初日の出*たそがれ荘は、かくりよにつき
ビルの間から見える空が紅く焼けてきた。
呆気なく明けるものだと全く動かない気持ちを抱えて眺める。
「今年は
耳にまとまりつくような声が背後から忍び寄ってきた。高くもなく低くもない女性の声で話されているはずなのに、ねっとりとした気持ちの悪いものをぬぐいたくなる。
吐き気を覚え、ひとつ増えた軒先から延びる影にうんざりとした。分厚いセーターに短パンで、半纏を合わせた歪な格好が横に陣取る。白い足に悪態をつきたくなったが、嬉々として揚げ足をとられることはわかっていたので触れないことにした。
彼女の言ったことは、ただ単純に年男だと示したものではない。ぼくの前世が形どっていたものを揶揄している。
眉間に力が入るのを感じながら、返事をしないことをからかわれる前に口を開く。
「龍神はもういません」
「ナニ言ってんの。君はここにいる」
「……逆に酉年だと」
「酉年生まれじゃないよ」
反撃をする前に、あでやかな笑顔に遮られた。憎らしい顔に白い光がさす。
「お、初日の出」
軽やかに祝う口振りが、缶チューハイをあおる姿が、かつて交わした
嫌なものを見たと朝日に目を移す。
紺から紫、紅のまじわりを裂くように白い陽がビルの窓ガラスを、看板の角を区切って、街を照らしている。
沁みるねぇと聞こえた年寄りくさい言葉は聞かなかったことにした。
『たそがれ荘はかくりよにつき、』シリーズより
https://kakuyomu.jp/users/kac0/collections/16817330650224914435
琉生と綾鳥でした。
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