第10話 来訪者


今日は宗二さんの妹の五月さんがいらっしゃる日


「ど、どうですか?おかしな所はありませんか?」

「どこもおかしくはありませんよ。仁子さんに似合ってます」


宗二さんから貰った着物を着て、くるくると回ってみる

気になってしまって、何度も鏡を見てしまう

少しは落ち着かなきゃ


「御免下さい」


玄関の方から、女の人の声がした

きっと五月さんだ


僕が出ますと言う宗二さんに、私が出ますと伝える


「五月さんですね?先日の結婚式の際はありがとうございました。どうぞお入りください」


そう言い切る前に、五月さんはうちに上がる

どこまでもその視線はまっすぐで、まるで私のことが見えていないようだった


「宗二兄さん!!」

「五月......」


奥から来た宗二さんと鉢合わせになる五月さん


「えっと.......とりあえず、客間に行こうか。お茶は僕が淹れますから、仁子さんは五月とゆっくりしていてください」


不思議と断れる雰囲気ではなく、何故かいつものように私がやりますからとは言えなかった

五月さんを客間に案内し、机を挟んで向かい合わせに座る

不機嫌そうな態度の五月さんを見て、何か話さなきゃ、空気を変えなきゃと焦ってしまう


「仁子さんは____」


ゆっくりと顔を上げて私の方を見つめて、驚きの一言を落とす


「いつ宗二兄さんと離縁するの?」


そんなことを言われるとは微塵も思っていなかった

だってまだ結婚して、一月も経っていないし

私にはそんな気は一切ないし、有り得ない


「私に宗二さんと離縁する予定はありませんし、そんなつもりもありません」

「そう.......」

「あの、何故そんなことを?」


退屈そうな雰囲気を隠すつもりもない表情


「皆言っているもの。宗二兄さんは仁子さんを追い出すはずだって」


『どうせまた、自分の殻に閉じこもるんだって』


父さんだけは違うみたいだけどと付け足す五月さん


「私は宗二兄さんには、幸せになってほしいの。貴方が宗二兄さんを幸せにできるとは思えない。だって、所詮はただの代わりだもの」


ウメノ姉さんのようにはなれない

五月さんの言っていることは正しいし、彼女はきっととても宗二さんのことを大切に思ってる


「私、貴方のこと嫌いよ。ただ容姿が似ているだけじゃない」


宗二さんのことを大切に思ってるからこそ、ウメノ姉さんという存在がどれだけ宗二さんにとって大切な人だったかを知っている

だからこその拒絶


「私は.......」


何か...何か言葉を

反論しなきゃ...でも、反論できる要素なんてどこにも


「失礼します」


宗二さんがお茶とお茶菓子を持って、入ってきた

これで少しは場の空気も変わるだろうか


「宗二兄さんは仁子さんと一緒にいて苦しくないの?」


どうやら五月さんはこの話題を変える気はないらしい


「苦しいって、どういう意味?」

「ウメノさんにそっくりな仁子さんを見ていて、苦しくはならないの?」


そんなのきっと苦しいに決まってる

でも宗二さんはこの問いにきっと素直に答えない

はぶらかして、話題を変えようとするはず


「全く苦しくないって言ったら、噓になるよ。でも......」


『仁子さんはウメノじゃないから』


五月さんが何か言いかけたけど、宗二さんは構わず続ける


「最近はそんなに悲しくなくなったんだ。ウメノと仁子さんが重なることも減ったんだ。やっと、仁子さん自身を見れるようになったんだ.......」

「でも........」

「五月は僕と仁子さんを離縁させるつもりで来たんだろうけど、僕にその気はないよ。勿論、仁子さんが離縁したいと思ってるなら話は別だけど.......」


嬉しかった


そう思う理由は、宗二さんが私自身を見てくれているからなのか

離縁する気がないと言ったからなのかは分からない

けど、とても嬉しいことだけは分かるんだ


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