第16話 アルフィリアとゲームセンター

◇アルフィリア視点◇


 今日は二菜さんからのお誘いで、二人で遊びに行くことになった。

 今までの人生で任務や命令以外で、誰かと二人きりで行動したことはあまりないので、行く先がまだ知らない土地ということもあってどうしても緊張してしまう。

 そして相手は優さんの幼馴染で学友の二菜さんだ。

 初めてお会いした日に意味深な質問をしてきたり、私がなにか気に障ることでも言ってしまったからなのか突然帰ってしまったりとまだ分からないことが多い人だ。

 正直あまり良い印象は持たれていないのではないかと不安だったのだが、先ほど軽く挨拶をした感じ、そんなことはなさそうだ。

 余計に初日の行動の謎が深まるが、今日一日で二菜さんのことをもっと知ることができるだろう。

 優さんが言うには悪い人ではないとのことで、恥ずかしながら実は友達がいたことが私は、密かに二菜さんと友達になれたらなんて思っている。


「それじゃあ行きましょうか」

「は、はい」


 ここまで送ってくれた優さんと別れた後、二菜さんに手を引かれるようにして歩き出す。

 そういえば今日遊びに行くとは聞いているが、どのようなことをするのかは聞いていなかった。

 今日はなにか目的でもあるのだろうか。


「あ、あの……今日はなにをする予定なんですか?」

「ん~?特に決めてないけど、適当にショッピングとか娯楽施設行ったり、お茶したりとか?」


 気になって今日何をする予定なのかを聞いてみたところ、特に決まっていないとのことだった。

 適当に色々見て回る、くらいにしか考えていないらしい。

 誰かと遊びに行くときに予定を決めずに行動するのは、普通の事なのだろうか。

 そういう経験がない私にはわからない。


「逆にアルフィリアさんはなにかしたいことある?」

「えっと……私、この世界のことはまだほとんど知らないので、何があるのかもわからなくて……すみません」

「いや、別に謝ることじゃないんだけど……それじゃあゲーセンとか行ったことある?」

「……げーせん?」

「ゲームセンターっていういろんなゲームがある場所よ。知らない?」

「……いえ、初めて聞きました。この世界に来てから外に出たことはほとんどないので」

「なるほどね。それじゃあまずはそこに行きましょう」

「は、はい」


 というわけで、最初の目的地は『げーむせんたー』なる場所に行くことになった。

 話を聞く限りでは、いろんな遊戯ができる娯楽施設のようだが、私のいた世界の遊戯や娯楽と言えば、賭け事や大金の絡むものばかりであまりいい印象がない。

 なんだか少し不安を覚えるが、この世界についてほとんど知らない私は二菜さんについて行くしかない。

 二菜さんと軽い雑談をしながら歩いていると、目的地である『げーむせんたー』にたどり着いた。


「……これが、げーむせんたー……」


 そこは、騒音の激しい場所だった。

 様々な機械音が鳴り響く空間で、想像していた娯楽施設とは大きく異なっていた。


「久しぶりに来たけど、相変わらずうるさい場所だわ。だからあまり来ないんだけど」

「そうなんですか?なら、どうしてここに……?」

「まあたまにはいいかなって思っただけよ。アルフィリアさんも行ったことがない場所なら楽しめるだろうし、私もあまり来ないってだけで嫌いなわけじゃないから」


 どうやらここを選んだ理由は、行ったことがない場所なら私が楽しめそうだから、という理由で選んでくれたようだ。

 なんだか気を遣ってもらったようで申し訳ない。


「それで、何か気になるのある?」

「え、えっと……」


 二菜さんに言われて辺りを見回してみるが、色々ありすぎてなにがなんだかわからないのが正直な感想だ。

 なにやら動物を模したぬいぐるみやお菓子と思われるものが入っている機械など、どうやって遊ぶのか見当もつかないものばかりだ。

 ひとまず最初に目に入った人形の入った機械を指さす。


「で、では……あちらのくまを模したぬいぐるみのあれ、やってみたいです」

「ああ、クレーンゲームね。それじゃあやってみましょうか」

「は、はい」


 というわけで私の要望通り、早速その『くれーんげーむ』というものに挑戦することになった。

 

「これはどういうゲームなんですか?」

「アームを動かしてそこにある景品を掴んで、ここの穴に落とすゲームよ。落とした商品はそのまま持って帰れるわ」

「これ、取ったらもらえるんですか?」

「そうよ。でも結構難しいわよ」

「や、やってみます……」


 当然だが遊ぶためにはお金が必要なようで、今日の朝に愛さんたちから頂いたお金を早速使うことになった。

 機械のところに『1回100円』と書かれていたので、財布から100円硬貨を一枚取り出して、投入口と書かれた場所に入れる。

 すると機械から『さあ、君は取れるかな?』と高い音声が流れる。


「そこの頭が丸いレバーを動かすと上のアームが動くから、ちょうどいい位置にアームを持ってきて、ここだと思ったところでこっちのボタンを押すとアームが下に降りて、うまくいけば商品を掴んで穴まで運んでくれるわ」

