現在、公園2
数年後ー
うららかな春の昼下がりだった。サッカーグラウンドを中心とした広い公園には、満開の桜が立ち並び、菜の花が咲き、蝶が飛び交っていた。
シュウゴは公園のベンチに座り、リュックからタオルと水筒を取り出した。タオルで汗をふいた。水筒のドリンクをごくごく飲んだ。目を閉じ、開いた。
目の前に広がるグラウンドでは、応援団や観客に囲まれて、片足の選手たちが杖を巧みに操り、ボールを追って走り回っていた。
「なあ、お兄ちゃん」
赤い小袖を着た子供が声をかけてきた。
「よお」シュウゴはいった。「やっと会えたな」
子供はシュウゴの右足を見た。
「お兄ちゃんの右足、なくなっちゃったの?」
「ああ、なくなっちゃったよ」シュウゴはけたけた笑った。
数年前のあの試合で膝の骨は粉々に砕け、接合面もぐちゃぐちゃで、再接合手術は不可能だった。
「なあ、お兄ちゃん、地球靴をおいらにおくれよ」
「きみは少しも変わらないんだな。きみくらいの子は、数年たつと、見違えるほど大きくなるもんだが」
「へえ、そうなの?」
「そうだよ」
「なあ、地球靴おくれよ。お兄ちゃん、もうはいてないじゃない」
「あのサッカー、アンプティサッカーっていうんだぜ。みんなうまいだろう」
「みんなうまいね」
「なにしろ俺たちは、日本代表だからな」
フェンスには各選手の応援幕が掲げられていた。シュウゴの応援幕もあり、そこにはこうあった。
努力は無限、シュウゴの強さ。
「なあ、地球靴おくれよ」
シュウゴはリュックサックから地球靴を取り出した。地球の神様の着物なんて、どうしたらよいかわからなかった。
「ほらやるよ、きみのものだ」
シュウゴは地球靴を子供へ渡した。
「これでようやく、けりがついた」
「ありがとう」
子供は靴を受け取ると、振り返りもせず走り去っていった。
地球靴 プルーモンディ @pluemondy
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