第17話 連携プレー

 ダンジョン内を駆けながらキュールさんを探し回る。キュールさんは戦闘が得意ではない。どっちかというと回復とか、技術開発とか、そういったものが得意な人だ。だからこそ、戦闘のできる僕を含めた3人とはぐれるのはまずい。


「っ!そうだ、あれを使うか………」


 僕は近くにいた魔物を倒しながら体内から魔素を大量放出させる。普段だったらそんな魔素の無駄遣いはすることが無いけれど、今回ばっかりは仕方ない。


「よし、生体の位置は分かった。あとは全部見て回るだけだ!」


 これを僕は魔素探知と呼んでいる。大量の魔素を体外に放出させて、自身の放出した全ての魔素に役割を与える。まぁ、簡単に言えば自分の放出した魔素を生きている者の所へ向かわせ付着させるという魔法だ。


「ここは…魔物、ここは…魔物、ここも、ここも………」


 生きている者というのは、生き物すべてに引っ付くので人間で無い事も多い。大半は魔物に付いているため、いちいち確認しながら探し回るのは大変だけど闇雲に探すよりもずっと楽だ。


「ここには………いた!!!」


 キュールさんを見つけてすぐさま抱え上げる。


「ぅぅ………ひゃわっ!」

「見つけた、無事でよかった」

「く、クライトさぁん………!」


 不安そうな表情だったキュールさんは僕の顔を見た瞬間安心したのか目尻に涙を溜めている。そして僕はキュールさんを慎重に抱えあげる。はぐれてしまったのは完全に僕の不注意でもある。


「わ、私必死に魔物から隠れてたんです………でも、良かったぁ」

「僕も助けられて良かったよ。はぐれてごめんね」

「ふぇっ!?は、はぐれたなんて、そんなことは………!ぎ、逆に私の方が………」

「ううん、そんなことないよ。ごめん」


 男女で共にした失敗を女の子に謝らせるのは僕はあんまり好きじゃない。なんてったって、恰好が付かないからね。今度は慎重に周りを見ながら歩く。さっきは敵と交戦した後でちょっと気が緩んでたから、油断は禁物だ。


「さて、下の階に行こう」


 階段を探すのは面倒なので罠を意図的に始動させる。するとそこには見覚えのある顔が戦闘していた。


「ん、スタグリアン!」

「え?く、クライト!ちょっと助けてくれないか!」


 スタグリアンは一人で何体かの魔物の相手をしている。マリスタンはいないみたいだ、きっと僕達と同じようにはぐれてしまったのだろう。


「く、クライト~?ちょ、ちょっとやばいっ!んだけど!」

「スタグリアン、じゃあここで新しい技を覚えようか」

「えっ?うわぁっ!く、クライト!!!」

「じゃあ、片手剣をもって居ないほうの手で魔法を作って!」


 非難の目で僕を見てくるスタグリアンを無視して指示をだす。これも師事の一環だ、許せスタグリアン。


「く、くそっ………やってやる!」

「出した魔法に魔素を加え続けながら剣に魔法を纏わりつかせて!」

「えっ!?えっ!?な、何言ってるんだ!?」

「冷静にー!頑張って!」


 そのままの意味だけれど、戦闘中に解説されても分からないよね。気持ちは分かるし可哀そうだけど、そういうのを瞬時に判断できてこその公爵家。スタグリアンも才能はあるのだから出来るはずだ。


「こ、こう?できた!」


 スタグリアンは氷魔法を剣に纏わりつかせたようだ。


「ナイス!それで斬ってみて!」

「こ、こう?あっ!」


 スタグリアンが斬った敵は剣先で切ったところからあふれた血が凍り、それが体内にまで届いて激痛が走っている様だ。まだ倒されてはいないが、無力化は出来ている。これが俗に言う『魔剣士』の戦い方だ。


「他にも魔法使ってみて!」

「わ、分かった!」


 スタグリアンは雷、火、水など色々な種類の魔法を剣につけて試している。いいじゃないか、やはり命の危険があってこその成長だ。ハイリスクハイリターンとはまさにこの事だと思う。


「はぁ、はぁ…よし!全部倒し切れた!」

「スタグリアンお疲れさま!凄く良かったよ!やっぱり素質は十分にある!」

「そ、そうか?ありがとう、俺はまだまだだけどクライトのおかげで前よりも強くなれたよ。レベルの面でも技術の面でも!この技も練習したいと思う」

「そっか、それじゃ………練習相手、用意したよ!それじゃ」


 魔物にとって挑発の意味である笛の音を口で吹く。


「え、ちょ、えっ!魔物が大量に!?クラ………」


 スタグリアンの声を振り切って僕は罠を踏む。これは岩盤が落ちてくる罠だ、これで逃げ道は消えた。スタグリアン、ごめんね。でも僕は期待してるから!


