第18話 休息のひと時

「くそ………ジリ貧だな。〈寛容〉2式!」


 キュールさんを守るために、マリスタンが狩り切れなかったコウモリを片手間で処理しながら複雑な魔法陣を描くのは想像以上にきつかった。もしもマリスタンとキュールさんが居なかったら僕も全力を出せるからもっと楽なのかもしれない。でも、今回はそういう訳にもいかない。


「か、回復します………!」


 キュールさんがぼんやりと光る手を僕とマリスタンの方に向けて回復魔法を使ってくれる。回復魔法は生活魔法の中でも超高度な技で、下手な攻撃魔法よりも習得難易度は高いはず。しかも同時回復だ、なかなか技術が必要なはずで学生の段階で出来ているのは流石というべきか。


「でも………」


 回復魔法を使ってもらったところでコウモリ達を全て消し去らないと意味が無い。魔法陣を正確に描くためには手がぶれてはいけないのに、コウモリ達が魔法を撃たせまいと、とにかく妨害してくる。もし魔法陣を描いている途中で変な線でも書いてしまったらやり直しだ。正常に魔法が作動しなくなってしまうのだ。


「クライト!魔法はまだか!」

「ごめんマリスタン!………なるべく急ぐ!!!」


 でも、そんなことを知っているのは普段から魔法の勉強をしている僕だけだ。マリスタンは近接専門職だし魔法がすぐに撃ち出されないのを不思議に思うのも仕方が無いだろう。誰か、僕の周りのコウモリを倒してくれる人が居れば………


「クライト!マリスタン!キュールさん!」

「っ!!!………まさか」


 僕が声のする方向に顔を向ける。次の瞬間声の主は、剣を地面に叩きつけ、魔法で作った衝撃波で僕に近づいてきていたコウモリ達を一気に3匹倒す。


「コウモリ達、倒してきたよ!」

「スタグリアン!!!ナイスすぎるよ!!!!!」


 僕はコウモリが居なくなった隙にさっきよりも早く魔法陣を描く。しかしその間にもコウモリ達は生まれ、何匹かは前衛のマリスタンをい潜って僕の手元へ迫って来る。僕が、咄嗟とっさに剣を取ろうとすると剣を抜く前にスタグリアンが倒してくれた。


「どうだクライト師匠!なかなかこの技も上手く使いこなせるようになってるだろ?」

「あぁ、十分すぎるくらいに!!!」


 スタグリアンのおかげで魔法陣が完成した。


 完成した魔法陣から、魔法が生成される。収縮させた氷魔法を土魔法で囲い込み、炎魔法で打ち出す。魔法入りの銃弾とボディーの無い銃の完成だ。


「いけぇぇぇえええええええ!!!!!」


 弾がボスコウモリの体にあたり弾けた瞬間、濃縮した氷魔法が膨張し炸裂する。


「キェエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエエ!!!!!!!!!!」


 ボスは地面に落ちて霧散した。レベルが大量に上がる音がする。霧が晴れると、ボスの体が消えた所には宝箱が落ちていた。



 僕達の勝ちだ。



「良かった~!!!」

「今回は結構苦戦したな、何体かコウモリを討ち漏らしてすまなかった」

「わ、私も回復してるだけでクライト君に迷惑かけちゃってごめんね………」


 二人から謝罪を受ける。別に僕は何も気にしてないから良いのに。


「いやいや大丈夫、気にしないで!こっちこそ魔法陣完成させるの遅くなってゴメンね。あとスタグリアン、ありがとね」

「気にしないでくれ、俺なんてマリスタンさんに比べればコウモリ倒した数も少ないし、回復もできなかったし、なんなら道中のコウモリ達を魔法剣で倒すのに苦労してボス戦には最後の方に参戦したしな」


 あくまで全員が謙遜している。本当に良い人達だとつくづく思う。


「さて、じゃあ宝箱開けるかぁ」

「何が入ってるんだろ?」

「苦労したし、いい品であってほしいな」

「そ、そうですよね」


 少しの期待をかけながら宝箱を開ける。


「これは………腕輪?」


 宝箱を開けるとそこには金属製の腕輪が一つ置かれていた。金属製の腕輪からは青白い光が3つ等間隔で放たれている。光と光の間には、コウモリをモチーフにした模様が描かれていた。


「綺麗な腕輪だね」

「何に使うのだろう?」

「あ、ここに説明書があります!」


 キュールは前回のダンジョンにもあった古代文字が描かれた紙を拾いあげる。


「キュールさん、それを読めるの?」

「はい!スタグリアンさんとか、マリスタンさんとか、クライトさ………クライトみたいに強くないので。こういう部分でもお役に立ちたくて」

「キュールさん、さん付けは不要です。だから私もキュールって呼んでいい?」

「あ、俺も同じく」

「ぁ、あ、えと、マリスタン………と、す、す、すた、スタグリアン」


 キュールはガチガチに固まっていた。そりゃあそうだろう。平民と貴族の差はあまりにも大きいし、ましては子爵家の僕よりも上の位である公爵家のスタグリアンもタメ口で良いと言っているんだ。いくら学園内では平民と貴族は平等な扱いだとは言え、緊張もするに決まっている。


「あはは、そんな緊張しなくても良いよ」

「は、はい」

「そうだそうだ、同じチームなんだから。気兼ねなく接してくれ」

「わ、わかりました!」


 いいね、二人とも貴族という事を前面に押し出すなんてことはしない良い貴族だ。逆に平民だからといって、好意を断らないキュールも良い。尊いってこういう事か。なんか分かった気がする。え、違うって?


