第51話  先生とのお話

◇アルフィリア視点◇


 優さんのクラスの喫茶店を後にした私は、一人でいろんなところを見て回っていた。

 愛さんたちは優さんの喫茶店を見に来ただけだったようで、軽く見て回ってから一足先に帰るとのことで、この後の約束もあって別行動中だ。

 

 手元のスマホを確認する。

 現在時刻は11時を過ぎたくらいだ。

 二菜からのメッセージで『12時くらいには休憩入れると思う』と来ていたので、約束の時間までに1時間ほどだ。

 それまでの間、どのようにして時間を潰そう。

 いろんな出し物があるので、見て回ればあっという間に時間は過ぎるだろうが、せっかくなら初めて体験するのなら二菜と一緒がいい。

 なので、そこは見たい気持ちをぐっと堪えるとして、あとできることと言えば学校内の散策だろうか。

 

 あれこれ考えてみたものの、特にいい案も思い浮かばなかったのでひとまずは時間まで適当に校舎内を見て回ることにした。





 しばらく校舎内を見て歩いた後、人気の少ない場所を見つけたので、一旦そこで一休みすることにした。

 

「ふぅ……」


 人が多いところを歩くのはなんだかんだで久々だったので、少し気疲れで息を零す。

 初めての場所ということもあって、妙な緊張感と、行く先々でなんだか視線をたくさん集めていたせいもあるだろう。

 やはりこの髪色は想像よりも目立つようで、人の多いところでこうして視線を集めて疲弊してしまうのなら、いっそ髪色を染めてしまうのも考えておこう。

 このあたりは優さんにも相談してみよう。

 もし好みの髪色や髪型などがあれば……喜んでもらえるのなら、そういった試みもしてみたいと思う。


「あれ、先客がいたか」


 背後から聞きなれない声がしたので振り返ると、そこには私より少し年上の女性の人が立っていた。

 首からぶら下げている名札を見る感じ、ここの学校の関係者だろうか。


「一応ここ、一般の方は入れないんですけど……」

「えっ?あっ……!」


 女性が指した方を見ると『関係者以外の立ち入りはご遠慮願います』という張り紙がされていた。

 とにかく一休みするために人気が少ないところへと行きたかったせいもあって、ちゃんと確認せずに入ってしまった。


「す、すみません!私、そうと知らず……」

「あぁ、いえ。ここの張り紙がわかりづらいところにあったせいでしょう」


 私が謝罪をすると、女性の方は「気にしないで」と言いながら、張り紙の位置を分かりやすい位置へと張り直す。


「……ところで、違ったら申し訳ないんだけど……もしかしてあなた、早乙女君のご家族の方?」

「えっ?」

「ウチのクラスの喫茶店に来てくれてたのをたまたま見かけて……珍しい髪色の外人さんがいるなって印象に残ってたから」

「え、えっと……」

「ああ、失礼。私、早乙女君のクラスの担任をしてる村橋むらばしです」

「あ、えっと……私、アルフィリアと申します。家族というか、その……お世話になっている身というか……」

「……お世話?」


 私の説明を不思議に思ったのか、村橋先生の少し表情が複雑なものに変わる。

 詳しいことを話すのは難しいので、説明に困ってしまう。


「……まあ、家庭の込み入った事情とかもあるだろうし、聞かない方がよさそうね」

「すみません……」

「こっちこそごめんね。先生が生徒のプライベートな部分にまで踏み込むわけにはいかないから、あんまりこういうことをするのはよくないんだけど、こんな美人な外人さんと早乙女君が親しそうに話してるのを見て、ちょっと意外というか、安心したというか……まあちょっと気になっただけだから」

……?」


 先生が少し引っ掛かる言い方をしたので、思わず聞き返してしまった。

 そういえば、前にも学校内での優さんは友達があまりいないことや、少しトラブルがあったということは聞いているけど、詳しいことは聞いていない。


「今は彼もみんなと肩を並べて学校生活を踏み出せたように見えるけど、少し前まではそうじゃなかったから」

「……なにかあったんですか?」

「早乙女君からなにも聞いていないんだ?」

「詳しいことは……自分はクラス内で微妙な立ち位置にいるとしか」

「なるほど。まあたしかにそうだったかもしれないね」


 そう言いながら先生は私の隣に立つと、壁に背を預けながら天井を見上げる。

 

「詳しいことは本人から聞くことをお勧めするけど、私から見た少し前までの早乙女君は、自分と本当に一部の人との関り以外は必要最低限で、自分に得がなければなにもやろうとしない……言ってしまえば冷たい、淡泊な生徒として振る舞っていた」


