第52話 友達と文化祭

◇アルフィリア視点◇


「やっほー……」

「に、二菜?大丈夫ですか……?」


 合流地点で待っていると、すでに疲労困憊な様子の二菜がやってきた。

 クラスの喫茶店の方が相当大変だったことが伺える。


「いやぁ……接客担当の生徒が一人具合悪くなっちゃって、接客代わってあげたり、お菓子の補充しないといけなくなって走り回ったりで……さすがに疲れたわ」

「お、お疲れさまです」

「まあこんな話はここまでにして……。早速楽しんじゃいましょうか!交代してくれたお礼にって少し長めに休憩していいって話だったし、たくさん回りましょう!」

「はい!よろしくお願いします!」


 最初は萎れていた表情も、気持ちの切り替えと同時にいつもの二菜に戻る。

 

「それで、フィリアはどこか回ったの?」

「いえその、二菜たちのクラスの喫茶店以外はまだ……」

「えっ?じゃあ待ってる間なにしてたの?」

「学校内を散策したり、村橋先生と少しお話させていただいたり……」

「むらっち先生と?」

「む、むらっち……?」


 突然聞きなれない名前が出てきたが、察するに村橋先生のことだろう。

 生徒が先生をあだ名で呼ぶのはどうなのだろうか……と思ったが、この世界では割とあることなのかもしれない。

 先生と生徒の仲を良好なものとするための手段として用いられているのだと勝手に納得することにする。


「え、えっと……偶然お会いしたときに少しだけ。優さんのこととか、少し今後についての悩みに対するアドバイスをいただけたりと、有意義な時間を過ごせました」

「そ、よかったじゃない」

「はい。いい先生でした」


 私にとっては家に雇われた家庭教師しか先生というものを知らないが、少なくともその家庭教師に比べれば、村橋先生は良き先生だと思う。

 

「さて、ここで立ち止まっていてもアレだし、そろそろ行きましょうか。まずは腹ごしらえしね」

「そうですね。お昼時で少しお腹も空いてきました」

「それじゃ、焼きそば食べに行くわよ。別のクラスの友達が焼きそば屋台出してるって言ってたし。その次はからあげ、フランクフルト……食べ尽くすわよ」

「そ、そんなにいっぱい食べるんですか……?」


 すでに目をメラメラとさせて、いまにも食べ物を全種類踏破してやると言わんばかりの二菜に手を引かれながら一旦校舎の外へ出る。

 こういった食べ物は匂いや煙が充満するためか、外の方で展開されているようだ。

 並んでいる屋台は焼きそば、フランクフルト、からあげ、フライドポテト、わたあめ、りんご飴、くれーぷ?……は初めて見るけれど、ほとんどが夏祭りにもあったようなものばかりだ。


「ひとまず焼きそばから攻略するわよ!」

「こ、攻略って……そんなダンジョンじゃないんですから……」


 まるでダンジョンへ挑みに行く冒険者のようなことを言い出す二菜。

 文化祭の雰囲気と、先ほどまでの忙しさの反動でいつもよりもテンションが高いようだ。

 

「それくらいの気持ちで楽しむってことよ!さあ行くわよフィリア!」

「ちょ、ちょっと引っ張らないでくださ――」


 というようにあれよあれよと二菜に連れ回され、ありとあらゆる食べ物が二菜に食べ尽くされる様を隣で見ることになるのだった。

 

 ――私は普通に焼きそばをいただきました。





「ふぅ~……もうお腹いっぱいだわ」

「それはそうでしょうね……」


 座れる場所に来て早々、二菜が自身のお腹をさすりながら満足そうにつぶやく。

 結局ほとんどのメニューを制覇してしまった二菜のお腹は心なしか少し膨れている。

 私より少し小さい身体のどこにあの量の食べ物が消えていったのか不思議で仕方がない。

 隣に入る二菜に驚きと呆れを含んだ視線を送りつつ、私はクレープを口に運ぶ。

 ちなみにもちろんクレープもすでに二菜の腹の中である。


「甘くておいしいですね、クレープ」

「でしょ?あ~あ、他の味も食べたかったけどなぁ」

「まだ食べる気だったんですか……」

「さすがにもう入らないわよ」


 むしろ入ったら一種のホラーだ。


「……そういえば、二菜は行く先々でいろんな人に声を掛けられてましたね」

「ん?ああ、私いろんなクラスに友達だったり、知り合いが多いから。そのクレープも私の友達がやってる屋台だし」

「友達が多いんですね」

「まあね。どっかの誰かさんとは違ってね。……まあ最近はそうでもないけど」

「羨ましいです。……私は、交友を広める場に恵まれなかったので」

「……それじゃあ、これから広めていけばいいわ」

「えっ?」

「学校に通ってみるでも、何か趣味を見つけてそこから広げてみるでも、仕事をしてみるでも……まだ、いろいろできる時間はあるんだから」


 これからのことは、あなたが決めていいんだから……と二菜が言う。

 自分で自分のことを決める……それは、いままでできなかったことだ。

 だからいざその選択の自由を与えられても、どうすればいいのかまだわからないままでいる。


「……私にできるでしょうか」

「それはわからないし、私が保証できるものでもないけど……まあ、悩んだり困ったりしたら、私も相談に乗るわ。だからやりたいことがあるなら、やってみるといいんじゃないかしら。私たちはまだ若いし、やれることは若いうちにってうちのおじいちゃんもよく言ってたし」

「……ありがとうございます」

「さて、まだまだいろいろ回りたい場所があるし、そろそろ動くわよ」

「もう動いて平気なんですか?」

「もちろん!休んでいたら時間がもったいないもの」


 そう言いながら立ち上がって、二菜が私のほうに手を差し伸べてくる。

 その手を握ると、力強く引っ張られて立ち上がる。


「それじゃあ、次は――」

「……ふふっ」


 二菜と一緒だと、色んな元気がもらえる。

 きっとこういう二菜だからこそ、友達も多いのだと思う。

 同じように、とまでは行かなくても、私もいずれこうなってみたい。

 今はそんな風に思える。





 それからいろんな場所を回るうちに二菜の休憩時間がもうすぐで終わる時間になった。

 お化け屋敷や射的、こすぷれ?撮影会などなど、初めての経験をたくさんした楽しい時間ももうじき終わってしまうと思うと少し寂しい。

 

「さて、それじゃあ私はもう戻るけど、もう少しここで待ってなさい」

「……?」

「私はもう戻らなくちゃだけど、もうすぐ来ると思うから」

「それはどういう……」

「それじゃあ、またねフィリア」

「あ、ちょっ――」


 二菜は少し悪戯な笑顔を浮かべた後、手を振りながら自身のクラスへと戻っていった。

 よくわからないまま言われた通りに待機していると、こちらに向かって急ぎ足で近づいてくる人影が見える。


「悪い!待ったか?」

「えっ?優さん?」


 少し息を切らせながらやってきたのは、優さんだった――。

 




――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 作者の小笠木詞喪おがさきしもです。


 先週投稿しなかった分、今週2話投稿しました(最初からちゃんと書けと言う話ですよね、ごめんなさい……)。


 次回の更新は来週になると思いますが、来週は試験的に投稿時間を変えて、夜20時くらいにしてみようかなと考えています。

 今の生活リズム的にそっちのほうが無理がない気がしているので、あくまで試験的に。

 これで更新頻度が改善されれば……いいな。


 というわけでよろしくお願い致します!

 

 引き続き当作品を楽しんでいただけたら幸いです。


 それではまた!

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