第15話 お誘い
◇優視点◇
二菜にアルフィリアのことがバレてから土日を挟んだ月曜日。
俺はいつもより早めに登校して、二菜を待っていた。
先週アルフィリアが質問に答えたところで、突然帰ると言い出して家を飛び出していった二菜の様子がなんだか気になってしまい、アルフィリアも自分がなにか気に障ることでも言ってしまったのかと心配もしていたので、あの日はどうしたのかと聞くためだ。
すぐにスマホでもどうしたのか聞くためにメッセージを送ってみたものの、答えたくない為か、既読だけ付いて返信はなかった。
なので、直接話を聞くしかなくなってしまったのでこうして自分の机に突っ伏しながら二菜が登校するのを待っているわけだが、いまだに来る気配がない。
教室の扉が開く音がするために顔を上げては下げ手を繰り返している。
まさか今日学校を休むのでは?と不安になったところで、何度目かになる教室の扉が開く。
「……」
顔を上げると、今度こそ教室の扉を開けて入って来たのは二菜だった。
「おはよ。今日は早いじゃん」
「……おはよう。二菜のほうこそ遅いんじゃないか?」
いつもと変わらない様子で、俺のところに来て挨拶してくる二菜に安堵しつつ、俺も挨拶を返す。
先週のおかしかった様子はどこへやら、全く普段通りすぎてなんだか拍子抜けしてしまうが、それでも念のためこの間のことを聞くことにする。
「……先週、どうして急に帰ったりしたんだ?」
「……メッセージ返さなかったんだから察してほしかったんだけど?」
俺がストレートに聞き出そうとすると、二菜はすごい嫌そうな顔で答える。
やはりメッセージの既読スルーは、答えたくないからなのだろう。
「まあ答えたくないってことだろうけど、自分がなにか気に障るようなことをしてしまったのかとアルフィリアが心配しててな」
「あの子のために聞き出したいってこと?」
「それもあるが、俺も二菜の様子が気になっているからこうして聞いているんだ」
「そう……まあでもあの時のことは忘れて」
どうやら意地でも答える気がないらしい。
こうなってしまうと、無理に聞き出してしまっても喧嘩になりかねないのでここはおとなしく引き下がるしかない。
「……はあ、わかったよ。これ以上は詮索しない」
「よろしい」
俺が諦めの意思を示すと、二菜は満足げに答える。
まあ様子が変だった理由は分からなかったが、今はこうしていつも通り元気なのでひとまずそれでよしとしよう。
「あ、そうだ」
「ん?」
話は終わったと思い、再び自分の机に突っ伏して朝のホームルームの時間まで狸寝入りしようとしたところで、二菜が思い出したかのように声を上げたので再び顔を上げる。
「今週の土曜ってアルフィリアさん空いてる?」
「アルフィリアは一人で出歩いたりしないし空いてると思うが……」
「今週の土曜日にアルフィリアさんと二人きりで遊びに行きたいから、本人に聞いてもらえる?」
「はっ?二人きりで遊びにって、なんでまた……」
「せっかく知り合えたんだし、私だって仲良くなりたいじゃない」
そうやらアルフィリアとの親睦を深めたいから、一緒に遊びに誘っているようだ。
先週の様子からアルフィリアに対してなにか思うことがある気がしているので、障子に言うと不安である。
「だからって二人きりじゃなくても……」
「女の子同士でしかできない話もあるのよ。言ってしまえば優は邪魔」
「邪魔って……ひどくないか?」
「つべこべ言わずに聞いといてよね。それじゃあ」
「あ、おい!」
「はーい、席について―」
二菜が無理やり話を終わらせ、自分の席へと向かったところで教室の扉が開いて担任の先生が入って来た。
どうやらもうホームルームの時間を迎えていたらしい。
(……なにを考えているんだ?)
