第22話 夏休みを前に
◇優視点◇
7月に入り、気温も段々と暖かくなってきた。
二週間後には学期末試験も控えているが、それが終われば待ちに待った夏休みが始まる。
というわけで学校の放課後、二菜と俺、アルフィリアの三人は夏休みの予定を決めるためにウチに集まっていた。
「それで夏休みなんだけど。二人はなにか予定はあるの?」
「いや、いまのところはなにもないな」
「私もあまり出掛けたりしないので……」
父さんの実家に帰省するのは冬休みの予定だし、夏休みにどこかへ行く話も出ていないので、夏休みは大体空いている。
他に友達もいないのでどこかに遊びに出掛けることもない。
強いて言えばアルフィリアをどこかへ連れ出そうかとしていたくらいだ。
ここ最近アルフィリアに買い出しなどもお願いするようになり、一人でも外に出る機会は増えてきたが、水族館の時を最後に遊びには出掛けたりしていない。
一人でも遊びに行ったり買い物したりできるように、この辺で遊べる場所や喫茶店、本屋などの場所を案内しようと考えていたのだ。
「それなら三人でどこかに遊びに行かない?」
「それはいいけど、どこへ行くんだ?」
「それを今から話し合うんでしょ。それでフィリアはどこか行ってみたいところとかある?」
「私ですか?この世界では夏にどういったところへ行くものなのですか?」
「ん~例えばプールとか海とか、あとは花火大会とか」
「そうなのか?」
「そうなのかって……優、あんた外出なさすぎでしょ……」
「だって一緒に遊びに行くような友達はいないからな」
「よくそんなドヤ顔で言えるわね……」
ただ本当のことを言っただけなのに、二菜は心底呆れたような顔をする。
アルフィリアはなにか気になることがあったのか、首をかしげながらこちらを見つめている。
「どうした?」
「いえ、その……聞いていいのか分からなくて」
「答えられることなら答えるけど……」
「じゃあその……優さんに学校のお友達がいないのが少し不思議で……私の知っている優さんは優しくて、こんなにいい人なのにどうしてなのかなと」
「あー……」
単純に俺がみんなの目の前で嫌な態度を取ってしまったからなのだが、それを言って、余計にアルフィリアを混乱させてしまわないだろうか。
「それはクラスの超人気のある女子が困っているから手伝ってほしいって優に頼ったんだけど、優はすごい嫌そうにしながら断ったもんだからみんなから避けられてるのよ」
「あ、おい!」
「えっ……?」
あろうことか二菜が勝手に答えてしまい、案の定アルフィリアは余計に謎が深まったと言わんばかりの顔をしてしまった。
「あれは私もないと思ったわー。断るにしてももっと言い方あっただろうにね」
「……たしかにもうちょっと言い方があったとは思うが、あのときは色々だな……」
「……ちなみにどんな感じだったんですか?」
「優が『俺が手伝うメリットなんもないだろ。むしろ時間を取られる分損するから断る』って言って断ってたわ。その女子もちょっと怒っちゃって、クラスの人たちもそれに乗っかって優にブーイング飛ばしたりもして」
「……全然想像できません」
「でしょー?」
今ならもう少し言い方を考えて断ることもできたと反省はしているが、あのときは心にそこまでの余裕はなかった。
それにその頼み事をしてきた女子がクラスでも人気の高い子だったこともあり、安易に受けて周りの男子から絡まれたりする可能性もあったので、つい強めに断ってしまったのだ。
「……まあそんなわけで、優は学校で私以外と話してるところは見ないわ」
「……そうなんですね」
「別に俺はそれで困ってないから、アルフィリアが気にすることじゃないぞ」
「今は困ってないかもしれないけど、いずれ誰かに頼りたくても、誰がお前なんかの頼みなんか聞くかって言われちゃうわよ?」
「うぐっ……」
確かにみんなの前であんな断り方をしておきながら、何様のつもりで人に頼み事してるんだと思われても仕方がない。
今更後悔しても遅いので、もうそういう状況になったら自分一人でどうにかするつもりでいる。
「……もういいだろ。俺の話より夏休みの話をしに来たんだろ?」
「それもそうね」
なぜあんな態度を取っていたのか、という根本的な部分に触れる前に話題を元の路線に戻すことができたので、ひとまず安心する。
正直いい話ではないので、まだアルフィリアに話すつもりはないし、二菜もなるべく他の人に聞かせたい話でもないはずだ。
いずれ話してもいいと思える時まで話すつもりはない。
「それで話を戻すけど、フィリアはどこか行きたいところとかある?」
「んー……やはりお二人に合わせます。どこに行ったとしてもお二人と一緒なら楽しめると思いますし、私にとってはどこでも初めての場所になると思いますから」
「そう?それじゃあ優は?」
「俺も特に希望はないが……強いて言えば海とかいいんじゃないか?アルフィリアは海水浴とかしたことあるか?」
「いえ、海は任務で何度か行ったことはありますが、遊ぶ目的で行ったことはないですね。海の周りは危険な魔物もいるのでとても遊べるような場所ではなかったので」
