第7話 聖女様と買い物①
◇優視点◇
アルフィリアと朝食を食べた後、出掛ける時間まで特にすることもないので、リビングでテレビでも見ながらのんびりと過ごしていた。
朝の時間ではどこの番組も大体ニュースばかりで、高校生の俺にとっては面白いと思うような内容は流れていないのだが、それとは別でちょっと面白い光景が目に飛び込んでいる。
「……」
「……アルフィリア、画面にそんな近づかなくてもテレビは見れるぞ」
朝食後はアルフィリアもすることがないので、一緒のソファーへと腰を下ろしたのだが、俺がテレビをつけて映像が流れ始めると、どんどんテレビに近づいて行き、今では画面とキスしそうなほどの距離にいた。
「……すごい!箱の中で
「ぷはっ!」
挙句の果てに飛び出したそんなアルフィリアの反応に、思わず笑ってしまった。
いやほんと、目を輝かせながらその反応は反則過ぎる。
「あっはっは!くくっ……!」
「えっ?えっ?」
「いやぁー……面白い」
突然腹を抱えて笑い出した俺に、アルフィリアはなんで俺が笑っているのか分からないといった様子だ。
「あの、私何か変なことを……?」
「まあ変なことっちゃ変なことだが、知らないから無理もないよな」
これはあくまで予想だが、アルフィリアのいた世界には魔法という『便利なもの』が存在しているため、科学などは存在しない世界ではないかと思う。
昨日見せてもらった明かりを灯す魔法や、大掛かりらしいが通信魔法なんてものもあるくらいだから、科学が発展しなかったとしても納得がいく。
そんな世界から来たともなれば、この映像がさも箱の中に人がいるように映っていても不思議ではない。
「これはテレビといって、映像が映し出されているだけだ。仕組みまでは俺も詳しくはないんだが、少なくとも中に人が入って動いたり喋っているわけではないよ」
「不思議なものですね……」
「まあ難しく考えず、流れる映像の内容を見て楽しめばいいさ。と言ってもこの時間はほとんどニュースばかりだけどな」
「ニュース……お知らせとか出来事を伝えているってことですか?」
「そう。そっちの世界には新聞とかってあるか?」
「はい、あります」
「その新聞の内容をニュースキャスターさんたちが映像で全国に伝えてくれているんだよ」
「なるほど」
「とりあえず、テレビはあまり近くで見るものじゃないからおとなしくソファーに座ってから視聴してくれ」
「は、はい……」
改めて指摘すると、おとなしく従ってソファーに戻ってきてくれた。
テレビひとつでここまで面白い反応が見られるのだから、今日出掛けたら物珍しいものだからけで倒れてしまうのではないかと若干心配になるが、それはそれで面白い反応が見られそうな気がするので、この後の外出が楽しみになってきた。
「アルフィリアちゃーん!ちょっといいかしらー?」
しばらくテレビを眺めていると、母さんがアルフィリアを呼ぶ声がリビングに響いた。
「は、はい!」
「少し来てもらえるかしらー?」
「た、ただいま!」
アルフィリアは声のする方……母さんたちの部屋へと急いで向かった。
時計を見れば、そろそろ出かける準備をし始めたほうがいい時間だ。
母さんの用もおそらくアルフィリアの外出用の服関係だろう。
俺はテレビの電源を消して、ソファーから立ち上がる。
「あれ、まだ準備してなかったのかい?」
「これからするよ。といっても着替えるだけだけどな」
「まあ愛さんもアルフィリアさんの服どれにするかで悩んで時間は掛かるだろうからね」
「だろうな」
ああいう性格の母さんなので、アルフィリアを着せ替え人形にするのは目に見えていた。
今日出掛けた先で服を選ぶ時も、あれこれ着せてアルフィリアが困る未来は予想はしているが、そこは頑張ってもらうしかない。
「それじゃあ俺も着替えてくる」
「うん。ビシッと決めるんだよ」
「いやなにをだよ。普通の服を選ぶぞ」
よくわからないことを言う父さんをリビングへと残し、自室へと戻って着替える。
まあ服装はとくにこだわらずシンプルにワイシャツにジーパンだ。
鏡の前で身だしなみを確認し、問題ないことを確認してからリビングへと戻った。
リビングへ戻ると、アルフィリアたちの準備は意外にも終わっていた。
母さんから借りたであろう白のワンピースがよく似合っている。
「似合ってるぞ」
「あ、ありがとうございます……でも、なんだか恥ずかしいです」