先週のことといい今回の遊びの誘いといい、二菜の考えていることが読めない。
だが本人は是が非でもアルフィリアと二人きりで話がしたいらしい。
正直個人的には心配だが、ここで俺が勝手に断るわけにもいかないので二菜の要望通り、アルフィリアにもどうするかを聞くことにして、担任の話を聞き流すのだった。
特に何事もなく学校を終えて家に帰ると、俺は早速アルフィリアに二菜から遊びに誘われていることを話す。
「今週の土曜日、二菜が二人きりで遊びに行かないかとお前を誘っているんだが、どうしたい?」
「……二人きりで、ですか?」
「ああ、なにやらお前と仲良くなりたいって言ってたな」
「この前のことで怒ってたりとかは……」
「この前の事は詮索しないでほしいみたいだったから分からないけど、話してみた感じ怒っている様子はなかったぞ」
「そうですか……」
アルフィリアも急な話で困惑しているようで、この前の事もあってかどうするべきか悩んでいるようだった。
「……お受けするべき、でしょうか?」
「それはお前が決めてくれ。誘われているのはアルフィリアなんだから」
「…………」
アルフィリアは顎に手を当てて考え始める。
もちろん俺個人の意見としては反対だ。
俺も同伴してもいいのであれば別だが、今回は不安が大きいのだ。
アルフィリアは碌に外出したことがないのに、一度しか会ったことがない二菜といきなり二人きりで遊びに行くとなるとさすがに不安だ。
とはいっても、アルフィリアがどうしたいのか次第なので返答を待つ。
しばらくすると、アルフィリアは答えが決まったのか真剣な顔をして顔を上げる。
「……そのお誘い、お受けしたいと思います」
「いいのか?」
「はい。もちろん不安もありますが、私も二菜さんと仲良くなりたいと思っていましたし、せっかくこうしてお誘いいただいているのをお断りするのも悪いですから」
「……そうか。じゃあ行くって二菜に返事しとく」
「はい、お願い致します」
考えた末、アルフィリアは行くことにしたようだ。
不安はあるが、そこは二菜にもしっかりと見ていてもらうようにお願いして、送迎は俺がすればいいだろう。
少なくとも一人にならなければ比較的安全だろう。
二菜にスマホにメッセージでアルフィリアがOKしたことを伝えると、向こうから時間と集合場所が送られてくる。
こうして今週の土曜日、アルフィリアは二菜と二人で遊びに行くことになった。
そして迎えた土曜日当日。
俺はアルフィリアと共に集合場所として指定された駅までやってきていた。
誘った本人の二菜はまだ来ていないが、集合時間にはまだ15分程ある。
少なくとも二菜が約束をすっぽかしたことは一度もないので、時期に来るだろう。
アルフィリアはというと、ゴールデンウィークの買い物の際に買った洋服に身を包んで、緊張した様子で隣に立っていた。
「……緊張してるのか?」
「は、はい。誰かと二人きりで遊びに出掛けるのは初めてなので少し……」
「そうか。まあ二菜は面倒見のいい奴だし、あいつからお前を誘ってるんだから放置したりはしないと思うし、もう少し気楽でいいと思うぞ。なにかあればスマホで連絡してくれればいいから」
「は、はい」
今日アルフィリアが二菜と二人きりで遊びに行くことは母さんたちも知っている。
二菜と一緒なら大丈夫だろう、ということで了承を得ている。
もし何かあった際にはスマホで連絡をすることと、送迎は俺がするということを条件にしている。
ちなみに母さんたちからは遊ぶための費用として2万円ほどアルフィリアに渡されている。
最近こちらの世界のことについて勉強しているアルフィリアは、通貨の価値も覚え始めてきたためかそれを受け取るのに躊躇っていたが、絶対にお金が必要になるだろうからと説得され、恐る恐る2万円を受け取っている。
今日使わなかった分はそのままアルフィリアのお小遣いにしてもいいとのこと。
向こうの世界でひどい扱いを受けていたことを知っているからか、うちの両親はどうやらアルフィリアをとことん甘やかす気らしい。
あまりやりすぎるとアルフィリアにもよくないと思うので程々にしてほしいところである。
そんな妹を見守る兄のような気持ちになっていると、前方から二菜が歩いてくるのが見える。
「二人とも早いわね」
「お前が遅いだけだ」
「はあ?約束の時間10分前なんですけど?」
いつものように二菜と軽口をたたき合う。
今日もいつもと変わらない様子の二菜に安堵していると、隣に立っていたアルフィリアが口を開く。
「あ、あの……今日は誘っていただき、ありがとうございます」
「私の方こそ、誘いを受けてくれて感謝するわ。今日はよろしく、アルフィリアさん」
「は、はい!こちらこそ宜しくお願い致します!」
「そこまで緊張しなくても、普通に遊びに行くだけよ。もっと気楽に行きましょ」
「す、すみません……初めてなもので」
緊張はほぐれないのか、アルフィリアはいまだにぎこちない感じで返事している。
果たして大丈夫なのだろうかと一抹の不安を覚える。
「まあアルフィリアさんの緊張は少しずつほぐしていくとして、邪魔者は帰った帰った」
二菜はアルフィリアの隣に立つ俺に、あっちへ行けというような仕草で邪魔者は帰れと言ってきた。
「やはり一緒じゃダメか?すごい不安なんだが……」
「彼女のことは私がしっかりエスコートするから心配せずに帰りなさい」
「いや、でもな……」
「優さん、私は大丈夫なので」
二菜に続き、アルフィリアも大丈夫だからと俺に帰るように促す。
そこまで言われちゃあ無理についていけない。
「……わかったよ。二人ともなにかあったら絶対に連絡しろよ」
「保護者かアンタは」
「そんなんじゃないし」
「ふふっ、わかりました」
「それじゃあ気を付けて楽しんでこい」
俺はそういうと、二人を残してその場を去る。
一瞬尾行でもしようかと考えたが、周りから見ると普通に怪しいやつだし、見つかった場合の二菜の怒りを買う方が怖いのでやめておく。
不安ではあるが、二菜はなんだかんだ見かけによらずしっかり者なので大丈夫だろう。
(……楽しんで来いよ、二人共)
そう心の中で呟きながら、一人家に戻るのだった――。
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