中学時代、夢

「あいつ、ずりいよ! どう見ても中学生じゃねえじゃん、あいつ、コーチだろ!」関口コーチは憤慨した。

 その日は市内の別の中学校との練習試合だった。シュウゴは補欠でベンチに座っていた。

 相手チームのある選手が中学生の選手ではなくて、チームのコーチだというのが、関口コーチの主張だった。シュウゴには中学生に見えたが、相手チームのコーチだといわれてみると、そのようにも見えた。

「おい、シュウゴ、ユニフォーム貸せ」

 シュウゴはユニフォームを脱いで渡した。関口コーチはシュウゴのユニフォームをむりやり着た。ぴちぴちだった。

 ボールがラインを割ると、関口コーチは叫んだ。

「選手交代しまーす!」

 ぴちぴちのユニフォームで無精髭のサッカーコーチがフィールドに入り、中学生相手に大暴れした。相手選手を弾き飛ばし、なぎ倒し、見た目も実力も、違いは歴然だった。

 シュウゴも選手たちも、鬼監督も、審判も、相手チームも、皆大笑いした。


 シュウゴは目覚めた。頭の中では、まだ関口コーチが大活躍していた。皆の笑いが続いていた。

 ここはアパート? いや違うみたいだ。ベッドが固い。病院だろうか。病院、病院、病院……。

 シュウゴはベッドに横たわっていた。急激に現実が襲いかかってきた。

 ミッドフィルダーからバックパスがきて、右足を振り抜いて、大量の血が吹き出して……。どす黒く、絶望的に重いものが胸に現れ、シュウゴの気持ちを地の底まで沈めた。

 右足があることは感覚でわかった。五本の指の指先まで鮮明にイメージできた。シュウゴは感触を確かめようと手を伸ばした。右足はなかった。

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