第42話 くじ引き

◇優視点◇


「えー、皆さんご存知の通り、来月の下旬に文化祭があります」


 ホームルームの時間に、担任の先生が出した議題に教室がざわつく。

 高校生活で初めての文化祭ともなれば、みんなテンションも上がるのだろう。

 正直俺はクラスの出し物によっては準備が相当面倒くさいと思うので、あまりテンションは上がらない。


「そこでみんなには文化祭の出し物を決めてほしいんだけど、まずは各クラスから二人、実行委員を決めないといけないの」

「え~、実行委員とかちょーめんどーじゃない?」

「俺やりたくねーわー」


 と、教室のあちこちで実行委員をやりたくないであろう生徒たちの言葉が飛び交う。

 口には出さないがもちろん俺も嫌なので、できることならばクラスの善良な生徒が引き受けてくれることを願うばかりだ。


「……まあ、予想通りね。みんなが絶対にやりたくない!って言うと思ったので……こんなこともあろうかと!」


 ダンッ!と音を立てながら、先生が教卓の上に手作り感満載の箱を置く。


「先生、くじ作っておきました。廊下側の人から順番に引いて、赤丸が書かれた紙を引いた幸運な二名に実行委員をやってもらいます」


 たしかに話し合いで実行委員を決めようものなら、醜い押し付け合いが始まりそうなので、くじ引きのほうが合理的かもしれない。

 当たる確率は2/35……約5.7%なので、当たったら腹を括るしかないだろう。


「それじゃ、廊下側の人から順番に引いてねー」


 というわけで、ついに始まったくじ引き。

 俺の席は真ん中の列の後ろの方なので、順番的には後半に差し掛かるくらいだ。

 ここまで来る間に1枚くらい当たりくじが当たる可能性は十分ある。

 それに期待することにして、自分の番を待った。



 期待も虚しく、1枚も当たりくじが出ないまま自分の番が回って来た。

 残り枚数は15枚で当たりが2枚なので、約13%と最初の倍以上の確率になっている。

 みんな引き運強すぎないか……?


 まあここで渋っていても引くしかないので、意を決して箱の中に手を突っ込み、くじを1枚引く。

 恐る恐る開いて、中を確認する。


「……マジかよ……」


 無情にも開いた紙には赤丸と、先生直筆であろう『おめでとう!君は選ばれし者だ!』となんとも子供っぽい文章が書かれていた。


「お?その様子だと早乙女君が当たりかな?」

「……はい」


 当たってしまったので、観念してくじを先生に見せる。


「うわっ、超嫌そうな顔」

 

 実際、きっとすごい顔をしているだろう。

 無理やり押し付けられなかっただけ幾分かマシだが、やることになった以上は面倒なことこの上ないので、嫌な顔一つくらいしたくもなる。


「とりあえず一人目は早乙女君ね。よろしく」


 と、黒板の実行委員のところに俺の名前が書き込まれていく。

 

「―—俺当たんなくてよかったわ~」

「もし当たったら、早乙女とでしょ?あいつ仕事すんのか?」

「早乙女君なんかちょっと怖いし、一緒に仕事できる気しない……」

「柚原さん辺りがいいんじゃない?あ、でもハズレ引いてるんだった。当たる人可哀そうー」


 俺が文化祭実行委員に決まった途端、クラスメイトが小声でそんなことを話し始める。

 誰もが俺と一緒に仕事をすることになる可能性に、嫌悪感を抱く反応ばかりだ。

 ―—まあ、俺のクラス内の評判なんてこんなものだ。


 クラスのマドンナ的な女子生徒に冷たい態度を目の前で取って、かつ怒らせてしまったのだから立場が悪いのなんて分かり切っていた。

 せめて一緒に仕事をする相方に迷惑を掛けないようにするくらいしか、俺にできることはない。


「……先生、私が実行委員やってもいいですか?」


 そんなとき、一人の女子生徒が手を挙げて実行委員に立候補した。

 俺を含めたクラスメイト全員がそちらの方に顔を向けて、驚いた表情を浮かべる。

 

「そりゃあ立候補はもちろん構わないし大歓迎だけど……」

「それじゃあ、よろしくお願いします」

「……わかりました。それじゃあ、早乙女君と白瀬さんの二人にお願いします」


 突然の立候補により、くじ引きは終了となった。

 先生が黒板に俺の名前の隣に立候補した女子生徒の名前を書き込む。


 実行委員


 ・早乙女優

 ・白瀬しらせかおる

 

 このように決まった。


「……よろしくね?早乙女君」

「……あ、ああ……よろしく」


 白瀬が微笑みながら、俺に向かって言う。

 

「それじゃあ早乙女君、白瀬さん。さっそく出し物を――」


 こうして、俺と白瀬―—入学したばかりの頃に俺が傷つけてしまったクラスのマドンナ的存在と一緒に文化祭実行委員をやることになったのだった――。

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