第12話 桜


私が宗二さんに嫁いではや二ヶ月

今度は智子の結婚式が近づいてきました


「宗二さん、智子の結婚式なんですが.......」

「大丈夫です。ちゃんと行きます」

「でも、締め切りの方は大丈夫ですか?」


昨日、由昌さんに怒られてましたし

大丈夫でしょうか?


「だ、大丈夫......な、何とかなるはず..........」


宗二さんの目が泳いでます

そしてどこか、挙動不審です


「締め切りは結婚式の前日ですから........」

「でも、締め切り明けの宗二さんは何というか.......」


すごくしんどそうですし、口調は笑っていても顔は死んでますし


「宗二さん、締め切り明けはずっと寝てるじゃないですか」

「........そう言われると、何も言い返せません」


死んだように寝たかと思えば、首をガクガクさせながらご飯を食べる

見ているこっちが冷や冷やします


「でも仁子さんの大事な妹さんの結婚式ですし、どうにかして一緒に参加します」

「ありがとうございます。でも、本当に無理はしないでくださいね」


何度も無理だけはしないでくれと言い、釘を刺す

大丈夫だろうか?



「もう一度聞きますが、本当に大丈夫ですか?」

「.......大丈夫です。心配いりません」

「ま、まだ引き返せますから!!」


目の隈はいつもより一層濃く、誰が見ても体調が悪そうに見える

いや、実際に悪いのだろうけど

ただでさえ、人混みや人の多い所が苦手な宗二さんからすれば、苦行以外の何ものでもないのでは?


「行きましょうか、仁子さん」


とてつもなく申し訳ない.......

そんなことを頭の片隅でずっと考えながら、式に参加する


智子、すごく綺麗だな

それにすごく幸せそうだ

幼い頃からずっと好きだった相手に嫁ぐのだから、当たり前かだなんてどこか感慨深くなってしまう


式が始まって少しして、隣にいる宗二さんの様子が明らかにおかしかった

宗二さんにこそこそと耳打ちをする


「宗二さん、一旦外に出ましょうか」

「いえ、平気です。それに今出たら仁子さんまで悪く言われますから」

「智子や親戚の方には、私から後で言っておきますから」


と言って、宗二さんの腕を引っ張って外に出る

境内を出て、階段を降りて、鳥居を超える


「も、もう大丈夫...大丈夫ですから、仁子さん」


思わず、焦ってしまって神社の外に出ていた


「すみません!!こんな所まで引っ張って来てしまって.......」

「いえ、こちらこそすみません」

「宗二さんは謝らなくていいんです。今回はどう考えても私が悪いですから」


必死に謝罪する

こうなることが予想できてなかったわけじゃない

宗二さんに本当に申し訳ない


「僕が我儘言って一緒に来たんですから、仁子さんは悪くありません」


何度謝っても、そう返されてしまう


「でも.......」

「仁子さん、桜が綺麗ですよ」


そう言われて、俯いていた顔を上げる

来たときからずっと、宗二さんのことばかり気にして、気がつかなかった

桜.......先日、宗二さんと一緒に見に行ったときも満開だった

今もまだ満開なんだと驚く


「申し訳ありませんが、すぐに戻ることはできそうにないので少しの間、一緒に桜を見ていてくれませんか?」

「はい。少しと言わず、いくらでも」


あとで智子達に謝る際、宗二さんが私より先に頭を下げて「仁子さんは悪くないんです」と何度も言ってくれた

申し訳なさでいっぱいになると同時に、この人は本当に優しいひとだなんて場違いなことを考えていた


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梅花の候、 曲輪ヨウ @kuruwa_yo_u

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