「は、はい」


 二菜さんの説明のもと、早速操作してみる。

 レバーを傾ければ、アームは傾けたところへ動いてくるので、白いくまのぬいぐるみに狙いを定め、アームを動かしていく。

 

「ちなみにこれ制限時間あるから気を付けてね」

「えっ!?」


 突然二菜さんに言われたことに驚いて、思わずボタンを押してしまった。

 アームが降下し、白いくまを掴みに行くが……。


「あっ……」


 若干早くボタンを押してしまったため、アームが下ろされたのはぬいぐるみよりも手前になってしまい、三本のツメがうまく掴んでくれずにアームはなにも掴まずに元の位置へと戻っていってしまった。


「そ、そんな……」

「ご、ごめん!私が急に声かけちゃったから……!」


 ぬいぐるみが取れず落胆している私に、二菜さんが申し訳なさそうにする。

 確かに二菜さんが声を掛けたせいではあるが、びっくりしてボタンを押してしまったのは私なのでこればかりは仕方がない。

 

「い、いえ……大丈夫です」

「…………」


 それでも取れなかったのはショックなので、少しばかり肩を落としてしゅんとしてしまう。

 

「よし」

「?」


 私が気を落としていると、二菜さんが自分の財布から100円硬貨を取り出して投入口へと入れた。

 二菜さんも挑戦するのだろうか。


「はい、どうぞ」

「えっ?」

「さっきの失敗は私のせいでもあるから、これでチャラよ」

「で、でも……」


 さすがに二菜さんにお金を出してもらうのは申し訳ない。

 再挑戦するなら、自分でお金を出すべきだろう。


「いいから。ほら、早くやらないと時間なくなっちゃわよ?」


 機械には秒数と思われる数字がどんどん減っているので、このままプレイしなければこの100円が無駄になってしまうが、二菜さんは自分でプレイするつもりはないらしい。

 暗に早くやらないとこの100円無駄になると言っているようだ。

 さすがにそれはまずいので、申し訳なさを感じつつ再挑戦させてもらう。


「で、では……」


 先ほどと同じ要領でレバーを動かして、前回同様白いくまのぬいぐるみに狙いを定める。

 今回はちゃんとぬいぐるみの真上にアームを持ってくることができたので、満を持してボタンを押す。


「これで……!」

「……おお?」


 アームが降下し、ちょうどいい位置でぬいぐるみを掴んだように見える。

 そしてアームが上へと上昇し、ぬいぐるみも一緒に持ち上がっていく。

 このままいけば……。


「あっ……」


 いけると思ったところでぬいぐるみの頭部からだんだんとズレていき、最終的には穴に落ちる前に下に落ちてしまった。

 想像以上にぬいぐるみの重さにツメが耐えられなかったらしい。

 努力空しく、ぬいぐるみを獲得することができなかった。


「あちゃ~……残念」

「も、申し訳ございません!二菜さんのお金を無駄にしてしまい……!」

「い、いやそれは大丈夫だから!そもそもクレーンゲームって難しいからしょうがないわよ……」


 申し訳なさすぎて深々と頭を下げる私に、二菜さんはそもそも取るの難しいからしょうがない、気にしていないと返してくれた。


「……それにしても、本当に取れるのでしょうか?」

「こういうの得意な人は簡単に取るけど、だいたいはこんな感じに失敗するわ。そういえば優がこういうの得意だから、また今度頼んでみるといいわよ」

「そうなんですか?」

「昔、こういったぬいぐるみとかよく取ってたから」

「でも、優さんのお部屋にはこんな可愛らしいぬいぐるみとかは見た覚えは……」


 以前寝室を借りた際に、ぬいぐるみは置かれていなかった気がする。

 もしかしたらどこかに仕舞っているのだろうか。


「取ったものは大体愛さんにあげてるのよ。愛さん、可愛いもの大好きだから」

「ああ……なるほど」


 たしかに優さんのお母様である愛さんは、可愛いものに目がない。

 ショッピングモールへ買い物に行った時も、可愛い小物や服などを私に当てたりして楽しんでいる様子だったし、優さんからぬいぐるみをもらっていたとしても不思議ではない。


「どうする?まだ挑戦する?」

「……いえ、やめておきます」


 ここで何度も再挑戦すると、欲が出てお金を大量に使ってしまう気がしたのでさすがにやめておいた。


「それじゃあ次は何する?」

「次は二菜さんがやりたいものでいいですよ。私だけ選ぶのは申し訳ないので」

「そう?それじゃあ……」


 そうして二菜さんに連れられたのは……。


「プリクラ撮りましょう」

「……ぷりくら?」


 『ぷりくら』とは一体なんなのだろうか。

 目の前には四角い形をした大きな箱のようなものがあるが、ここで一体何をするのだろうか。

 

