第39話 16歳になった朝の一幕

◇優視点◇


「んっ……」


 カーテンから差し込む陽の光で目を覚ます。

 ベッドから上半身だけ起こし、軽く伸びをする。

 普段と何ら変わりない朝ではあるけど、今日一つだけ変わったことがある。


「……今日、俺の誕生日か」


 そう、今日8月29日に誕生日を迎え、16歳になる。

 だからといって大きな変化があるわけでもないので、普通にベッドから出る。

 もしいつも通りの誕生日なら、ウチの両親は今夜にお祝いをしてくれるだろう。

 例年と違うことがあるとすれば、アルフィリアがいることくらいだ。


 ピコンッ


「ん?……二菜からか」


 ベッドから出たところで机の上に置いておいたスマホの通知音が鳴ったので確認すると、二菜からのメッセージが届いていた。


『おはよう優。誕生日おめでと』


「相変わらず律儀な奴め」


 二菜は俺の誕生日の日はこうして必ず朝にお祝いのメッセージを送ってくれるのだ。

 いつもなら休みの日のこの時間はまだ寝ている時間だろうに、わざわざこのために早めに起きていると本人が言っていた。


『サンキュー』


 二菜のメッセージに簡潔に返信すると、すぐさま次のメッセージが送られてきた。


『誕生日プレゼントは学校が始まってから渡すわ。今日は愛さんたちやフィリアにたっぷり祝われなさい。それじゃ、おやすみなさい』


「あいつ、この時間から二度寝するのか?」


 まさかこの時間まで起きていたなんてことはないだろうが、宿題をこの間俺の手伝いのもと終わらせたからってだらけすぎじゃないか。

 まあまだ夏休みなので問題ないが、学校が始まったら苦労するのは本人なので寝坊して遅刻したら自業自得と言うことで受け入れてもらうほかない。


「さて、そろそろ下行くか」


 ひとまず朝のコーヒーでも飲むために部屋を出て一階へ降りる。



「あ、おはようございます優さん」

「おはようアルフィリア」


 一階に降りてリビングへ入ると、キッチンで朝ごはんを作っていたであろうアルフィリアが挨拶をしてくる。

 それに返事をしつつ俺もキッチンへ足を踏み入れると、マグカップといつものインスタントコーヒーを棚から取り出す。


「あっ……」

「ん?どうかしたのか?」


 俺が棚からマグカップを取り出したところでアルフィリアが声を出したので、何かあったのかと思い、声を掛ける。


「い、いえ!なんでもないです!」

「……?ならいいけど」


 アルフィリアの様子に違和感を覚えるが、本人が何でもないと言っている以上、追及はしないことにした。

 もしかしたら今日が俺の誕生日だと母さんたちから聞かされていて、何かしらサプライズでもあって動揺しているのかもしれない。

 だとすれば隠し事下手過ぎないかと思わなくもないが、そこを問い詰めるような野暮なことはしない方がいい。

 

「あ、そうだ。優さん、朝ごはんどうしますか?」

「食べるよ。なんなら俺も作るの手伝おうか?」

「あ、いえ!もうほとんど作り終わっているので……テーブルで待っていてください」

「わかった。ありがとうアルフィリア」

「はい。では少し待っていてくださいね」

「ああ」


 アルフィリアがそう言うのであれば、自身のインスタントコーヒーを淹れてから食卓に座る。

 ふとキッチンに立つアルフィリアの姿を見つめる。

 いまではすっかり、朝のこの光景も見慣れたものになった。

 最初の頃は調理器具や電子機器の扱いに苦労してあたふたしていたのに、今はもうそんなこともなく堂々としている。

 慣れてくれたみたいで俺としても喜ばしい。


「……あの、そんなに見つめられると、その……恥ずかしいです」

「あ、すまん」


 我が子の成長を見守る親のような目線になって見つめていたら、若干顔を赤らめたアルフィリアに咎められてしまった。

 

「そんなに見ていて楽しいものですか?」

「楽しいぞ。最初の頃はあたふたしていたアルフィリアの成長を感じられて。最近作ってくれるご飯もおいしいし、ほんとに助かるなーって。」

「……!もう……褒めても朝ごはんくらいしか出ませんよ」

「それはありがたいな。もっと褒めようか?」

「もう!からかわないでください!」

「悪い悪い」


 あまり揶揄い過ぎると拗ねて朝ごはんを引っ込められそうなので、この辺にしておく。

 アルフィリアは顔を真っ赤にしつつも出来上がった朝食を二人分食卓に運んでくれたので、それをありがたく頂きつつ、のんびりと夕飯までの時間を過ごすのだった――。

 

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