第53話 知りたい
◇アルフィリア視点◇
「どうして優さんがここに……」
言われた通りにここで待っていると、優さんがやって来た。
二菜同様かなり疲れているようで、少し息も上がっていて表情にも覇気がない。
「どうしてって……二菜にここでアルフィリアが待ってるってメッセージもらったからだが……」
もちろん私が呼んだわけではない。
「もしかして、俺に用があったわけじゃない?」
「す、すみません……多分二菜が気を遣ってくれたんだと思います。優さんも疲れているのに……」
「そうか……。まあせっかくだし、一緒にどこか回るか?」
「でも……優さんゆっくり休みたいですよね?」
「まあたしかに想像以上の忙しさに疲れてはいるが……それなら、少し落ち着ける場所に行くのはどうだ?」
「落ち着ける場所……ですか?」
「ああ。普段は入れないが、今日は特別に解放されている場所があるんだ。一人で行くのも少し寂しいし、よかったら一緒に行って話し相手にでもなってくれたら助かる」
「そういうことでしたら……」
「ありがとな」
もしかしたら私に気を遣ってくれているかもしれないと思ったが、来てくれと言われてしまったら、断ることはできない。
それに呼んだのが自分ではないにしろ、私の為に休憩の時間を割いて来てくれているのだから、なおさらだ。
話し相手……そういえば最近は優さんも忙しくしていたためか、こうやって二人で話すのは久しぶりかもしれない。
これもいい機会だと思って、もっと優さんのことを知ることができれば……。
ふと、村橋先生との会話を思い出す。
『今は彼もみんなと肩を並べて学校生活を踏み出せたように見えるけど、少し前まではそうじゃなかったから』
『私から見た少し前までの早乙女君は、自分と本当に一部の人との関り以外は必要最低限で、自分に得がなければなにもやろうとしない……言ってしまえば冷たい、淡泊な生徒として振る舞っていた』
先生から見た優さんの印象を、そんな風に話していた。
もし学校でのことを聞いたら、優さんは教えてくれるだろうか……。
優さんの遅めの昼食を買ってから、優さんに連れられてやってきたのはこの学校の屋上だった。
周りは安全を考慮して、鉄のフェンスで囲われており、それ以外には特に目立ったものは何もない場所。
「あの……ここ、ほんとに私が来てもよかったんでしょうか?」
現在私たち以外に人はいない。
村橋先生と話をした場所は関係者以外立ち入り禁止だったので、ここもそうなのではと少し不安になってしまう。
「ああ。普段は空いてないけど、生徒たちの休憩の場所として今日だけ解放されているんだ。ほとんどの教室は使われていて空いていないからな」
「なるほど」
「俺たち以外に人もいないし、ここならゆっくりできるな。少し肌寒いかもしれないけど大丈夫か?」
「はい、大丈夫です」
夏も終わり、だんだんと涼しくなってくる時期なので風は確かに少し肌寒いが、人混みにいたときは蒸し暑いと感じていたのでむしろ気持ちいくらいだ。
「ならよかった。もし回りたい場所があるなら、後で行くこともできるが……」
「いえ、二菜と一緒に気になるところはたくさん回れましたし、大丈夫です。……いまはその……優さんのお話が聞きたいです」
「俺の話?」
「はい。……学校でどんな風に過ごされているのか、とか」
気になったことを、少し躊躇いながらも聞いてみる。
「あんま面白い話はできないけどな。俺はクラスでも浮いていたし、嫌な奴だったから」
「それです!その嫌な奴だった、というところがわからないんです」
「えっ?」
「少し機会があって村橋先生ともお話をさせていただいたんですが、少し前の優さんの印象を聞いて、私の知っている優さんの印象とはかけ離れているもので……私は、一緒にいてくれるときの優さんしか、知らないですから……」
実のところ、少し納得がいっていないところがある。
こんなに気を遣ってくれて、支えてくれる優しい人なのに……周りの多くの人はそう評価していない。
本人もそれを受け入れているし、納得しているようだけれど、私にとってそれは今まで見てきた優さんを否定されているような気がして、怒りに近い感情さえ胸の奥に感じているくらいだ。
きっと過去に何かがあったのかもしれないけど、私はそれを知らない。
だから知りたい。
これまでの優さんのことを。
その上で私は、優さんのことを受け入れて、もし苦しんでいたら支えたいと思っているのだから。
「……参ったな。ほんとは家に帰ってから話すつもりだったのにな」
「えっ……」
「元々、アルフィリアには話をするつもりだった。過去の話とか……聞いてほしいこと、とかたくさんあって……文化祭が一区切りしたらって思ってたんだ」
「そう、だったんですね……」
「……今聞きたいか?」
「……はい、もしよろしければ……今聞きたいです」
「……わかった」
優さんはそういうと、一度深呼吸をしてから真剣な表情でこちらに身体ごと顔を向ける。
「あまり気持ちのいい話じゃないけど、聞いてくれるか?」
「……はい、もちろんです」
どんな話をされても、受け入れる覚悟を持って聞く姿勢を取る。
少ししてから、優さんが口を開いて話始める。
「―—俺には、好きな人がいたんだ」
優さんは少し悲しげな表情で、そう切り出した――。
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作者の
今回は先週でもお伝えしたように更新時間を変更して20時くらいにしてみました。
これで更新のしやすさがどう変わるかで、投稿時間決めようと思っていますので、宜しくお願い致します。
もし余裕があれば今週の木曜か金曜にもう一話くらい更新できればな……と考えております。
頑張ります。
さて、お話の方もようやく優君のお話にいけました。
次回は結構重めのお話です。
ここまで来るのにぐだった感は否めないですが、書きたかった話をいろいろ書いて行った結果なので仕方ないです(計画性)。
もちろんもっと書きたいシチュエーションや小話などもありましたが、構成上本当に書きたい内容まで時間が掛かりすぎると言うことで致し方なく端折っています。
もし完結したら、そのお話は近況ノートかなにかで出してみようかなーと考えています。
よろしくお願い致します。
というわけで今回はこの辺で。
引き続き当作品を楽しんでいただけたら幸いです。
それではまた!
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