第50話 初めての文化祭
◇アルフィリア視点◇
愛さんたちとともに歩くこと15分。
私たちは目的地である優さんの通う学校の前までやって来た。
今回は学校主催のお祭りのようなものらしく、ここに通う生徒たちやその保護者や友人と思われる人たちの多くで賑わっていた。
「―—すごい人ですね……」
「これは……思ったよりも多いね」
前に二菜と優さんと一緒に行った夏祭りを彷彿とさせる人の多さだが、あのときに比べて敷地も狭い。
実際の人数はその時に比べれば少ないのだろう。
「ここにいてもしょうがないし、早く入場しちゃいましょ」
「そうだね」
愛さんたちについて行く形で『入場受付はこちら』と書かれた場所へ行き、事前に受け取っていたバングルを受付の人に見せる。
そうして私は初めて学校の敷地内に足を踏み入れる。
「ここが……こちらの世界の学校」
ずっと気になっていた学校の中へ入ることができたためか、催しの熱気のせいかは分からないが、妙な高揚感が全身を襲う。
向こうの学園と比べると校舎は小さく、作りも全然違う。
主に貴族の子供たちが通うため、外観や内装はとても豪華な造りに対して、こちらの学校は比較的落ち着いた雰囲気で、私はこちらの方が好みだ。
生徒の数も校舎の大きさに対して、こちらの方が多いように感じる。
一般的に学校へ通うことが割と当たり前の世界だからだろう。
「初めて入る学校の感想はどうかしら?」
「えっと、その……すごく賑やかで、生徒たちも楽しそうにしていて……好ましい雰囲気の学び舎だと感じました」
「ふふっ……まあ今日は文化祭だものね。でも普段の授業がある日は意外とテンションは低いわよ?」
「あはは……違いないね。僕も学校へ行くのが嫌になることもあったし」
「そう……なんですか?」
愛さんたちは懐かしむように目を細めながら、各々学校に対する不満が大きかったことや授業へ出ることによる憂いを口にした。
でも、その表情はひどく穏やかなものだ。
きっと嫌なことも多かったけど、楽しい思いでもたくさんあるのだとわかった。
そういう学園生活を送ることへの憧れが強い分、少し羨ましいと感じた。
「……今はまだ難しいけれど、もし問題が解決すれば、アルフィリアちゃんが望めば学校へ通わせることもできると思うわ。あなたの頑張りも必要だけどね?」
「そうだね。だから今日はアルフィリアさんがこういう場所で、こういう生徒たちと一緒に学びを共にしてみたいと思えるかどうか、確かめる機会にしてみるといいよ。もちろん楽しむことも忘れずにね」
「……はい!」
そんなやり取りをしつつ、私たちは優さんのクラスの出し物がある校舎4階へと向かった。
◇優視点◇
「いらっしゃいませー。何名様ですか?」
「ご注文は和菓子セットで宜しいでしょうか?」
「二名様ご案内でーす!」
ついに迎えた文化祭当日。
俺たちのクラスはお菓子やお茶を提供する喫茶店をやっている。
仕事は接客、裏方、案内で分かれて行っており、これらをローテーションして回している。
基本的に出すお菓子やお茶などは裏で盛り付けを行っているが、足りなくなれば家庭科室を借りているので、そちらでお茶の追加を作ったり、お菓子のストックを取りに行って補充している。
裏方も表で接客をする方もかなり忙しなく動かなくてはいけない。
開始早々結構お客さんも来てくれているので、滑り出しは好調だろう。
俺はと言うと、前半接客を担当し、休憩を挟んでから裏方や案内に回ることになっている。
正直接客なんてやったことないし、見知らぬ人と会話をするのもそんなに得意ではないので、緊張やら不安やらで開始早々逃げ出したい気持ちもあるが、そうも言ってられない。
「いらっしゃいませ……って、母さんたちもう来たのか」
「はーい♡来たわよ~」
「へえ、優たちのクラスは喫茶店だったか。その格好も似合っているね」
「へいへい、どうも。……アルフィリアも来てくれてありがとな」
「い、いえ……お誘いいただいてありがとうございます」
予想よりも早く家族が来てしまったので、ひとまずマニュアル通り空いている席に案内をして、メニューを渡す。
「ご注文はいかがいたしますか?」
「う~ん、そうねぇ……洋菓子と紅茶のセットで」
「僕は和菓子セットのほうをもらおうかな」
「かしこまりました。……アルフィリアはどうする?」
「えっと……では愛さんと同じ洋菓子セットで」
「ご注文承りました。洋菓子と紅茶のセット2つと和菓子と緑茶のセットでお間違いないでしょうか?」
「はーい、合ってまーす!」
「……では、少々お待ちくださいませ」
「……様になってるね、優」
「……仕事だからな」
正直俺が裏方をやっているときにでも来てくれればよかったのだが、母さんたちが思いの外早く来てしまったので、こうして接客している姿を見られるハメになってかなり恥ずかしい。
昨日来る時間を指定すればよかったと思うが、逆に時間を指定することで怪しまれる可能性もあったので、こればっかりは仕方がない。
「そうだ。写真は撮ってもいいのかい?」
そう言いながら、父さんは仕事で使っているようなカメラをバッグから取り出す。
普通にスマホでもいいのでは?と思うのだが……。
「自分の家族か知っている生徒となら、許可を得たうえで撮ってもいいってことにしてる」
さすがに生徒や来場者の人たちのプライバシーを守るために、うちのクラスではそのように制限を設けている。
他の場所でも生徒と写真を撮る場合は、指定された場所で撮ったり、許可を得る必要があるなど、細かくルールが決まっている。
「じゃあせっかくなら4人で撮りたいわね」
「……じゃあちょっと待ってろ」
そう言い残してから一旦裏の方に行って、近くにいた二菜に声を掛ける。
「二菜、母さんたちが写真撮りたいって言ったからお願いしていいか?」
「あ、フィリアたちもう来たの?」
「ああ」
「私も挨拶したかったし、いいわよ」
「ありがとな」
快く引き受けてくれた二菜を連れて母さんたちのいる席へ戻っていく。
「あ、二菜!」
「いらっしゃい、フィリア。ちゃんと来てくれてうれしいわ」
「行くって言いましたもん。その服、似合ってますね」
「ありがと」
「こんにちは~二菜ちゃん!」
「お久しぶりです、愛さん」
とこんな感じで軽く挨拶をしつつ、写真撮影をする。
何枚か二菜も一緒に撮り終えると、受けた注文の品を用意するために裏の方に戻り、盛り付けなどをしてから、母さんたちの元へお菓子とお茶を運んだ。
いつまでも母さんたちの相手だけしているわけにもいかないので、運んだ後は他のお客さんのところへと接客に向かう。
終始母さんたちの温かい視線を感じながらの仕事はなかなかに辛いものがあったが、食べ終わってすぐにこちらに挨拶をしつつ、母さんたちは教室を出ていった。
ひとまずは母さんたちの視線がなくなって幾分か気が楽になったので、休憩の時間まで接客を頑張ることにした。
休憩時間はアルフィリアと回れれば……なんてことを考えながら接客の仕事に専念するのだった――。
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