第8話 聖女様と買い物②

◇優視点◇


「…………」

「……やっぱり人多いな」


 車を走らせること20分、目的地であるショッピングモールへ着いた。

 アルフィリアはというと、「これがお店……!?」と建物の大きさを見て驚いていたが、中に入った時には言葉を失っていた。

 モール内には様々なお店でゴールデンウィークセールなんてものを実施しているためか、溢れんばかりの人が右往左往としているのでそうなるのも無理はない。

 俺は人の多さに若干鬱な気持ちになり始めているが……。


「アルフィリア、あんまり好き勝手動くなよ。迷子になったら大変だからな」

「は、はい……気を付けます」


 一応俺も気を付けるが、この人混みなのではぐれないとは言い切れない。

 万が一迷子にでもなられたら、まだ連絡手段がないので合流するのは大変だ。


「それじゃあ僕は先に携帯ショップへ向かうよ。なにかあったら連絡してね」

「ええ、お願いね。私たちは先に日用品を見て、その後に服を見るわ」

「わかった。アルフィリアさん、この人混みではぐれないように気を付けるんだよ。優もちゃんと見てあげてね」

「わかってる」


 俺の返事を聞くと、父さんはさっそく携帯ショップへと向かっていった。

 

「それじゃあ私たちも行きましょうか」

「はい。よろしくお願いします」


 というわけで、早めに買い物を終わらせるべく行動した。

 俺たちが最初に向かったのは、女性物のバッグなどを売っているお店だ。

 たしかにアルフィリアも外出するかもしれないし、携帯や財布、手拭きなどをしまっておくにはバッグはあったほうがいいだろう。


「……俺、店の前で待ってるわ」

「あら?どうして?」

「女性物のことは俺には分からないからな。いてもしょうがないだろ」

「まあそれもそうね。じゃあちょっと待ってなさい」

「ああ」


 母さんに伝えてから、お店を出る。

 正直女性物がたくさん置かれている場所は居心地が悪い。

 まあ服とかではないのでまだマシなほうだが、それでも視線やら男女比が気になって仕方がない。

 俺は二人の買い物が終わるまで、適当にスマホをいじりながら時間を潰す。

 こういうとき何かしらソシャゲの一つや二つやっていれば、楽しく時間も潰せるが、俺はそういったものはやっていない。

 興味がないわけではないが、始めたとしても結局やらなくなる気がして手を出せないでいるのだ。

 なにか友人に勧められて、みたいなきっかけでもあれば始めていただろうが、残念ながらそのような友人はいない。

 学校ではあまり良い印象は持たれていないので仕方がないのだが……。

 と自分の人脈の無さを心の中で嘲笑していると、母さんたちが戻って来た。


「お待たせ。どう?これ可愛くない?」


 戻って来て早々、母さんは若干テンション高めでアルフィリアが肩にかけているバッグを指さす。

 白い雪の結晶の模様が入った水色のショルダーバッグで、大きさもコンパクトで確かに可愛いと思うが……。


「それ、男の俺に聞くのはどうなの?」

「別にいいでしょう?それで、アルフィリアちゃんの雰囲気にピッタリじゃない?」

「まあ、たしかに合ってると思うぞ」

「でしょー?」

「あ、ありがとうございます」

「ほら、時間ももったいないし次だ次」

「もうせっかちね」


 母さんがぶーぶー言っているが、無事買えたのであれば、早めに次の場所へと向かうべきだ。

 道中母さんが選ぶのに時間をかけることはあったが、その後はなんとか財布や必要になりそうな小物類は買うことができた。

 次は服を選びに行こうというタイミングでアルフィリアが俺に声をかけてきた。


「あの……」

「ん?どうした?」

「さっきからその……周りからすごい視線を感じるのですが、私何かしたんでしょうか?」


 不安そうに聞いてきたので、改めて周りを確認すると、たしかに歩くアルフィリアを目で追っている人が男女問わず大勢いるようだ。

 まあ理由はおそらく……。


「その髪色と眼の色は、珍しいからじゃないか?」

「髪色と眼の色……ですか?」


 アルフィリアは綺麗な銀髪を腰のあたりまで伸ばし、透き通るような青い眼をしている。

 日本ではなかなか見ることのない容姿なので、目立ってしまうのだろう。

 アルフィリアも周りを見渡し、自分の髪色が浮いている要因であることを理解したようだ。


「まあ視線は気になるだろうけど、我慢してくれ」

「……はい」

「視線を集めているのは何も髪色が珍しいから、というわけではないと思うわよ?」

「……?」

「アルフィリアちゃんがとっても可愛くて美人さんだからよ」

「えっ!?」


 母さんがそのように褒めると、アルフィリアは顔を赤らめてしまった。

 まあ俺から見ても、たしかに可愛いし美人だと思う。

 現に男の視線も多いのがその証拠だ。


「……初めて言われました」

「そう?可愛いわよね?優」

「俺に振るなよ」

「そこは素直に『ああ、可愛いよ』くらい言わないと」

「俺にそんな期待する方が間違っている」

「可愛くないわね」

「うっせ」

「…………」


 ブーンブーンッ!


