第11話 好きな人


空気が緊迫している

どうしたら?なんて考えは、今は捨てて

........宗二さんがあそこまで言ってくれたんだ


私も返したい


「あの五月さん。私、宗二さんと離縁するつもりはありません.......私は宗二さんのことが好きです。だから、叶うならずっとここにいたいんです」


なんて思っていたのに、少し喋り過ぎてしまった気がする

宗二さんのことが好きと言ってしまった......

いくら噓ではないといえ、宗二さんから見たら私なんてただの子供なのに...


「.........」

「五月?」

「......宗二兄さんは今、幸せ?」

「............うん。幸せだよ」


「そっか。じゃあ、私...邪魔しちゃったね......」


そう言って、五月さんは泣いてしまった

静かに、嗚咽ひとつ零さずに



「ごめんなさい。散々、酷いことを言ってしまって」

「いえ!お気になさらないでください!!」


全部、本当のことではありますから

玄関先で宗二さんと一緒に五月さんをお見送りする


「あ、あの、五月さん」

「?」

「もしよろしければ、また来てください」

「いいの?」

「はい!!......あ、宗二さんは.........」

「僕は構いませんよ」


よかった.........

突然、思いついたことを口にしてしまうのは本当に悪い癖だ


「あの、仁子さん」

「はい?」

「仁子義姉さんって、呼んでも.....いい........ですか?」


仁子義姉さん...

姉さんと呼ばれたことがないわけではない

実際、智子からは姉さんと呼ばれていたわけだし


「だ、駄目?」

「い、いえ!!寧ろ、そう呼んでください!!」


今日は嬉しいことばかりだ


「それでは宗二兄さん、仁子義姉さん、また」


こうして、五月さんは帰っていった


「晩ご飯の支度をしましょうか」

「はい。そうしましょうか、宗二さん」


いつも通りの会話なのに、少し目を逸らしてしまう

好きと言ってしまったせいだ!絶対!!


「どうかしましたか?」

「いえ、何も.......」


早くいつも通りに戻らなきゃ!!

不自然すぎる!宗二さんに失礼だし!


本当にどうにかしなければ......



____なんて、私は気にし過ぎていたのかもしれない


あれから三日

宗二さんは本当にいつも通りのままで

何か期待していた自分が恥ずかしい


当たり前だよね

宗二さんは私より、うんと大人だもん

好きだなんてそれこそ、ウメノ姉さんから何度も言われているだろうし


こういうとき、嫌というほどに年齢の差を感じる

経験ばかりは努力ではどうしようもできない


「宗二さん、少し外を歩きませんか?」

「......はい。行きましょうか」


わざわざ、読んでいた本を一度閉じてから

こちらを見て答えてくれる


「まだまだ寒いですけど、もうすぐ春ですね」

「そうですね」

「あの、春になったら桜を見に行きませんか?」


いいですね、近くに穴場があるのでそこに行きましょうと返してくれた宗二さん


「五月さんも誘いましょうか?」

「いえ.......五月は..........」


ふと思ったのだけど、宗二さんは五月さんが苦手なのでしょうか?

仲は良さそうに見えたのですが.......


少なくとも、五月さんは宗二さんのことが大好きだと思います

根拠はありませんが...

強いて言うなら、同じ妹としての勘?でしょうか


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