幕間1 クライトの鍛錬

 僕は基本的に休みの時間には本を読んでる。それは文学小説、論説、学問書、何でも読む。最近だと魔法陣基本構造の本とかだね。イラストというか、図形つきで、どこがどういう役割を果たしているのかが詳細に乗っていて中々面白い。


「じゃあこれとこれは………へぇ、こうなるんだ」


 本を読むのは部屋の中の方が落ち着くけれど、学園の敷地内の庭園でやるのも中々良い。朝早く起きるのは貴族だとあんまりいない。だから朝だけは僕がこの場所を独り占めできるんだ。そこで前の日に覚えた魔法陣の構造の法則を試してみる。


「同時に魔法を連結させる図が、これだね」


 僕は今新しい魔法を作ろうとしている。実は魔法というのは組み合わせと使用者の魔素量次第でいくらでも面白い魔法にできる。僕はそう言うのに結構没頭しやすいタイプで一定期間一つのことに没頭してしまうんだ。


「これで………ん?横にくっついちゃった。縦方向に伸ばしたいのに」


 ここで実は前世の知識が役に立って居たりする。僕は素で数学が得意だったし、趣味でプログラミングなんかもやっていたけれど、この魔法陣はそれらに通ずるものが多い。一つでも間違えると正確に作動しないけど、カチッとはまれば………


「いけた!!!」


 凄い!魔法が縦にどこまでも伸ばせる魔法陣を開発してしまった。それじゃあもう一つ新しい魔法陣を作ろう。もう一つは魔法の軌道を自由い変えられる図かぁ、難しそうだ。


「ここをこうして、こうでこうで………」

「おうおう、朝から何してんだ?」

「うわっ!?に、ニーナ先生ですか………気配消して後ろに立たないでくださいよ」

「いやいや、別に特別消していたわけではないけどなクライト君。君が集中していただけだ。良い事じゃないか!」


 あぁ、ここに来てニーナ先生が来てしまった。僕は魔法陣を描くのを中断して、切り上げる。この魔法は誰にも言われたくないし、使われたくないからね。こういうのがクレジアントに対抗しうる一手となる可能性もなきにしもあらずだからね!


「ん?やめるのか?」

「はい、ちょっぴり疲れたので。ニーナ先生はこれからどうされるんですか?」

「私は一旦授業の時間まで眠ろうと思っている。丁度冒険者ギルドで依頼をこなしてきてな。少し大変だったんだ、森に単騎で入るのは得策じゃなかったな………」

「えぇ、すごいですね………」


 ニーナ先生の言う『森』、というのは恐らくギルドが一番難題クエストを多く抱えている迷宮森の事だろう。迷宮森というのはその名の通り、入ったら全然出られないと有名な所だ。もちろん出口も入口もあるけれど、幻惑の霧というのでどこまで行っても同じところに戻ってきてしまうんだ。それを対策するにはヒーラーとか、デバフを解除できる人が居ればいいはずだけど………


「ニーナ先生って、単騎で乗り込んだんですよね?」

「そうだな、ちょっくらワイバーンを倒しにな」

「えぇ………」


 ワイバーンというとメチャクチャ強い。固い皮膜をもちながらなかなか当たらない位置で飛んでいるし、その上にだいぶ高度な知能を持っていて魔法なんかも使える個体もいる。こちらからの有効な手段がそこまでなく、対処が難しい魔物だ。


「ははは、クライト君。君もいずれこうなるさ!というか、クライト君は今の時点で私と少し張り合えそうだしな!大したもんだ」

「あ、ありがとうございます」


 ニーナ先生は普段少し変な事も言うけれどやはり先生になるべくしてなったと言える。実力もあるし、なにより面倒見が良い。今だって普段先生は誰も来ないのに、ニーナ先生だけは何回か顔を覗かせてきたことがある。


「それじゃ!また後でな、私は寝る!」

「依頼お疲れさまでした~」

「ギルドの受付の人みたいなことを言ってくれるんだな!」


 行ってしまった。さて、魔法陣の勉強はこれで良いかな。あとは………スタグリアンの師匠として、スタグリアンに覚えてもらう技を考えておこうかな。


「敵の視線誘導の仕方?いや、それよりももっと攻撃できるものが良いかな?」


 色々と考えてみる。スタグリアンにはあの日の後、少しおこがましいかもだけれど何回か指導のような事をしている。やはり、原作に会った通り凡才だけれどそれは伸びしろを伸ばし切れていないからだ。とにかく効率が悪い。


「もっと手軽に習得できる技とか無いかな………?」


 スタグリアンに教えるのは意外と僕のためにもなる。新しい技を考えたり、技を教えるために僕自身が使う技の熟練度だって上がる。何より、魔法はパズルみたいなもので魔法を組み合わせてきちっとはまった時は気持ちが良い。


「魔法じゃなくて剣術とかの方が良いかな?僕の自己流になっちゃうけど」


 僕が今覚えてる技は全て自己流か他人のを見てパクったものだ。それゆえに、まだまだ未熟な部分もあるけれど戦う相手からしたら熟練された一定の型よりも、よく分からない流派の技の方が効くことだってある。いわゆる『暴れ』みたいなものだ。


「うん、これかな」


 思考して、試行してを繰り返してようやくスタグリアンに教えるものが決まった。さて、確かそろそろ課外授業だったな。その時に実戦みたいな形で教えられたらいいな。


「さて、授業に行こうかな!」

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