数年前、覚醒後、公園、子供
シュウゴは練習場の外へ出て、公園へ歩いた。公園は広く、人はまばらだった。
木のベンチに腰を下ろした。晴れているが、寂しい日だった。地面に散らばっている黄色い葉っぱと、赤い葉っぱを、寒々しい風が吹き散らした。
シュウゴはベンチの上で両足を持ち上げた。膝を抱えて地面を見つめた。彼の目に白っぽい砂利と、半分枯れた下草が映った。
「なあ、お兄ちゃん」
誰かが声をかけてきた。顔をあげると、赤い小袖を着た子供が立っていた。見覚えのない子供だった。
「その靴をおいらにおくれよ」
「靴? このスパイクのこと?」シュウゴはいった。子供はうなずいた。
「そいつはだめだよ。プロサッカーのスター選手じゃないんだよ俺は」
「そんなこといわずにおいらにおくれよ」
「俺のファンなの?」
子供はきょとんと頭をかしげた。
「違うようだな。なぜこのスパイクがほしいんだきみ」
「ほら、おいら神様を集めてるじゃない。その靴は神様なんだよね」
カミサマ? ああ神様か。そうか、子供は神様を集めているつもりなんだ。そしてこのスパイクのことを神様だと思っているんだ。
「申し訳ないが、きみが神様を集めてることは初めて知ったよ。それにこの靴はただのスパイクだ。神様じゃない」
「その靴は『地球靴(ちきゅうぐつ)』という神様なのよ」
「地球靴だって? なんだよそれは」
「結局、ほら、この世の中のどんなものも神様の着物でしょう。その靴は今地球の神様が着ている着物なんだよね」
「なあ少年よ、さっきからきみは、なんとか『じゃない』とか、なんとか『でしょう』とかいうんだけれども、俺にとっては初めて聞く話なんだよ。そしてこのスパイクはただのスパイクだ。神様の着ている着物なんかじゃない」
「その靴は地球の神様が着ている着物だよ。地球靴だよ。おいらにおくれよ」
「いいやだめだね。そもそもどうしてきみにあげないといけないんだ?」
「ほら、地球の神様はいろいろな着物を着ているけど、靴を着るのは珍しいじゃない。だからおいらはその靴がほしいんだよ」
「地球の神様がいろいろな着物を着ているということも、靴を着るのは珍しいということも、俺は今初めて聞いたし、きみにこのスパイクをあげる理由にならない。俺にはなんの得もないじゃないか」
「お兄ちゃんは地球靴をはかないほうがいいとおいらは思うんだよね」
「どういうことだよ」
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