第13話 ここは地獄か天国か

 先日、和歌山にある某佐伯の真魚氏が開いた山からこの島に、本人曰く左遷されてきた住職と話す機会がありました。


「もうね、地獄ですよ」

 住職がそう言うのです。

 そんな地獄のような所に好んで留まる人は居ないわけで、人口はみるみる減っていく。役所の支所長は、

「単純に人口ではなく関係人口を増やしたい」

 と総務省の地域力創造グループ(なんやそれ)に乗せられたうっすい内容のことを言っている。無人島になったら意味なかろうに。


「食事を見ると皆さん質素」

 これまた住職が言うのです。檀家さん方の食卓を見て。

 物価が高い上に所得が少ない。

 島の玄関口に多い公務員や公共性の高い事業の職員はまだましだけれども、それ以外は、うん。

 半自給自足、いや、八割自給自足、もしかしたら完全自給自足という家庭も。

 私もたんぱく質に関しては九割自給自足(釣り)ですね。


「この地獄の寺を継がせるのは悲惨すぎるでしょ」

 自身が子を持たない理由をそう話す住職(私のひとつ年下)。

 あの法隆寺でもクラウドファンディング(目標額2千万円に対して集まったのは1億5千万円とかリターンの業務に忙殺されただろうな)で資金を集めないと、維持できない時代。感染症の影響で参拝料収入が減ったのが大きな原因としてもね。

 島に住む子供の約半数は、親の転勤で島外から来ていて定住しないし、島生まれでも、中学あるいは高校卒業と同時に島から出ていく。

 客単価(?)を安易に上げるわけにはいかないお寺には人口減少は物凄く痛いよね。そりゃ、サイドビジネスを始める若い世代も増えますわ。


「こんな所ならね、ちっちゃな寺で良いんですよ」

 そのお寺はなかなかに立派なのです。敷地の木々、花も綺麗。お掃除だけでも大変そう。


「この島に骨を埋めるなんて考えない方が良い」

 それはなんとなく分からなくもない。地域のね、色々なアレがあるから。残された方がしんどい思いをするかも。


 色々話を聞いた後、私が口にした

「私はこの島に余生を送りに来たので」

 という言葉には笑顔で「それはイイね👍」と返した住職。サムズアップはしてなかったけど。


 銀行員、郵便局員、教職員、各種工事作業員。

 転勤や出張で来た人で釣りを趣味とする人は、ほぼ残業もなく釣り行き放題の島を「天国だ」と言う。

 繰り返し島外から釣りをしに訪れて「やはり天国だ」と移住を決意するも、住む家が見つからず地団駄踏む人もいる。


「平日に罪悪感なく人の少ない海で釣りがしたい」

 という生き方をするために小説家という道を目指した私には、小説家にならずともそれが叶えられるこの島は天国のようでもある。

 だけれども、現在勤め人として働く私にとっては、やはり一部は地獄だよ。

 楽しめることよりも苦しむことの方が多い。働くって障害の有無に関係なくそうだよね。多分。

 特に最近は収穫期で、コロコロ変わる天気予報と共に、コロコロ変わる会社からの作業内容の指示に翻弄されながら働いて。ああ、ストレスが。

 そういいつつも、とてもじゃないけど買う気にはなれない約3㎏のクエを先週うっかり釣ったので、まあ、我慢もできちゃうよね。


 天国にせよ、地獄にせよ、現代社会では行政の庇護の下でしか生きられなかった私にとっては、この異世界(特定有人国境離島地域)が唯一存在できる場所。いや、そんなこともないだろうけど、今のところ抜け出す気はないのです。

 色々愚痴るけどね。

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