「じ、じゃあ読みますね。『この腕輪は指定した場所にワープすることが出来る。指定をする際、見えないところ(例えば10キロ以上離れた土地)への指定は出来ない。いつでも指定、指定の解除は可能であり、どこに指定したかは装着者以外が知ることは無い。』だそうです!」

「へぇ、面白い効果だね!」


 この腕輪、超大当たりとまではいかないけれど効果で言ったらだいぶ当たりだ。低級ダンジョンでは絶対に出ないような強力な効果を持っている。


「あ、そうそう。僕はこの前この剣みんな譲ってくれたし、他の人が貰っていいよ」

「俺も別に大丈夫かな。便利だとは思うけど、俺はあんま使う時が無いと思うし」

「私も大丈夫だ。スタグリアンと同様に使い道があまりない」

「「「じゃあ………」」」


 僕を含めた3人がキュールの方に一斉に向く。


「ぇ、わ、私ですか?」

「僕は任せる」

「俺も任せる」

「私も任せる」

「ひ、ひぇ………じ、じゃあ、貰います」


 そう言って、キュールが腕輪をはめる。うん、結構かっこよくてアクセサリーとしてもいいと思うな。


「キュールの好きな場所につけておくのが良いね」

「そ、そうですね。こんな良いものを貰えて嬉しいです!」


 喜んでもらえたみたいだ。僕達三人とも何にもしてないけど。


☆★☆★☆


「ふぃ~疲れたぁ~」


 ギルドと先生に報告しに行った後、僕達4人はいったん解散して自由行動にしようと言っていた。この後、MVPの発表があるみたいだからその時にまた再集合みたいだ。はぁ、MVP選ばれてるかな?選ばれてたら嬉しいけど………嬉しい。


「なんか、クレジアント。もし選ばれてても目つけないで!」


 クレジアントが『優しい。だが戦闘狂』って設定ほんとやめてほしい。『優しい』だけでいいじゃん!そしたら多分僕も全然クレジアントに関わりに行ってた、多分。


コンコン


 クレジアントと仲良くする想像をしていると、部屋に誰か訪れてきたみたいだ。先生かな?それともクレジアント達?まだまだ発表まで時間あるけど………

 扉を開ける。


「クライト君!会いたかったよ~!」

「あ、ユーリア。二日ぶり~」


 なんだ二日ぶり~って


「クライト君のお部屋来ちゃった!」

「うん、一応綺麗にはしてあるから入っても良いよ」


 部屋は常に人に見せれる程度は綺麗になっている。


「ほんとだ、整理整頓されてるね」

「でしょでしょ」

「クライト君は綺麗好きなんだね!」

「うーん、そういう訳でもないけどね」


 部屋の乱れは心の乱れともいうからね。知らないけど。


「それとクライト君、これ半分こしよ~!」

「ん?これなに?」

「スライムゼリー!今回の依頼で沢山倒したから、作ってみたんだ~!」


 小さめの瓶の中にプルプルとしたゼリーが入っている。スライムらしい。こっちの世界に来てから魔物を食べたことは無かったけど、スライムゼリー美味しいらしくて気になってたんだよね。


「ありがと!じゃあ僕のも半分こしよ」


 僕は小箱を開けて帰り道に買ってきたケーキを出す。疲れた体に糖分をってことでほんとはひと息ついたら僕が食べようと思ってたんだけど、丁度よかった。


「え、これ私の好きなお店の好きなケーキだ!知ってたの!?」

「ふぇ?し、知って………知ってた!うん」

「嬉しい!クライト君ありがと!」

「あ、あはは………」


 嘘です。知りませんでした。普通に気になって買ってきただけです。なんならさっきまで自分だけで食べる気でした。なんかすいません。


「じゃあ、半分ね」

「どうぞ」

「ありがと、これもどうぞ」


 スライムゼリーとケーキを半分に分けてそれぞれ食べる。スライムゼリーは………うん、美味しい!結構爽やかな口当たりで、ブルーハワイにちょっと似てるかも?ケーキはショコラケーキで美味しい。


「美味しかった~!スライムゼリーありがと、美味しかった!」

「ううん!こちらこそケーキありがとね!あ、あの、お礼にさ………」

「?」

「私がクライト君の事マッサージしてあげる、いい?」

「え、ま、まぁ良いよ。というかこんなに良くして貰っちゃって悪いなぁ………」

「いいのいいの、私がしたくてしてることだから!ほら寝っ転がって?」


 言われた通りにベッドに横になると、ユーリアが僕の肩をほぐしてくれる。すごく気持ちいい。


「ねぇねぇ、疲れた時に糖分足りなくなってきた~っていうでしょ?」

「うん、言うけど………それがどうしたの?」

「あれって実はさ、体が求めてるのは糖分じゃなくてビタミンCらしいよ」

「そうなんだ~。じゃあなんで糖分取りたいっていうんだろ?」

「なんか、昔は果物しか甘いものが無かったからビタミンCを取るために果物を食べてたら、脳が誤認識して糖分とりたい~ってなってった感じだった気がする」


 無駄なうんちくを披露したり、談笑しながらマッサージを受けていると気持ちが良くてだんだん眠くなってきた。そもそも、ダンジョン攻略で疲労していたから仮眠は取ろうかなと思ってたし。


「ごめん、ユーリア。ちょっと眠くなってきちゃった」

「そう?全然眠っても良いよ!」

「うん、ありがとぉ。僕が起きたら後でユーリアにもマッサージしてあげるね………」




 そこで意識が途切れた。




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る