第49話 文化祭当日 朝の一幕
◇アルフィリア視点◇
「アルフィリアちゃん~!準備はいいかしら~?」
下から愛さんの呼ぶ声が聞こえる。
私は持ち物と自分の格好におかしなところがないか簡単に確認してから下に降りる。
今日は優さんの学校で行われる催し、文化祭に行く日だ。
下に降りると、愛さんたちはすでに玄関で靴を履いているところだった。
「すみません、お待たせいたしました」
「時間にはまだ余裕あるから大丈夫よ」
「ごめんね、ほんとはもう少し遅くてもいいんだけど、愛さんが早く行きたいってて聞かな……イテテテッ!あいしゃん!?」
話の途中で、突然愛さんが希さんの頬を引っ張り、その先の言葉を遮る。
「余計な事を言うのはこの口かしら~?」
「ご、ごめん!だからひっぱるのやめへ!」
「まったくもう……」
「ふふっ」
朝から微笑ましい夫婦の光景に、思わず笑みを零してしまう。
私の両親は愛し合って結婚したわけではないので、こういったやり取りには多少なり憧れのようなものがある。
―—いずれ、私も優さんとこのお二人のような仲になれれば……。
「ふふっ、なにか楽しそうなことを想像しているみたいね?」
「うぇっ!?」
「なにか優のことでも考えていたのかしら?」
「な、なな、なにも変なことは考えてないですよ!優さんとそんなことができる関係になりたいとか、そんな……あっ……」
――図星を突かれたことを誤魔化そうとして、結局自分で誤爆してしまった……よりによってご両親に。
「あらあら……」
「あ、あのですね!ち、違うんです……いや違わないんですけど、あの、えっと……」
「別に隠さなくてもいいのよ~?というかアルフィリアちゃんがあの子に好意を抱いていることくらいとっくに気付いているもの♪」
「……えっ?」
愛さんが笑顔で言ったことを一瞬理解できず、固まってしまう。
「い、いまなんと……?」
「え?アルフィリアちゃんが優のことが好きだってことはもう私たちは気付いているって言ったのよ?ねえ?」
愛さんが目配せすると、希さんも「あはは……」と少し呆れ気味に笑みを零すので、ちゃっかり二人に私の気持ちがバレているらしい。
そう分かった瞬間には……。
「~~~~~~っ!!!!」
私の顔はおそらくりんごよりも赤く染まったことだろう。
恥ずかしさで思わずその場にしゃがみ込んでしまった。
「あらあら……」
どうしよう、穴があったら即その中に入って引き籠りたい……。
もちろんいつかは想いを……優さんに告白して、受け入れてもらえれば、そのときにお二人に話そうと思っていた。
優さんのことが好きで、今後の未来も一緒に歩んでいきたいということも。
なのに、とっくにこの想いがバレているなんて……。
それから気持ちが落ち着くまで、少しの間顔を上げることができずにしゃがみ込んだままでいるのだった。
なんとか恥ずかしい気持ちをなんとか抑えることができたので、私たちは優さんの学校へ向けて出発した。
優さんの通う学校まではそこまで離れているわけじゃないそうなので、今回は徒歩で向かうことになった。
愛さんたちと出掛ける場合は基本的に自動車に乗って移動することが多いが、今回は学校側から車で来るのは遠慮するように言われているらしい。
そもそも車を停める場所がないし、近くのお店の駐車場に停めるのは迷惑になってしまう、と希さんが説明してくれた。
この世界においての車は私の元いた世界で言うところの馬車だけど、普及している台数が全然違う。
馬車は非常に高価なもので持っていたのは貴族くらいで、街を走る数も多くはない。
しかし、この世界の自動車はいろんな家庭で比較的普通に持っているもので、台数も多い。
当然車を停める場所もその分必要になっていくけど、今回のように催しがある際は一か所に集中してしまうため駐車場の供給が間に合わないのだろう。
利便性のあるもの故多くの人が使う分、こういうときには持つことに不便さを感じるものだな、と自動車について自分なりに考えていると、隣を歩く愛さんがこちらに話しかけてきた。
「そういえばさっきの話の続きだけどね?」
「…………」
さっきの話、というのは私が悶絶していたときの話だろう。
ここで掘り返すとは思っていなくて、つい表情を強張らせてしまう。
「そんなに警戒しなくてもいいのよ?別に反対するつもりもないし、むしろ親としては嬉しいのよ?」
