第37話 プレゼント選び

◇アルフィリア視点◇


「あ、フィリア―!」


 集合時間の10分前に待ち合わせ場所に着くと、すでに来ていた二菜がこちらに手を振って私を呼んだ。

 少し待たせてしまったかと思い、私は小走りで二菜の元に向かった。


「おはようございます、二菜。待ちました?」

「おはよ。私も今さっき来たところ……っていうかこのやり取り、なんかカップルみたいね」

「そうなんですか?」


 今のやり取りのどこにカップル要素があったのか私には分からないけど、こちらの世界ではそういうものなのだろう。


「それじゃあ、パパっとプレゼント選んで後はお茶しましょうか」

「はい、宜しくお願いします」


 パパっと選び終わるかは心配だけど、ここで立ち話をしているわけにも行かないので、本来の目的を果たすために私たちは場所を移動した。

 

「そういえば、二菜はいつもプレゼントはどういう風に選んでるんですか?」

「私?私は結構適当に選んでるわよ」

「えっ?て、適当……ですか?」


 プレゼント選びの参考にと思い聞いてみると、返って来たのは意外な返答だった。

 

「そう、適当」

「……そういうものなんですか?」


 いまいち府に落ちない私は、思わず聞き返してしまう。

 喜んでもらいたいからいろいろ考えるものだと思っていたから、その返答には驚いてしまった。


「そういうものよ。それに適当とは言ったけど、相手のことをちゃんと考えて選んだ物なら、基本的に相手が嫌がるようなものになることはないわ。だから相手が貰ったら喜びそうだなって思ったものからビビッと来たものを適当に選んでいるわ」

「……なるほど」


 二菜は適当とは言ったけど、なんでもいいから買って渡す、という意味ではなく、相手のことを考えた上で選んだ物からあまり深く考えずに選んでいるらしい。

 二菜は優さんとの付き合いも長いので直感でも喜びそうなものとかが分かるということもあると思うけど、それでもずいぶんさっぱりしていると思った。


「……私、ちゃんと選べるか不安です」

「まあ、気楽に行きましょ。相談には乗ってあげるから」

「はい、頼りにしています」

「任せなさい。ひとまず雑貨屋に行くわよ」


 不安を抱えつつも、私たちはひとまず雑貨屋に行くことにした。




 雑貨屋に到着した私たちは、一度店内を見て回ることになった。

 この世界に来て雑貨屋に来るのはこれで2度目になるが、何度も見ても驚かされるほどの品々だ。

 元いた世界の雑貨屋は、ダンジョンでのドロップ品でギルドで買い取ってもらえなかったものだったり、武具を除いた冒険者御用達のポーションなどのアイテムを置いている印象が強かった。

