
図書館の受付に付きながら、耕太はそんな事を考えていた。
その時だった……
詩織と歳格好のよく似た女性が耕太の目の前に立ち、一冊の小説の貸し出しを申し出た。
そして、手続きをする為にその女性から小説を受け取った耕太だが、その小説のタイトルを見た瞬間耕太の手が止まった。それは忘れもしない……あの満月の夜に、詩織の家まで届けに行った推理小説の下巻だったからだ。
耕太の脳裏に、あの夜の光景が再び蘇った。
無邪気な顔で微笑む詩織の横顔……
体中が温まるようだった百三十円のカフェオレ……
二人で小説の話を夢中になって語り合った、あのかけがえのない夜の事を……
「やっぱり僕は、詩織さんでなきゃダメなんだ!!」
突然の大声に目を丸くして驚く女性を後にして、耕太は図書館を飛び出した。
「そうさ! 詩織さんに認めてもらえるかどうかなんて関係無い! 今告白しなかったら、僕はこの先いつまでも、自分の勇気の無さを許す事が出来なくなる!」
耕太は走った。
必死になって走った。
まるで、ロスタイム終了間際で猛然とゴールを狙う日本代表の伊藤純也のように!
まるで、『24時間テレビ』のマラソンで満身創痍になってスタジオを目指す
『欽ちゃん』のように!!
「僕が行くまで待っていてくれ! 詩織さん!」
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