 ―—意外だった。

 優さんは優しくて、温かい人だと言うことを私は知っている。

 その優さんに助けられて今の私があるのだから、正直想像もつかない。

 思えば私は、昔の優さんのこと……私と一緒に居ないときの優さんのことをなにも知らない。


先生わたしとしては、もっと心を開いて周りと接していけば、幾分か楽しい学校生活を送れるし、将来的にもいいと考えているからどうにかしてあげたいなって思っていたんだけど……生徒と先生という立場上、言えることも限られてくるから難しくてね。情けない話だけどね。だから、今早乙女君が少しずつ周りと打ち解け始めているのは、先生としても安心なんだ」


 ほんの少しの歯がゆさと、前を向いてくれたことへの嬉しさを滲ませた表情で先生は微笑む。

 

「……あなたは学校好き?」

「えっ?」

「見た感じあなたも学生くらいの年齢かと思って……もしかして違った?」

「あ、えっと……優さんとは同い年なんですけど……その、私学校に通ったことがなくて……」

「……そっか。なんか悪いことを聞いちゃったかな」

「い、いえ……」


 先生との間に少し気まずい空気が流れる。

 

「……通ったことはないですけど、憧れはあるんです」


 質問されたことに対してなにも返さないのも悪いと感じたから……それとも相手が学校の先生だからなのか定かじゃないけれど、返答代わりに少しだけ心の内を話し始める。


学校学園に通う生徒たちを横目で見ると、みんな充実しているように映って、楽しそうで……私もそんな風に誰かと同じ空間で、テーブルを並べて何かを学んだり、経験したり……そんな生活を送ってみたいって思っていたんです。家庭の事情でできなかったことなので……」

「……色々大変だったんだね」

「……一つ、聞いてもよろしいですか?」

「ん?」

「……私が今から学校に通うことって可能なんでしょうか?昔はできなかったことを今からでも一つずつやっていくことが……できるんでしょうか」


 先生からしても、生徒でもない部外者の私にこんなことを質問されてもきっと困らせるだけだ。

 でも、いろんな生徒を見てきたであろう先生の視点の考えを聞いてみたいと思った。


「……あなたがどんな事情を抱えているのかも、どんな子なのかもわからないから確かなことは言えない。……でももしそれを望んでいて、目指せる状況にあるのなら、それはあなたの頑張り次第……かな」

「……!」


 真剣な表情で先生が答えたのは、明確な答えではないけれど……。

 できるかできないかは、私次第……可能性はゼロじゃないということだった。


「なんか偉そうなこと言っちゃったかな……ごめんね?あなたの先生でもないのに」

「いえ……答えてくださってありがとうございます。励みになりました」

「……そう、よかった」


 先生は穏やかな表情で微笑む。

 全員がそうではないと思うけれど、この世界の先生はとても頼れる存在なのだろう。

 少なくとも私の目の前にいる先生は、頼れる人だと思う。


「……なんだか引き留めて色々話し込んじゃったね。時間は大丈夫?」

「えっ?……あ!」


 スマホで時間を確認すると、もうすでに12時を回っている。

 そろそろ二菜と合流する時間だ。

 そもそもここは関係者以外立ち入り禁止の場所だ。

 長居をしてしまった上に、先生の時間を奪ってしまった。


「ご、ごめんなさい!ここ入っちゃいけない場所で長話まで……」

「いいよいいよ、話を振ったのは私だし、こっちこそ時間を取らせてごめんね。今度からは立ち入り禁止って書かれてる場所には入らないように気を付けてね」

「はい……その、いろいろ話ができてよかったです」

「うん。頑張ってね」

「はい、それでは私はこれで……」

「文化祭、楽しんでね」


 手を振りながら見送ってくれる先生に頭を下げて、私は足早に二菜と連絡を取って合流場所を決める。

 

 それにしても……今回あの先生と話が出来て、少しだけ今後の不安が薄れた気がする。

 この先、この世界で生きていくとしても、なにをすればいいのか……自分の道が見えていない状況だったけれど、今回話をしたおかげで、少し光が指したように感じる。

 改めて心の中で村橋先生に感謝をしつつ、二菜と合流するのだった――。





――――――――――――――――――――――――――――――――――――――


 お久しぶりでございます。

 作者の小笠木詞喪おがさきしもです。


 また2週間空いてしまった……。

 これからは投稿頻度最低週一目指します(宣言)。

 

 そういえば、こちらの小説を応募していた電撃の新文芸5周年記念コンテストに中間選考通過できてしました!

 読んでくださった皆様、応援してくださった皆様、本当にありがとうございます!!

 引き続き当作品をよろしくお願い致します!


 それではまた!

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