第33話 気持ち
◇二菜視点◇
「まさかはぐれてしまうなんてね……」
私は一人、人混みの中でため息を吐く。
りんご飴などを買って、優たちの元に戻ろうとしたところで人混みに飲まれてはぐれてしまった。
軽く周囲を見渡してみるが、優たちの姿は見つからない。
「まあでも、スマホで連絡を取れば……」
連絡を取って、合流すればいいのだ。
何も焦る必要はない――はずだった。
「あれ……充電切れ!?」
こんなときに限って、まさかの充電が切れていた。
これでは連絡を取ることもできない。
「…………」
まあ、それでもいいか――そう思ってしまった。
きっと、私がいたら邪魔になってしまう。
夏休みの間、二人と一緒にいる時間が増えたことで嫌でも思い知らされる。
自分に勝ち目などないこと。
「馬鹿ね、私も」
自嘲気味に呟いて、私は空を見上げる。
雲一つない夜に変わっていく空に、もうじき花が咲く。
いっそ二人だけで花火を見て、いいムードになって付き合ってくれればいい。
そうすれば私も割り切れるはずだ。
そのためにフィリアと勝負をしようと持ち掛けた。
でも、もうこの勝負も意味を成さない。
「―—頑張りなさいよ、優」
本当は頑張ってほしくなんかないのに。
我ながら天邪鬼だな、と再度自嘲する。
私は充電の切れたスマホをしまって、行く先を決めずに歩き出した……。
◇優視点◇
アルフィリアと別れ、はぐれた二菜を探す。
会場はそれなりの広さと人混みで、普通に探すのは難しいだろう。
でも、なんとなくどこにいるのか分かる。
もちろん超能力に目覚めたわけでも、魔法使いになったからでもない。
ただ、昔の記憶に従って目的の場所へ早歩きで向かう。
「やっぱりここにいたか」
「えっ……」
俺は探していた後ろ姿を見つけて声を掛けると、彼女は驚いた表情で振り返る。
「な、なんで……」
「なんでってそりゃあ、探しに来たに決まってるだろ」
「そうじゃなくて、なんでここにいるって……」
「昔にも何度かここの祭りではぐれたときに、お前決まってここにいただろ」
小さい頃から一緒に居た仲だからこそわかった居場所だ。
大きな目印になるからと大きな木の下で待つようにするところは昔から変わっていない。
仮にここにいなければ人混みの中を探すことになっていたが、変わらずここにいてくれてよかった。
「……放っておいてくれればよかったのに。私、もう高校生よ?別に一人でも……」
「そうはいかないだろ。連絡も取れないから俺もアルフィリアも心配したんだぞ?もうすぐ花火だからとっとと――」
「―—フィリアと二人で見ればいいじゃないッ!!」
「……っ!」
アルフィリアのところに行くぞ、と言おうとしたところで二菜が目に涙を浮かべながら叫ぶ。
「お、おい……どうしたんだ?」
「……私がいたら、優の邪魔になるじゃない」
「邪魔って、なんだよ」
「……アンタ、フィリアのこと好きなんでしょ?一人の女の子として」
「…………」
二菜の指摘に、俺は言葉を返すことができなかった。
それは、俺が密かに抱いていた想いだったからだ。
まだ伝えようとせず、心にしまい込んでいる想い。
「……いつから」
「優を尾行して、フィリアと初めて会った日からよ」
そんなに前から気づいていたのか。
でも、あのときはまだ自分の気持ちには半信半疑だった。
それでも、何かを感じ取ったのか俺がアルフィリアに対して特別な感情を抱いていたことに気が付いたのだろう。
「……私が一緒に居たら優も告白しづらいでしょ?だから、ちょうどはぐれちゃったことだし、邪魔者は消えて二人きりにしてあげようと思ったの」
涙をぬぐって取り繕うように二菜は微笑みながら説明する。
「…………」
だがなんとなく、それは嘘だと思った。
距離を置きたかったのにはなにか他の理由があるのではないかと。
「……ほんとうにそれだけか?」
「…………それだけに決まってるでしょ」
目を逸らしながら踏み込んで聞かないでくれ、という二菜の気持ちが込められた否定。
むしろその否定が、踏み込む理由になるというのに。
「お前は昔から嘘が下手だな」
「うるさい」
「まったく……」
俺はやれやれといった風に二菜の近くに歩み寄っていく。
そして、木の下までたどり着いたところで俺は地面に腰を下ろす。
「ちょっと、どういうつもり?」
「なにって、お前がほんとうのこと話す気になるまでここで待ってようとしているだけだ」
「それじゃあ花火が始まっちゃうわよ!?それにフィリアを放っておいていいの!?」
「アルフィリアからも二菜を頼むって言われてるし、このまま一人で戻れるか」
「でも……」
「お前がここで素直に話して、俺と一緒に戻れば三人で花火は見れる。俺もアルフィリアも、二人だけで見るつもりはないからな」
「…………馬鹿」
お前が話すまでここは動かないぞ、と言ったところで二菜はしゃがみ込んで一言、そう呟いた。
しばらくしゃがみ込んだ二菜の言葉を待っていると……。
「……ねえ、優」
「なんだ?ようやく喋る気になっ――……!?」
それはほんの一瞬の出来事だった――。
俺が二菜のほうに顔を向けた瞬間、唇に柔らかいものが触れた。
その感触もすぐに離れていくが、俺の思考は停止させるには十分だった。
二菜が自分にキスをしたのだと理解するのには、少しだけ時間が掛かってしまうほど、衝撃的な行動だった。
「お前、一体なにを――」
「―—私ね、優のことがずっと好きだった」
二菜から飛び出したのは、突然の告白だった――。
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