素直な感想を口にすると、アルフィリアは手をもじもじとさせて恥ずかしがっていた。
「やっぱりアルフィリアちゃんは綺麗で可愛くて何でも似合うわね~」
「そういって、あまり着せ替え人形みたいにするなよ」
「わかってるわよ。その辺はちゃんと弁えるわよ」
「ほんとかよ」
あまりにも不安で信用できないが、まあもしものときはどうにか止めよう。
父さんは服選びにはついてこないだろうから、止められるのは俺しかいない。
「アルフィリアも母さんにあれこれ勧められたら、ちゃんと嫌なものは嫌だと突っぱねろよ。じゃないと止まらなくなるから」
「は、はい」
「お母さん信用ないのかしら?」
「前科があるだろ」
俺には同じ学校に通っている幼馴染がいるが、一度一緒に買い物へ付き合わされた時に、そいつが店から出てきたときにげっそりとしていたことがあった。
女性服に囲まれた空間に居づらかった俺は店の外で待機していたので、後から聞いたら着せ替え人形のようにされて疲れたと言っていた。
「私も学習するから大丈夫よ。大船に乗ったつもりでいなさい」
「・・・泥船」
「何か言ったかしら?」
「なんでもない」
「それじゃ、僕たちは車の用意してくるから」
「わかった」
そういって父さんたちは一足先に家の外へ出たので、俺はアルフィリアと一緒に二人の後を追う。
外には父さんが車を家の前に移動させて待機していた。
「……これはなんですか?」
「ん?あぁ、自動車だよ」
「じどうしゃ?」
「そっちの世界だと移動手段とかなかったのか?」
「基本的には馬車でしたが……」
「なるほど。まあこれはそういった馬とかに引っ張ってもらうことなく、自動で動く乗り物だ。こっちの世界だと一般的な移動手段はこれだな」
「この鉄の塊が自分で動く……こっちの世界には驚くことばかりです」
アルフィリアは自動で動く乗り物なんて存在することに驚いているようだ。
「まあ、この辺りは慣れてくれ。すべてに驚いてたんじゃ、今後が大変だぞ」
「は、はい」
とはいっても、やはり多少なりともこの世界のことは知ってもらう必要がある。
本屋に寄った時にでも、この世界のことがわかるような本でも探してみたほうがいいかもしれない。
俺とアルフィリアも車に乗り込んで、アルフィリアにも説明をしてシートベルトをする。
父さんは全員が乗り込んだことを確認すると、車を走らせた。
「……すごく乗り心地がいいんですね。それに速い」
「馬車は乗り心地悪かったの?」
「えっと……整備された街の中ならそこまで揺れないんですけど、街の外の道はデコボコしているので揺れるので、座っていると体を痛めてしまうんです……」
「なるほど」
「……それにしても、こちらの世界の街並みってこんな感じなんですね」
「そういえばアルフィリアちゃんは、まだウチの外に出てなかったわね」
「はい。すごい人がたくさんいるんですね。自動車もたくさん走っていて……」
「今日は連休の初日だものね。きっとショッピングモールも混んでるでしょうね」
「だろうな」
ゴールデンウィーク初日のショッピングモールも、間違いなく混んでいるだろう。
人が溢れかえっている中で買い物をするのは正直気は進まない。
「まあせっかくの休みだし、買い物の後はみんなで軽く遊んでいくのもいいかもね」
「いいわね。アルフィリアちゃんもいろいろこの世界に慣れて行く必要もあるし」
「いいけど、俺はまず本屋に寄るからな」
「わかってるわよ」
「あの、私も一緒に本屋について行ってもよろしいですか?」
「もちろん構わないが……」
「ありがとうございます」
「何か見たいものでもあるのか?」
「この世界のことについて知りたいと思いまして……それにもしかしたら元の世界に戻る手がかりもあるかもしれませんので」
「なるほどな」
どうやらこの世界のことについて知る意欲は高いようで安心だ。
さすがにアルフィリアのいた世界についての手掛かりは置いていないと思うが、本人としては何もせずにはいられないのだろう。
(まあ、自分の世界には帰りたいよな……)
そんなことを思いつつ、目的地に着くまでの間、時折雑談を挟みつつ、車を走らせること20分ほどでショッピングモールへと辿り着いたのだった――。
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