第38話 プレゼント選び、その後
◇アルフィリア視点◇
雑貨屋で無事優さんの誕生日プレゼントを選ぶことができた私たちは、喫茶店に来ていた。
「今日は本当にありがとうございました、二菜」
「いきなりどうしたのよ」
「えっと……二菜がいなかったら、きっとプレゼント決まらなかったと思うので」
仮に私1人で買いに来ていたら、今回のプレゼントにたどり着けていたかどうかわからない。
「力になれたのなら何よりよ。それに、可愛いフィリアも見れたし」
「えっ?か、可愛い?」
「プレゼントの入った袋を抱えてたフィリアすっごく可愛い顔をしていたわよ?」
「ど、どんな顔してたんですか!?」
自分ではその時どんな顔をしていたのか分からない。
二菜の反応を見るに、さぞ嬉しそうな顔をしていたのだろうが自覚はない。
「そりゃあもう……こんな顔よ」
私の質問に対して二菜がスマホを取り出して、とある画面を私に見せた。
そこには……。
「い、いつのまに!?」
なんとプレゼントの入った袋を嬉しそうに抱えて、頬がゆるゆるになっている自分の姿の写真が表示されていた。
いつのまにか写真に撮られていたらしい。
恥ずかしい……。
「あんまりいい表情するもんだから、思わず撮っちゃった♪」
「け、消してください!恥ずかしいです!」
「嫌よ~。そうだ、誕生日の日にこの写真も優にあげようかしら」
「やめてください!しょ、しょうぞうけん?の侵害です!」
「肖像権って……難しい言葉覚えたわねアンタ……」
肖像権というのはここ最近覚えた言葉の一つだ。
家事などの休憩時間にスマホの操作に慣れるため、そしてこの世界のことを知るための一環として検索機能でいろんなことを調べるようにしていた。
肖像権という言葉は朝テレビのニュースで見かけた言葉で、意味が気になって調べていた。
「とにかく!その写真絶対優さんには見せないでくださいね」
「はいはいわかったわ」
私が念を押して頼むと、本当にわかっているのか微妙な反応を返されてしまった。
これ以上は私にどうすることもできないので、二菜を信用するしかない。
「お待たせ致しました。ご注文の品をお持ちしました」
「ありがとうございます」
私と二菜のそんなやり取りの直後、店員さんが注文していたケーキや飲み物を持ってきてくれた。
私の前にティラミスとアイスカフェラテ、二菜の前に和栗のモンブランとバナナミルクを置いてから、丁寧なお辞儀をしながら「ごゆっくりどうぞ」と言って店員さんは戻っていった。
「……そういえば、今日何か話があるんですよね?」
届いたカフェラテを一口飲んでから私はそう切り出した。
元々今日プレゼント選びのほかに、お茶をしようと提案したのは二菜だ。
そして、夏祭りの時に話したいことがあったようで、今度お茶しながらでも話そうと言っていた。
つまり、今回はそのときの話をする目的があるのだろう。
「そうね。夏祭りでいろいろあったからフィリアにも話しておこうと思って。その様子だと優からは何も聞いていないみたいだし」
「優さん……?」
どうしてそこで優さんの名が出るのだろうか。
もしかして、優さんがはぐれた二菜を探しに行ったときに何かあったのだろうか。
「先に謝っておくわね。ごめんなさい」
「えっ?えっ?」
突然の謝罪に何のことか全くわからずに混乱する。
なにか謝られるようなことをされただろうか。
全く身に覚えがない。
「私とフィリアの勝負は覚えてるわよね?」
「は、はい、もちろん」
もちろん覚えている。
私が初めて二菜と二人きりで遊びに行った際に交わされた『どちらが先に優さんに告白させられるか』という勝負。
私が自分の恋心を指摘され、前向きに頑張ろうと思うきっかけをくれたので、忘れるはずもない。
でもそれが一体どうしたのだろう。
「その勝負に『自分たちから告白しないこと』っていうルールがあったんだけど」
「はい」
「私、それ破っちゃった」
「……えっ?」
自分から告白をしないルールを破った……?
ということは、二菜は優さんに告白をしたということになる。
いつ……というのは夏祭りの時だろう。
つまり先ほどの謝罪はルールを破ってしまったことに対するものだったようだ。
「それと……」
「ま、まだなにか……?」
さっきの話だけでも驚きを隠せないのに、さらにまだなにかあるようだ。
すでに私の心の中に不安が広がって気が気じゃない。
「……私、優のファーストキスもらっちゃった♪」
「…………へっ?えっ?キ、キス……⁉」
二菜と優さんがキスをした。
その事実はまるで雷が頭上に落ちたかのような錯覚に陥るほどに衝撃的なものだった。
二人がキスをしたということは、二菜と優さんは恋人同士になったと……?
そう思った途端、なんだか気持ちにモヤのようなものを感じて。
「だから――」
「―—お、おめでとうございます!やっぱり私じゃ二菜に勝てませんでしたね」
気持ちが段々と自分で制御できなくなって、二菜の顔が見れなくて、次々と逃げの言葉が口から飛び出す。
「えっ?ちょ、ちょっと……!」
「す、すみません。私、今日、なんだか――」
「待ってフィリア!」
ここに居るのが少し辛くて、急いでここを離れようとしたところで二菜に手を掴まれて引き留められる。
そこで私は自分が冷静さを欠いていたことに気づく。
「フィリア、なにか勘違いしてるわよ」
「……勘違い?」
「私、優に振られたのよ」
「…………えっ?」
二菜がそんなことを言った。
どういうことだろうか。
あの日二菜は優さんに告白して、二人はキスして……。
「私は優に振られたの。勝負に負けたのよ」
「でも、さっきキスしたって……」
「それはその……場の流れというか勢いというか……つい、やっちゃっただけで、キスしたあとに告白して振られたのよ、私」
「…………」
二菜はなんでもないように、むしろ私をなだめる目的であの日の真実を語った。
「だからさっきは、優のファーストキスをフィリアより先に奪っちゃってごめんなさいって言おうとしただけよ。……急にどっか行こうとするもんだからびっくりしちゃったわ」
「ご、ごめんなさい。私、とんでもない勘違いを……」
勝手に二人は付き合っていると結論付けて、今回ゆっくり話す機会を作ってくれた二菜の厚意を無下にするところだった。
今回プレゼント選びを手伝ってくれた恩を仇で返すような行為だ。
「私の説明も意地悪だったわ。ごめんなさい」
「いえ……」
「というわけだから、もうここからはフィリアが頑張って優に告白される、いわば優とフィリアの勝負だから頑張りなさい」
「……はい」
こうして勝負が終わったことを告げられた。
二菜は特に気にした様子もなくさっぱりとしていて、どこか吹っ切れた様子だ。
私が勝負をするにあたって懸念していた二菜との仲が悪くなるといったことはなく、その心配をしていたのが馬鹿らしくなるほどにあっさりとしていた。
「これでこの話は終わり。今の話は本題の前振りみたいなものよ。話したいことは色々あるんだし、引き続きお茶を楽しみましょ。飲んでるのはカフェラテとバナナミルクだけど」
「……ふふっ。そうですね」
二菜の一声で先ほどまで胸の中にあったモヤは消える。
「そうそう。今度うちの学校で文化祭が――」
ここからはいつも通り、友達同士の普通の会話だ。
二菜の言う通り飲んでいるのはお茶ではないけれど、そんなのは些細な話だ。
私たちはそれから時間の許す限り、話に花を咲かせるのだった――。
あとは、私が優さんを振り向かせるために頑張るだけだ。
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