今年の家事*廃人旦那さまのお世話、拝命いたしました

 年が明けて、去年もいい年で、今年もいい年になりそうだなぁとうれしくなった。何より、旦那さまが人間らしい生活をしてくれることが一番うれしい。

 昼夜逆転の生活ではあるけれども、夕方には起きてきて夕食を一緒にとってくださるし、夜食にと渡したお茶も軽食も食べて、寝る前には消化のいいものを召し上がってからお休みになる。

 夕食を二倍作っていた時もあるけれど、それだと食べ物が片寄ってしまう。食事を増やすことでまんべんなく食べられるし、旦那さまの顔色もよくなってきたことだし、いいことづくしだ。

 服の代わりに星をモチーフを刺した巻き布を渡した時はぴくりとも動かない顔で喜んでいた。不器用な旦那さまは顔には出さないものの表情は豊かだ。何だか、動物に似ていると言ったら怒られるだろうけど、心の中にとどめるのならば問題ないはず。


 年越しの夜空を一緒に見て、断る旦那さまをまぁまぁまぁまぁ、曲がりなりにも夫婦ですからとなだめすかして、あたたかい布団で寝れたことは一歩前進だ。あのお方、指一本触れようとしないんだもの。

 日が上るよりも早くに朝ごはんを準備して、一緒にいただく。

 眠そうな旦那さまは、朝が苦手なんだろうけど、年明けぐらい一緒に食べたかったので見ないふりをした。朝ごはんを頬張るわたしとは反対に、飲み物だけを口に運ぶ旦那さまが目を細める。


「今年の運を占うか」


 旦那さまの心遣いに首を振った。

 残念そうな顔をする旦那さまはきっとわたしの運勢をもう占っている。まぁ、いいものなんだろうけど、旦那さまだけが知っていればいい。それに、どんなことが起ころうとも、目の前のやさしい人はきっと手を差しのべてくれる。そう思えることが幸せだった。

 口の中のものを飲み込んで、姿勢を正してたおやかに微笑んでみせる。


「旦那さま、やってみたいことがあります」


 目だけで何だと返された。


「旦那さまの髪を結いたいです」

「必要ないだろう。すぐに意味がなくなる」


 すげなく却下されるのは想定済だ。


「結えないなら、毛を刈りますよ」


 お茶を吹きこぼすのを無理にとめた旦那さまは苦しそうに咳き込む。

 ちょっと言いすぎたみたい。本気と取られてもかまわないけど。笑顔をしまい、声の調子を落とす。


「その長い髪、とてもきれいで好きなのですが、あぶないと思いませんか。いつ火に燃やされても可笑しくないですし、おしりに踏まれてつんのめりそうですし、何をするにも視界が暗くなりよろしくありません」


 思い当たる節があるのか、旦那さまがそっぽを向く。


「自分で結える」

「わたしの楽しみを取らないでくださいませ」


 眉を寄せる旦那さまの後ろに回る。


「夫の髪を触れるのは妻の特権でしょう?」


 膝立ちになり、夜よりも深く黒い髪に触れた。思った通り、指通りがいい。

 体を固くする相手をなだめるように、すく。どんな手入れをしたら、こんなにも美しい髪になるのかしら。絡みやすい髪をもつ身としては嫉妬してしまう。

 十分にとかして、髪をひとつにまとめる時に、指がうなじを掠めた。思った通り、十分に量がある。


「今日は三つ編みにいたしましょう。明日は高い位置に結びましょうか。どちらが過ごしやすいか教えてくださいね」


 額を抱えた旦那さまは好きにしてくれと唸る。

 そんなこんなで、今年の家事に『旦那さまの髪を結う』が加わった。



『廃人旦那さまのお世話、拝命いたしました』より

https://kakuyomu.jp/works/16817330661718406861

シルフィと旦那さまでした。



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