食料が無ければコオロギを食えば良いじゃない!(後編)

 後日、同僚はガチで昆虫の食品を買ってきた。


「買ってきたぞ、コオロギ!」


 何やら紙箱を取り出し、職場の机に置いて熊に見せつける。

 紙箱は大体A4印刷用紙程度の大きさで、箱の表にはポップなタッチで描かれた笑顔を浮かべる茶色い虫のイラストが載っていた。

 かなりシンプルな絵柄だったのでイラストだけでは判別付き辛かったが『楽しく味付け! コオロギ食べ比べキット』と商品名が書いてあるので、こいつはほぼ間違いなくコオロギだろう。

 その音色が秋の風物詩なコオロギではあるが、まさか秋の味覚まで兼任するようになっていたとは驚きだ。


「マジで買ったんかオイ」


「そうだ! 奢ってやる!」


 力強く告げる同僚に促され、秋の風物詩の入った箱を開ける。

 中には、姿かたちそのままに乾燥加工されたコオロギが入ったパックが三つ、そしてよくわからん粉の入ったパックが三つ、あと紙袋が数枚ほど入っていた。

 コオロギはよく見るとそれぞれ1パックごとに微妙に形や大きさが違う。

 パックに貼られたシールを見てみると「ヨーロッパイエコオロギ」「カマドコオロギ」「ジャマイカンコオロギ」とそれぞれ書かれていた。

 粉の入った袋は味付けパウダーのようで、ピザ、ガーリック、カレースパイスの三種があった。


 ヨーロッパイエコオロギの入った袋をつまみ上げ、中をまじまじと見つめる。

 見た目的には完全に乾物のたぐいだ。

 大量に鍋に入れて煮込んだら、良いダシが取れそうな気がする。

 コオロギで取ったダシが一体どんな料理に合うのかは見当もつかないが。


「これ、いくらしたんだ?」


「千円くらいかな? アマゾンでポチった!」


 熊の問いかけに、同僚が答える。

 このコオロギ食べ比べキットは、3パック全部合わせても内容量はポテチ一袋に遥かに及ばないだろう。

 それで1000円は、一般的なスナックとしてはやはり割高だろう。

 とはいえ、珍味としてなら丁度いい価格と量だ。


「んじゃ食うか」


「行け! コオロギ、食え!」


 好き嫌いがそもそもあまり無い身としては、正直虫を食べる事の嫌悪感より興味の方が断然勝る。

 早速パックを開いて中のコオロギを紙皿乗せ、指で一つつまむ。

 よく乾燥されているらしく、手触りは干しエビと近い。

 ちょっと指で力を入れると、すぐに砕けてしまいそうだ。

 完全にコオロギの姿のまま乾燥させられているので、食品のビジュアル的にはかなり抵抗を覚える人もいるかもしれない。

 とりあえず最初は味付けパウダーも何もつけずそのまま食べてみる。

 サクサクとした、触った通りの食感に、わずかにナッツのような香ばしさがあって……


「これ、普通にイケるぞ」


「え、マジで?」


 熊の感想に同僚が驚く。

 食べてて熊自身驚いたが、食感といい香りといい、スナックとして普通に食べられるシロモノだった。

 二個三個と食べ進めてみる。

 味も特にクセのあるようなものでもなく、アーモンドの皮を集めて乾燥させて食べたらこんな感じなんだろうな、と思えるようなものだ。

 


「うん、全然イケる。量さえあれば、ポップコーン食う勢いで食えるよ」


「ちょっと俺も食ってみる!」


 同僚もコオロギを一つつまみ上げ、口に運ぶ。


「あ、イケるわコレ!」


「だな」


 その後は二人してピザパウダーを振りかけ、他の二種類のコオロギも皿に盛りつけ一匹残らず平らげた。


 三種類のコオロギは、確かに多少の味の違いはあるものの、そこまで大きな差は無かった。

 精々一番サイズの大きい「ジャマイカンコオロギ」が他のコオロギよりわずかに苦い程度で、どれもこれもスナックとしては十分楽しめる範囲内だ。

 コオロギを食べ終えて、お菓子としての予想外のレベルの高さに驚きつつ空箱や開けたパックを片付ける。


「意外にウマかったな!」


「んだな。スーパーで見かけたらビールと一緒に買うかもな」


 同僚の言葉に同意する熊。

 今年の秋からは、コオロギを見る目が変わるかもしれない。



食料が無ければコオロギを食えば良いじゃない!(後編)……END

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