 ここでは小物や日用品、食品など取り扱っている商材の種類も豊富なので、ここでも十分プレゼントに適したものは選べそうだ。


「ん~……どうしましょう」


 それでも選べるかは別問題であり、案の定私は頭を悩ませることになった。

 これだけの種類の品の中からコレだ、というものを探すのはプレゼント選び未経験の私にはやはり難易度が高い。

 色んな柄のコップ、スタンドライト、スマホカバー……目につくものはいくつかあるが、本当にこれでいいのか、という懸念が頭を離れず、どれも決め手に欠ける。

 どうするべきか……。


「決まった?」

「いえ、まだ……って、その袋……」


 二菜が声を掛けてきたのでそちらに顔を向けると、その手にはこのお店のロゴが描かれた袋が提げられていた。


「私の方は終わったから様子を見に来たのよ」

「えっ!?もう選んだんですか!?」

「うん、終わったわよ?」


 私が動かずに悩んでいたほんの少しの間に、二菜は選び終わるどころかすでにお会計まで終わっていた。

 プレゼント選びってこんなに早く終わるものなのだろうか……。


「ち、ちなみに参考程度にお聞きしたいんですが、何にしたんですか?」

「私は筆入れにしたわ」

「筆入れ?」

「うん。昨日優と夏休みの宿題をやって……ではなく、手伝ってもらってたんだけど、そのときに優の筆箱がくたびれてたから」


 確かに優さんは昨日の朝早くから二菜の家へ出かけているとは聞いていたけど、宿題をやっていたらしい。

 そのときに筆入れがくたびれていることに気づいてプレゼントに選んだようだ。

 二菜もよく見ているからこそ選ぶことができたものだろう。


「私、まだ決まってません……」

「なにで悩んでいるの?」

「まだなにも決まらなくて……いろいろ目につく商品はあるんですが、どれもしっくり来なくて」

「ふ~ん……。それなら普段一緒に生活しているうえで、優がよく使っているものとか分からない?いつもしてることとか」

「いつもしてること……」


 二菜に言われて私は優さんと一緒に過ごす時間を思い返す。

 思い出すと恥ずかしくなったり、嬉しくなったりする場面も思い出すが、今はそこじゃない。

 必死に思い返していると一つ、必ず毎日していることがあった。


「そういえば、優さんは毎朝必ずコーヒーを毎日飲んでいる気がします」


 そう、朝一緒に食卓に座ると、優さんは和食でもそうでないときも食後にはコーヒーを飲んでいた。

 最近では私も一緒にミルクとお砂糖を入れたコーヒーをよく飲んでいるので、ほぼ毎日飲んでいるのは間違いない。


「それなら、よさそうな物は思い浮かぶんじゃない?」

「……マグカップ」


 脳裏に浮かんだものの名前を口にする。

 言葉にしてみると、不思議とストンッと心の中にはまらなかったピースがはまったような感覚を覚える。

 きっと、これだ……というように。


「マグカップなら、あっちにあったわよ」

「ありがとうございます」


 二菜が指さした方へと行くと、言われた通りマグカップが置いてあった。

 いろんな色や形、柄のものがあった。

 問題はどれにするべきか。

 花柄……は男性に贈るには少し違う気がする。

 ハート柄は、きっと優さんが使うのをためらってしまうだろう。

 となると、やはり無難なのは動物の絵が描かれたものが無難だ。


「でも優さんの好きな動物、私知らない……」


 当然優さんの好きな動物など知るわけもなく、しかも私の見たことのない動物までいるので選ぶのが難しかった。


「優の好きな動物は猫よ」

 

 私の後ろについてきた二菜が指をさしながら、猫柄のマグカップを指さす。

 私はそれを手に取ると、一周回して見る。

 黒いマグカップに白い線で可愛らしい笑顔の猫が二匹、寄り添う姿が描かれた非常に愛らしいデザインだ。

 

「……これにします」


 手に取って、しっかり見た上でもこのプレゼントが一番しっくりくる。

 

「決まったみたいね。……そうだ、どうせならフィリアも同じの買っちゃえば?」

「えっ?」

「ほら、ここに色違いで同じ絵が描かれたやつがあるでしょ?ついでに自分用にフィリアも買ってみてもいいんじゃない?」


 たしかに隣に同じ柄の白いマグカップが置かれていた。

 でも、これは優さんへのプレゼントなのに、自分用に買う意味はあるのだろうか。


「同じのを買って、優と同じものを使いたいからって言いながら渡せば、優も喜ぶと思うわよ?」

「え、えぇ……」


 それはどうだろうか……と疑問が浮かぶ。

 たしかに同じものを使うと言うのは特別感があるのかもしれないが、優さんはそれで喜ぶだろうか。

 

「……ほんとうに優さん、喜びますかね?」

「大丈夫。私を信じなさい」

「…………」


 私はもう一つのデザインのほうを手に取ってみる。

 ……たしかに同じものを使いたいって思うし、喜んでくれるならなおさらだ。

 

「……お会計、行ってきます」

「両方とも買うのね」

「……まあ、可愛いですし。優さんが喜ぶなら、私もそうしたいので」

「そう。ならいってらっしゃい。レジの人には優にあげる方をプレゼント包装してくださいって言えば包んでくれるから」

「わかりました」


 マグカップを二つ持ってレジに向かい、二菜に言われた通り黒い方のマグカップのプレゼント包装をお願いして、お会計を済ませる。

 あとは包んでくれるようなので終わるまで少し待つように伝えられた。

 ともかく、二菜のアドバイスのおかげでいいプレゼントを選ぶことができてよかった。

 あとは当日渡すだけだ。

 今からでもすでに緊張してしまう。


 喜んでくれるといいな……と思いながら、プレゼントの包装が終わるのを待つのだった。

 

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