「う、嬉しいものなんですか?」
「そりゃそうよ。あの子を魅力的な子だって思ってくれる子がいてくれるってことなんだから、嬉しいものよ。それがこんなかわいい子だったら尚更よ!」
「僕も嬉しいな。優はある出来事がきっかけでいまみたいなちょっと後ろ向きな性格になってしまったけど、元々は優しい子だったから、それを見つけてくれる子がいるのはとても喜ばしいことだよ」
お二人は私の優さんへの想いを、気持ちを肯定してくれている。
でも、私は一つはっきりさせなくてはならないことがあった。
「……私が、優さんのこと、本当に好きになっていいんでしょうか。いまはただ、皆さんに甘えているだけで、なにもお返しができていない私が……家族になっても、いいのでしょうか」
私は結局、別の世界から来た余所者だ。
早乙女家のご厚意で家に置いてもらえて、よくしてもらえているだけの他人に過ぎないのに、図々しくも息子さんと恋人に、あわよくば……なんて考えてもいいのだろうか。
そんな考えに俯いていると、ふと隣から抱き寄せられる。
「えっあの……」
「何を言ってるの?アルフィリアちゃんはもう、私たちにとっては家族なのよ?」
「えっ…………」
「血の繋がりなんて関係ないし、もちろん色々考えないといけない柵もあるけれど……私たちがあなたのことをもう、家族だって思ってるってことは知っていてほしいの。だから、恩返しだとか、迷惑だとか、そんなことは考えなくていいのよ」
「……っ!」
「そうだね。僕も愛さんも、それに優もアルフィリアさんのことは家族だと思っているよ。だからいくらでも頼ってくれてもいいんだよ」
「……はい」
「それに、さっき好きになっていいのかって聞いてきたけれど、もう好きなのでしょう?ならその気持ちは大事にしなさいな」
「…………はい!」
私は、込み上げてくるものを堪えながら、何とか返事をする。
胸が……心が温かくなる。
家族だって思ってもらえていること。
優さんのことを好きだという気持ちを大切にしてほしいと言ってもらえたこと。
これだけで、すごく温かい。
――ほんとにいい人たちだ。
「そうねぇ、もし恩返しをって考えているなら、これからも元気で健やかに生きて、いずれ孫の顔でも見せてくれれば嬉しいわ♪」
「~~~~~~~~~~~~っ!!!!!」
ま、孫っ!?……ということは私と優さんの間に子供を……!?
つ、つまり私と優さんで夜の営みを……。
まだ恋人同士ですらないのに、わ、私は何を考えて……!?
「あら~?何を考えているのかしら~?」
「な、なにも変なことは……!」
今回はなんとか誤爆せずになんとか誤魔化す。
顔が赤いのでなんとなく察しは付いていそうだが、自分の口からはとても言えない。
「それに私たち、まだ恋人同士でもないのに……」
「ん~……まあそれについては心配ないわ。どうせもうすぐだろうし」
「えっ?」
「そうだね。あの様子だと、決心はついていそうだしね」
「えっ?えっ?」
愛さんも希さんもなにかを知っているかのような口ぶりだが、なんのことだかさっぱりだ。
何の話をしているのだろうか。
「大丈夫よ。あなたは受け止める準備だけして待っていればいいのよ♪」
「う、受け止めるって何をですか!?」
「あら、ちょっとのんびりし過ぎちゃったみたいね。少し急ぎましょうか」
「そうだね。せっかくの息子の晴れ舞台だし、しっかり楽しんでおかないと」
「あ、あの!さっきのどういうことなんですかー!?」
私の叫びも虚しく、二人はニコニコとするだけで結局教えてはくれず、悶々とした気持ちで後を追いかけることになるのだった――。
――――――――――――――――――――――――――――――――――――――
作者の
また少し投稿期間が空いてしまい申し訳ありません。
先週からまた仕事や歯医者に行って、その治療の影響で歯が痛くて執筆どころではなかったりとなかなか進められずにいました。
次回は多分また来週になってしまうかなぁ……といった感じです。
物語ももうすぐクライマックスのところを迎えれそうです!
次回は本格的に文化祭スタート!
引き続きよろしくお願い致します!
もし面白いと感じて頂けたら応援や☆などよろしくお願い致します!
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