冬休み明け*音無くんの溺愛はつたない

 月曜の朝、委員会の仕事で水やりをする。朝早くということもあいまって、手先は氷のように冷たくなるし今日にいたっては感覚がない。

 赤い指先に白い息をかけて教室に急ぐ。靴を履き替えていると人の気配がした。

音無くんだ。さっき、挨拶したばかりなんだけど、なんか用事かな。


「て」

「て?」


 首をかしげる私が面白いのか、ふっと笑う。


「手、出して」


 素直に右手を出すと、音無くんはじっと考え込む。

 なんだか、むずがゆい。


「両手、出して?」


 言葉の通りに出すと、いい子と言われて、ぽとりと物を置かれた。

 オレンジキャップのホット飲料。

 あたたかいはずなのに、あたたかくない。手が死にかけてるせいかな。

 広げたままの両手を包み込むように、音無くんのきれいな両手に包まれる。少し長めのセーターの袖口がおまけだ。

 中からと外からのあたたかさが、じわりじわりと広がってきた。


「あったかいねぇ」

「あったかいねぇ」


 二人の声が重なって、心まであたたかくなる。


 はずかしい状況を理解するのは、手がすっかりあたたまってからだった。



『音無くんと夏海さん』シリーズより

https://kakuyomu.jp/users/kac0/collections/16817330662361006667

夏海さんと音無くんでした。



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