第40話 優の誕生日
◇優視点◇
今日は俺の誕生日ということで、いつもよりちょっぴり豪華な夕飯を終えると、母さんの手作りだと思われる16の数字の形をしたろうそくが載ったチョコレートケーキが運ばれてきた。
両親とアルフィリアに見守られながらろうそくの火を吹き消したとことで、三人からお祝いの言葉を掛けられた。
「誕生日おめでとう、優」
「おめでとう」
「お誕生日、おめでとうございます!優さん」
「ありがと……ってなんだか恥ずかしいな」
こうして祝ってくれるのは毎年のことなのだが、なんだか少し気恥ずかしい。
それでも、みんな心から喜ばしいと思って祝ってくれているのだから、嬉しいと思いはすれど、嫌だと思うことなどあるはずがない。
「さっ!ケーキを切り分けましょうか」
母さんはそういって、テキパキとケーキを切ってお皿に乗せていく。
毎年やっていることなので、さすがに手馴れている。
「それにしても、今年はチョコレートケーキにしたんだな」
そう、俺の誕生日に出てくるケーキは毎年違うものが出てくる。
母さん曰く、「毎年同じケーキって言うのも面白くないし、違いがあったほうが1年経ったって実感できると思うの」と考えているらしく、去年は苺のタルト、その前はショートケーキと、出すケーキを変えている。
「ええ。でも10年以上作っているとネタがなくなってくるのよねぇ。来年は半々で別々の味がするケーキにでもしてみようかしら」
「別にそんな凝らなくても……」
我が親ながらこのこだわりっぷりは尊敬するべきなのか呆れるべきか。
祝ってくれるだけでもありがたいことなので、そこまで無理しなくてもいいとは思うが、お祝いに妥協はしたくないと考えているからだというのは理解しているので、やめてくれとは言えない。
「愛さん、お誕生日のたびにケーキを変えているんですか?しかも手作りで?」
「ああ、母さん器用だし、割と何でもできちゃう人だからな」
「すごすぎます……。こんな立派なケーキを作れるだけでもすごいのに、毎年変えているなんて」
「あら?でも今回のケーキはアルフィリアちゃんも手伝ってくれたじゃない」
「そうなのか?」
「い、いえ!私は大したことは……ほとんど愛さんが作りましたし」
どうやら今年のケーキはアルフィリアも作るのを手伝ったらしい。
「アルフィリアちゃんね、ケーキだけじゃなくて、優に喜んでほしいから私にも手伝わせてほしいって準備までいろいろ手伝ってくれたのよ?ほんとにいい子よねぇ」
「あ、愛さん!は、恥ずかしいのでそれは言わないでください!」
「照れなくてもいいのに」
「ありがとな、アルフィリア」
「……喜んでくれたのなら、なによりです」
こんな俺の為にいろいろしてくれたことにお礼を言うと、顔を赤くして俯いてしまった。
「ほら、愛さんもあまり揶揄うのはよくないよ。アルフィリアさんが赤くなってしまったじゃないか」
「はぅ……!」
「父さんも揶揄ってるよな」
「さて、なんのことかな?」
まともなことを言っているはずなのに、ちゃっかり揶揄っている辺りさすが父さんという感じだ。
こんなやり取りをしつつ、アルフィリアが回復するのを待ってからみんなで母さんとアルフィリアお手製のチョコレートケーキを食べるのだった。
「それじゃあ、ケーキも食べ終わったところで!」
パンッ!と手を叩きながら、母さんはいよいよといった感じで切り出した。
「はい!これ、私と希さんから優に。誕生日プレゼントよ」
「ありがとう」
渡されたのは綺麗にラッピングされた手のひらくらいの大きさの箱だった。
「開けてもいい?」
「もちろんだよ」
許可も得たのでさっそく開けてみる。
丁寧にラッピングを剥がして中から出てきたのは――。
「―—腕時計?」
両親からのプレゼントは腕時計だった。
見たところかなりいいものだ。
「うん。この先あって損はしないだろう?」
「……そうだな。ありがとう、父さん、母さん」
ちゃんと俺の将来のことも考えて選んでくれたプレゼントに、素直な感謝を口にする。
「そして最後はお待ちかねの~?アルフィリアちゃんから優へのプレゼントがあります!」
「あ、愛さん……そんなに盛り上げなくても……」
「アルフィリアも用意してくれたのか」
「は、はい……喜んでいただけるかはわかりませんが……」
そういって、アルフィリアは一つの紙袋を俺に差し出す。
「改めて、お誕生日おめでとうございます、優さん」
「ありがとう。開けてもいいか?」
「……はい、どうぞ」
紙袋を開いて、中身を確認する。
中に入っていたのは――猫柄のマグカップだった。
「……その、優さん毎朝コーヒーを飲んでいらっしゃったので、それでマグカップにしてみました」
たしかに朝コーヒーを飲まないと一日始まったと感じないから、日課として飲んでいる。
このプレゼントも、そこを見て選んでくれたのだろう。
「……ありがとな、アルフィリア。さっそく明日から使わせて――」
「―—それと……!」
明日から早速使わせてもらうと伝えようとしたところで、アルフィリアに遮られる。
「まだあるのか……?」
「あ、いえ……その……」
「……?」
何故か視線をあちこちに彷徨わせながら、どこか緊張した様子のアルフィリア。
一体どうしたのか。
「……実は、優さんと同じものを使いたいと思って。色違いで同じ柄のマグカップを私も買っていて……」
そう言って、恐る恐ると言った感じに、アルフィリアも同じ柄のマグカップを取り出す。
「それでその……よかったら、明日これで一緒にコーヒー、飲みませんか?」
「…………えっ!?」
一瞬言われていることの意味が分からずフリーズしていたが、理解した瞬間変な声を出してしまった。
つまりはお揃いの物を使いたいから同じ柄の物を買って、明日それを使って一緒にコーヒーを飲んでくれないか、というアルフィリアの可愛いお誘いだった。
――なにそれずるい。
「ダメ、ですか?」
アルフィリアが若干顔を桃色に染めながら上目遣いで聞いてくる。
その顔は反則だ。
「……もちろん、いいぞ」
嬉しさと恥ずかしさとか、いろんな感情がごちゃ混ぜになってしまったためにたどたどしい返事になってしまった。
お揃いのものが使いたいという可愛らしい考えと、可愛いお願いの仕方に、俺が断れる道理などあるはずがない。
「……!ありがとうございます!」
こうして、明日の朝同じ柄のお揃いのマグカップを使って、二人でコーヒーを飲む約束をした。
「ふふっ。微笑ましい光景ね」
「そうだね」
そんな俺たちの様子を温かい眼差しで父さんたちが見守っていることに気が付くのは、少し後になるのだった。
こうしていつもより少し騒がしく、恥ずかしくて楽しい誕生日会は終わった――。
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