「く、クライトさんっ!びっくりしましたよ…!そ、それにスタグリアンさんが…」

「ご、ごめん。でもスタグリアンは大丈夫、僕は死なないって信じてるから!」

「そ、そんな感じで大丈夫なんですか?」

「うん。多分!」


 実際にはスタグリアンが死なないようにするための安全装置は残してある。だから普通に大丈夫なはずだ。でもそんなものを使わなくても済むように頑張ってほしい。

僕はクレジアントのあのひたむきで優しい性格、結構好きだし。そういう人は報われて欲しいんだ。


 それからしばらく歩くと階段が見えてきた。


「よし行くよ!」

「は、はぃ!」


 キュールさんは僕がまたなにかするのではないかとビクビクしながら腰に回した手に力がこもる。でも、大丈夫。僕はもう何もしない。理由はすぐに分かるはずだ。


「お、マリスタン!」

「クライト!それにキュールさんも!」

「ぼ、ボス層です~!!!」


 ボス層だからだ、ボスの所には基本罠なんてないからね。それと、マリスタンはここにいたのか。よかった、いくらマリスタンが強いとは言え一人行動は基本危険だ。スタグリアンは僕が安全装置を残したから大丈夫だけれど。


「マリスタン、ここまで大丈夫だった?」

「あぁ。レベルも上がったからか、中級ダンジョンにいる魔物にも少しは対抗できるようになった。それでも一人はきつかったけどな。なるべく戦闘は避けるようにしていたよ」

「そっか、無事でよかった!」

「ま、マリスタンさんも、クライトさんも凄いですぅ………」


 キュールさんは落胆しているが、別にキュールさんも凄いと思うけどなぁ。適材適所なんだから、そもそも回復魔法かいふくまほう自体結構習得難易度しゅうとくなんいどが高いし、気軽に魔素消費も激しい。気軽にポンポン使えるような技じゃないはずなのに。


「さて、ボスを倒そうか。マリスタンはいける?」

「うん、大丈夫」

「わ、私はもし二人がけがしたら治します………!」

「ありがとう!それじゃあ行こう!」


 僕とマリスタンで眠っているボスに相対する。今回のボスはコウモリ型だ。ダンジョンのボスは基本的に深くなっていけばいくほどボスに関連した魔物が出てくるからなんとなく予測はしていた。


「まぁ前回は罠を踏みまくってたから直接見るまで分かんなかったけど」

「ん?どうかしたの?」

「ううん、ひとり言。行こう!」

「が、頑張ってください!」


 僕とマリスタンさんでボスに突っ込んでいく。前回のようなボスの内側から攻撃するようなのとは違って今回は堂々と真正面から戦うしかない。コウモリは浮いていて体内に入ることは困難を極めるからね。


「キェエエエエエエエエエエ!!!!!」

「気を付けて!」


 僕とマリスタンさんはボスを囲うように二手に分かれて剣で攻撃をしようとする。しかし、ボスは寝起きかつ巨体でありながら上手く避けて空中へ飛んでいく。これでは武器が当たらない。こうなったら魔法を使うしかない。


「でも………」

「クライト!コウモリに魔法って効くの?」

「効きにくい、でも効くことは効く」


 コウモリは体力の低い代わりに魔法耐性がなかなか高い。下手な魔法を当ててもダメージは通らないだろう。どうしようか悩んでいるうちに、コウモリは羽をつかった空気砲のようなものだったり突進だったりしてくる。


「キェエエエエエエエエエエエ!!!!!」

「あ、見て!」

「くそっ」


 ボスコウモリは、自分だけではジリ貧だと思ったのか何やら眷属を生み出した。先ほど戦ったコウモリ達だ、十分に倒せるだろう。マリスタンは大剣を一度置いて、魔素を纏った拳でコウモリ達を倒していっている。やはり強い。


「マリスタン!ナイスだ!」

「クライトの方も!」


 そこで、あることに気が付く。コウモリ達を倒したのに、ボスが攻勢に出ない。なんだ?普通なら眷属を出すような魔物は眷属が全て倒されるまでに回復をして、倒されたらまた自分の力で戦うという戦闘スタイルを取っているはずなんだけど………


「………っ、まさか!」


 思いついた瞬間に走り出す。そこはキュールさんの所、何もキュールさんが恋しくなったわけではない。キュールさんの方向を向くと、やはり小さなコウモリ達が今まさに魔法を使ってキュールさんを倒そうとしているところだった。


「危ない!!!」


 僕はコウモリ達を殴り飛ばしてキュールさんを抱え上げ救出する。コウモリ達が組んでいた円陣を間一髪で崩壊させることが出来た。数少ない残りのコウモリも処理していく。


「よし、一旦小さいコウモリ達は全員倒したね。ボスは………」

「クライト!違う、まだ倒してない!」


 マリスタンの言っている意味はすぐに分かった。もっと大量の小さいコウモリを生み出していたのだ。ゲームだったら降りてきていたのに、これは現実だから違うっていうのか………?しかし、どうするべきか


「これじゃあボスと僕達の体力勝負になっちゃうな………」

「クライト、私が時間を稼いでおくから!強力な魔法を撃ってくれ!」


 マリスタンが拳を構えるのを止めて大剣に持ち変える。すると、大剣の平を振り回し始めた。大量に生み出されたコウモリたちは大剣に当たって叩き落とされていく。よし、この間に魔法陣を描いて………


「く、クライトさん!あ、危ないです!」

「っ!〈寛容〉2式!」


 〈寛容〉2式。効果は味方全体無敵1分間。制限は効果発動中に味方全体が受けた2倍のダメージが〈寛容〉2式発動者に1時間に分けられて与えられる。効果が絶大であるがゆえに1式よりも遥かに効果終了後の副作用がきつい。


「〈寛容〉2式!〈寛容〉2式!〈寛容〉2式!」


 いちいちコウモリ達が妨害してくるせいで魔法陣がうまく描けない。何度も魔法陣完成が崩されるせいで〈寛容〉2式の連続使用をせざる負えない状況になっている。これは、どうするべきなんだ………

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