「なら海に行きましょう!ウチの親とも話をしないといけないけど、多分大丈夫だわ」
「ウチも多分大丈夫だ。なんなら車出してもらえないか聞いてみる」
「助かるわ」
海へ行くのに電車で移動するのは荷物もあって大変だし、車で移動した方が確実に楽だろう。
父さんたちに言えば車は出してもらえると思うが、そのまま海水浴に参加しそうな気はする。
まあ保護者がいたほうが安全だし、それはそれでいいだろう。
「となると水着も必要ね。フィリアは水着持ってる?」
「いえ、持ってないです。水着あったほうがいいんでしょうか?」
「そりゃそうよ!海の中に入るのに私服のままで入るわけにはいかないでしょ」
「た、たしかに……」
「それじゃあ今度買いに行きましょ。私も水着新しいの買いたいし」
「はい、ぜひお願いします」
そういえば俺は水着なんか持っていただろうか。
学校の授業で使うものは持っているが、海へ行くこともないので持っていない気がする。
さすがに水泳の授業で使っているものを着用していくよりは、海へ行く用のものも買った方がいいかもしれない。
「そういや水着持ってない気がするから、俺も一緒に行く」
「そう。じゃあ来週あたりに買いに行きましょう」
「来週って……お前、学期末試験もうすぐだけど勉強の方は大丈夫か?」
「うっ……」
「?」
この反応は絶対に危ないやつだ。
前の試験のときも泣きついてきたことがあったが、どうやら今回もダメそうだ。
「……買い物は試験終わってからな」
「ちなみに今回も勉強教えてくれたりは……」
「……はあ、次回以降は教えないからな」
「ありがとう優!」
俺が仕方なくといった感じで勉強を教えることを承諾すると、二菜は目を輝かせながらお礼を言う。
前回も同じような感じだったが、頼めばなんだかんだ俺が引き受けると思っている節があるので、次回以降はさすがに二菜のためにも心を鬼にして断ることにしよう。
「……二菜はもしかして勉強苦手なんですか?」
「できないわけじゃないんだが、単純に普段から勉強サボってるから試験直前に慌てるんだ」
「……なるほど」
「私は優と違って忙しいの!」
「嘘つけ。遊んでばっかだからだろ」
「友達との時間は大切なのよ。友達がいない優にはわからないでしょうけど」
「ならその友達に勉強教えてもらえ」
「嫌よ。私の為にその子たちの時間を奪うなんてできないし」
「俺ならいいのかよ」
「そうよ」
「こいつ……」
今度からは絶対断ることを心に決める。
一度試験で痛い目を見て、日頃の勉強の重要性を理解してもらう必要がある。
「また話が脱線してしまったけど、夏休みは海に行くってことでいいわね?」
「ああ」
「はい」
「あと私、花火大会も行きたい」
「私も行ったことがないので行ってみたいです!」
「まあいいんじゃないか?人が多くて疲れそうだけど」
「それじゃあ花火大会にも行くのは決定ということで」
こうして夏休みに海と花火大会へ行く予定ができた。
去年の夏休みは受験勉強や課題をやっていて、外に出ることはほとんどなかった。
二菜もおそらく同じように多少遊びに行くことはあったと思うが、外出は少なかっただろう。
今年は受験から解放された夏休みを満喫したいのだろう。
「それじゃあ細かい日程は親にも相談しないといけないから、またあとで決めましょう。それとメッセージのほうでグループも作っちゃいましょ」
「ああ、まとめて伝達するならそっちのほうがいいか」
「ええ」
「?」
俺と二菜のメッセージでグループを作るという話にアルフィリアはいまいちついてこれず、首をかしげる。
スマホは持っているものの、基本的に連絡用にしか使っていない状態で、それ以外の機能はまだ使いこなせているわけではないアルフィリアにとってはなんのことだと思うのも無理はない。
「あー、メッセージのアプリがあるだろ?そこに一つの部屋を作って、そこに三人で入ろうって話だ。同じ部屋に入っている人にまとめて何かを伝えたいときはその部屋のメッセージ内に送ったほうが、一人ずつに送るよりも楽なんだ」
「あー、なるほど」
というわけでさっそく二菜のほうでメッセージのグループが作成され、俺とアルフィリアはそのグループに入った。
「それじゃ、いろいろ決まったらこのグループ内に送る感じにしましょ」
「わかった」
「わかりました」
「じゃあ私はもう帰るわ」
「おう。気を付けて帰れよ」
「そこは送っていくって言いなさいよ」
「嫌だよめんどくさい」
「そういうところよ……まあいいわ。じゃ、フィリアもまたね」
「はい、また」
俺と軽くいつものようなやりとりをした後、アルフィリアに手を振りながら二菜は帰って行った。
ひとまず色々決まった予定のことも父さんたちに話しておかないといけないが、二人が帰ってくるまでに夕飯の支度をするのが先だ。
「それじゃ、夕飯の用意でもするか」
「はい」
今年の夏はバタバタしそうだが、きっと楽しいものになるだろうという確かな予感を胸に、俺とアルフィリアはどこか浮ついた気分で夕飯の準備に取り掛かるのだった――。
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