 とそんな感じのやり取りをしていると、俺のスマホ震えた。

 父さんからだろうか。


「……お、父さんの方はもう終わったみたいだ」

「思ったよりだいぶ早いわね」


 スマホで時間を確認すると、時刻は11時を少し過ぎたところだ。

 ショッピングモールへ着いたのが大体9時過ぎくらいなので、だいたい2時間で終わったことになる。


「それで『キリが良いようなら一度合流して先にお昼にしない?』って来てるけどどうする?」

「そうね。あとは服くらいだし、フードコートも座れる場所を確保するのが難しくなる前に先に食べちゃいましょうか」

「だな。じゃあ父さんにもそう伝えとく」


 父さんにメッセージで了解の旨と集合場所は二階のフードコートという内容を送って、早速フードコートへと向かった。



「わかってはいたが、混んでるな」


 フードコートでは、たくさんの人が店で行列を成していた。

 まだお昼には少し早いとはいえ、混む前にと動き出す人が多いのは仕方がない。

 

「父さんが席取っておいてくれてるって」

「さすが希さんね」

「母さんと違ってな」

「うるさいわね」

「……お二人ってもしかして仲が悪いのですか?」

「そんなことはないぞ。俺と母さんはいつもこんな感じだ」

「昔はもっと素直で可愛げがあったのに……」

「いつの話してるんだよ」


 ヨヨヨォ……とわざとらしく泣き真似する母さんの頭に軽くチョップをすると、アルフィリアがその様子を少し羨ましそうに見つめる。

 俺はアルフィリアに泣きついた母さんを無視して、席を取ってくれているであろう父さんを探す。

 すると、ちょうど4人が座れそうな席を確保した父さんがこちらに手を振っているのが見えた。

 

「お待たせ、父さん」

「うん。こっちが思ったより早く終わってよかったよ。もう少し遅かったら、多分こうして一緒にお昼食べられなかっただろうからね」

「そうね。このあとさらに混むでしょうし、ほんとによかったわ」

「とりあえず、優とアルフィリアさんは先に食べたいもの選んできていいよ。僕たちは二人が戻って来てからでいいから」

「わかった」

「はい、これ。アルフィリアちゃんの分も合わせて優に渡しておくわね」


 母さんが昼飯代として2000円を俺に渡してくる。

 これだけあれば足りないってことはないだろう。


「ありがとう。それじゃあ行くぞ、アルフィリア」

「あ、は、はい」


 俺とアルフィリアは先に食べるものを選ぶために、少しフードコート内を歩く。


「それで、いろいろ選択肢があるけど、何食べる?」

「えっと……どれがどんなものかわからなくて」

「だろうな。まあそしたら一周回って気になったものにするか」

「はい」


 というわけで、ひとまず一周することにした。

 牛丼、バーガー、パスタ、ステーキ……と選択肢はたくさんだが、どこも結構並んでいる。

 システム的に注文自体はすぐ済むが、物によってはできるまでに時間が掛かってしまう。

 あまり選ぶのに時間をかけても、どんどん混んでいくだけなのでなるべく早めに決めてしまいたいが……。

 とそんな風に思っているとアルフィリアが、一か所を見つめて立ち止まっていた。


「どうした?」

「あ、いえ……少しあの料理が気になりまして」

「……ラーメンか」


 そういってアルフィリアが指したのは、『らあめん岩砕いわくだき』という名前のインパクトが強いラーメン店だった。

 岩砕きって……どんなネーミングだよ、と心の中で突っ込んでおく。

 まあラーメンも悪くないし、アルフィリアも気になっているようだから、ここにしてしまおう。


「じゃあここにするか」

「えっあの……優さんの食べたいものでいいですよ?」

「ならここでいいよ。ラーメンも久しく食べてなかったからな」


 そう言って俺がさっさと列に並ぶので、アルフィリアも慌てて一緒に並んだ。

 

「そういえば、なんでラーメンなんだ?」

「えっと……醤油と書かれたメニューがあるなと気になってしまって」

「あー……醤油ラーメンね」


 確かに朝食のときに醤油を卵にかけて食べてみたところ美味しいと言っていたし、同じ醤油と名前の入ったメニューが気になったというところだろう。

 

「その、すみません。私が決めてしまったみたいになってしまって」

「気にするようなことじゃない。食べたいのなら食べたいと言えばいいから」


 俺としてはむしろ、自分で食べたいものを選んでくれて助かった。

 アルフィリアがどんなものを食べたいのかは知らないし、本人に聞いても俺が食べたいものでいいと答えるような気がしていたのだ。

 しばらく並んでいると、案外早く自分たちの番がやってきた。


「いらっしゃっせー!ご注文をどうぞォ!」


 凄いテンションで出迎えた店員さんは、やたら筋骨隆々のおっさんだった。

 第一印象はでかいの三文字で片づけられるその風貌に若干気圧されつつも、注文を告げる。


「……醤油ラーメンと豚骨ラーメンを一つずつで」

「はいよォ!」

「それとフォークを一本お願いします」

「はいよォ!お会計1960円になりやーす!」


 終始テンションが高い店員さんに代金を支払うと、料理ができたら音が鳴る機会を渡される。

 注文も済んだので一度父さんたちの場所に戻ることにする。

 それにしても、いろんな意味ですごい店だったな……。

 アルフィリアも店員のおっさんにびっくりしているようだった。

 あの店員さんも店の名前にもなっているように、素手で岩を砕けそうな見た目をしていたし、もしかしたら特技がほんとうにそれで、店の名前もそこから取っているのかもしれない。

 それならラーメン屋ではなく、格闘技の世界に行った方がいいのではないかとも思ったが、人の夢はそれぞれなので考えるのはここまでにして、席について料理ができるのを待つことにした――。

 


 

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