「ようは写真が撮れて、その写真にいろいろ書き込みができるのよ」

「写真、ですか」

「そうそう。せっかく二人で遊びに来たんだし、記念に撮ろうと思って」

「なるほど……」


 写真というものは私のいた世界にはなく、自分の姿はだいたい絵で残すものだ。

 この世界に来てから初めて触ったスマートフォンにカメラという機能があったので、どういうものか愛さんに聞いたときに写真という存在を知った。

 その瞬間の風景を切り取るようにして保存できるその技術の仕組みは全くわからないが、素晴らしいものだと思う。

 私はまだ自分の姿を写真に残したことはないが、せっかくの機会なのでこのプリクラで撮るのも面白そうだ。


「ぜひ、お願いします」

「それじゃあさっそくやりましょうか」

「はい」


 というわけで私と二菜さんはカーテンを開けて箱の中に入る。

 どのように写真を撮るのか分からないが、二菜さんは慣れた様子で目の前の画面を操作していく。

 ひと通り操作し終えたようで、二菜さんが隣に立って私の肩を抱き寄せて指をv字にしながら手を顔の横へもっていく。


「ほら、アルフィリアさんも」

「えっ!?えっと……」


 突然そんなことを言われても……と思っているとどこからか音声でカウントダウンが始まっていたので、見様見真似で二菜さんと同じポーズを取る。

 そしてカウントが0になると同時に目の前がいきなり光り、思わず目を閉じてしまった。

 ……もしかして、今ので写真撮り終わったのだろうか?

 だとすると、目を閉じてしまった瞬間が写ったのではないだろうか。

 

「あ、あの……いまの……」

「あ、ほら、次来るよ」

「えっ!?ちょっと……!」


 そこからは何度かいろんなポーズの指示に振り回されながら何枚かの写真を撮っていく。

 写真を撮るのは、こんなにも恥ずかしいものなのだろうか。

 もしかしたら私は今日で写真を苦手になるかもしれないと思いつつ、そのまま撮影を終えた。



 ひと通り写真を撮り終え、最後は写真に書き込みをするそうだが、表示された写真を見て私は思わずしゃがみこんでしまった。

 一番最初の写真は予想通り眩しさで目を閉じてしまった姿が写っており、他の写真でもぎこちなくポーズを取っていたりと、恥ずかしい姿が写っていた。


「あっはははは!アルフィリアさん目閉じちゃってる!」

「わ、笑わないでください……。うぅ……恥ずかしいです」

「ごめんごめん。でもいい写真だと思うわよ?」

「もうしばらく写真はいいです……」

「あらら……これは相当なダメージね」


 この世界の人たちはあんなポーズの写真も平気で撮るのだろうか。

 とてもではないが私にはできそうにない。

 しばらくプリクラで写真を撮るのはご遠慮したいところである。


「まあまあ。それよりほら、写真に書き込みしないの?」

「うぅ……恥ずかしくて写真見れないので、二菜さんにお任せします」

「えぇ……まあいいけど」


 そうして私が悶えている間、二菜さんはいろいろ書き込んでいった。

 そう時間が掛からないうちに書き込みが終わったのか、書き込みされたプリクラが数枚取り出し口から出てきた。


「はい、アルフィリアさんの分」

「あ、ありがとうございます……」


 二菜さんから写真を受け取ると、相変わらず恥ずかしい姿が収められていて目を逸らしたくなるが、いろいろ書き込みがされているので多少気が紛れたのでひと通り目を通す。

 いろんなマークやコメントを書き込んでいる。

 そしてとある一枚の写真に二人の間に『友達』と書かれている写真があった。


「あの、二菜さん……この友達って」

「ん?私はアルフィリアさんを友達だと思ってるけど?」

「!……わ、私もです!」

「なら問題ないでしょ?」

「は、はい!」


 二菜さんが友達だと思っていると言ってくれたこと、二菜さんと友達になれたことが心から嬉しいと感じる。

 私の初めての友達……。


「さて、次は何しましょうか?」

「……二菜さんと楽しく遊べるものがいいです」

「そうね。それじゃあ行きましょう」

「はい」


 二菜さんが私の方に手を差し伸べてくれたので、私もその手を掴む。

 今日ここへ来るときに感じていた緊張や不安はもうない。

 今はただ、今日を楽しみたいという気持ちでいっぱいだ。

 私たちはそこからいくつかのゲームでひと通り楽しんでから、ゲームセンターを後にするのだった――。

 

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