二日の朝*泡沫メリーゴーランド
せっかく山のような仕事を終わらせて、会いたい本人の返信を待たずに帰省して、メッセージ通知に寝ぼけた頭もさえたのに、中身を見て急に心が冷えた。
久しぶりの
寝正月よろしく、十時に起きてしまったあたしは何してんだと呆れた。
別に付き合ってるわけでもないし、ただの幼馴染みで、彼が年末年始も休まずに働いていることは知っている。他にかまってられないのはよくわかる。
湊斗の脳みそはわたあめかと思うこともあるけど、だいぶ疲れてない? 無理するぐらいなら、連絡なんていらないのに。
あんなに欲しかったものなのに、心があべこべだ。
――明けましておめでとう
――仕事ふぁいと
二言だけの素っ気ない返信をして、少しだけ悩んでメンダコの『ほめてつかわそう』スタンプを送った。水辺の生き物スタンプを送ると喜ぶから。魚をしとめる猫スタンプを押した時は、美味しく食べてあげてと嘆いてたけど。
そういえば、メッセージでやり取りするばかりで、顔を見るどころか、声も聞けてない。情けなくて、さみしいような気がして、むなしい笑いがこぼれた。
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元旦の次の日、気分は最悪だった。ふてくされて寝ていたら、寝付けなくなってしまった。暗闇でごろごろと転がっていたら、時計の針は日を跨いで朝を迎えようとしている。
通知音が鳴る。
見てやるものかと無視したが、やっぱり誘惑に負けた。携帯の画面は七時すぎ。まぁ、昨日より良心的だ。
画面を開いて、ちょっと後悔した。飛び出してきたのは、リアルなメンダコの画像。デフォルメされたぬいぐるみやスタンプしか知らなかったら、インパクトが、ある。宇宙人かと思った。いやいや、地球外生命体? 目が直視できない。
メンダコに失礼だとじりじりと視線を戻していると画面が切り替わった。着信だ。少し息が止まってしまった。応えると、黒かった画面に橙色が広がる。
まだ暗い部屋に切り取られた朝日が現れた。空と山の境界線からのぞく光が海に反射する。海に建つ鳥居は影絵のようで、紫の雲と燃えているよう雲が美しい。
「ヒロと見たいなと思って」
画面の外で笑う声は元気のない、ぽやぽやとしたものだった。
かろうじて正月と言うような朝、並んで見たわけでもないけど、きれいだね、と素直に笑えた。
『泡沫メリーゴーランド』シリーズより
https://kakuyomu.jp/users/kac0/collections/16816700427105362378
ヒロと湊斗でした。
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