第15話 真剣に、尋常に
学園に戻ってきた。冒険者ギルドに立ち寄って貰った依頼達成の詳細なことが書いてある紙を先生に渡す。
「おお!お前達、1層の魔物討伐だけでいいものをダンジョンを踏破したのか!ダンジョン踏破なんてAランクの依頼内容だぞ?凄いじゃないか!もしかしたら、これはMVPになりそうだな!」
ニーナ先生に褒められた後、今日は解散して良いと言われた。それで、だ。
「話があります」
「なんでしょう」
マリスタンさんに突然呼び出されたのだ。マリスタンさんは実は結構僕の好みのタイプで、呼び出されたってことは告白されるのか…!?とは言ってみたものの絶対にそんなことはない雰囲気だ。
「私、クライト君がボスを倒したと聞いて思ったのです」
「………はい、なんでしょう」
「私よりもクライト君は強いなって」
「え、いやそんなこと」
思わず謙遜する。ちょっと強いかも…って自分で言うのは別にいいんだけど、他の人に言われると恥ずかしい。それにマリスタンさんとはまだ友達とも言えない関係で突然そんなこと言われてもどう反応すればいいのか困る。
「そこで、私こう思ったんです」
「何をでしょう」
「決闘してくれませんか?」
「え、何で?」
ほんとになんで?マリスタンさんは原作設定だと戦闘狂ではないはずだ。それに全く持って決闘を持ちかける意味が分からない。決闘は上の者から仕掛けることは出来ないし、受ける理由もないのだ。
「普通に嫌なんだけど………理由は?」
「私がリーダーなのは相応しくないのです」
「え、そんなことは」
「相応しくないのです!」
おっと、ちょっと大きな声を出されてしまった。何が彼女の逆鱗に触れたのだろうか、僕は何もかもが分からずに少し戸惑う。
「私、あのダンジョンのどこかの層の魔物に苦戦していました。負けはしなかったものの、なんとか勝った後次の魔物がやってきてしまいました」
「うん」
「スタグリアン君も頑張ってくれていましたが、私たちだけではこのままだと消耗戦になってしまうと悟った時ふと目の前の魔物が消えたんです。それと同時に大量の経験値を獲得しました。私は倒していないのに」
僕があの蛇型のボスを倒したからだね。
「そこでクライト君がボスを倒したのだと分かりました。その瞬間、私はクライト君との間にあまりにも大きい差を感じたんです。私はただの魔物に苦戦している中、クライト君はボスを一瞬にして倒してしまったと分かったから」
「………うーん」
「私では、リーダーとしては力不足です。だから、私ではなくクライト君にリーダーをして貰いたい。でも、ただ譲るのは嫌なんです。私にも意地があります、せめて負けて譲りたいんです。自分が納得できる形で、わがままですけれど」
そっか、それなら仕方ないね。
「良いよ、戦ってあげる」
「本当ですか!ありがとうございます。全力で戦います」
☆★☆★☆
決闘場に着き、武器を携えて僕とマリスタンさんはフィールドの上に立つ。
「それでは試合開始!」
「いざ、尋常に!」
マリスタンさんは大剣をダイナミックに振り下ろしてくる。それを僕が避けるとマリスタンさんは大剣ではなく搦め手のように拳を突き出してくる。僕はそれにわざと当たった。
「っ!」
「いてて」
本当はあんまり痛くない。レベルが高いから素の防御力も高くなっている。さっき、僕は『それなら仕方ない』なんて言ったけれどあれは嘘だ。いくら僕が活躍するのも好きとはいえど、それは裏での話。
今回の課外授業ではリーダーの名前が公開されるし、MVPのチームは名前が大々的に貼り出される。そして、ダンジョン1層の一掃を頼まれていた依頼の数十倍難しいダンジョン踏破を達成した僕達はきっとMVPに選ばれると先生が言っていた。
「えい!」
「っ」
だったらリーダーになるのなんて絶対に御免だ。これはクレジアントは優しいけど戦闘狂の一面があって、僕達がもしもMVPになんてなったら絶対に目を付けられる。僕は本来クレジアントに殺される運命。
そしたら、僕が仕掛けなくてもクレジアントが戦いを挑んでくる可能性だって浮上してくるだろう。形は違えど
「えいえいえいっ!」
「………!!!」
剣をマリスタンさんにギリギリ当たらないように普段よりも遅めに振る。マリスタンさんが納得するためにも僕はちゃんと戦っているように見せなければならない。だから剣を一生懸命に振っているように見せ………
「ふざ、けんなぁああ!」
「っ!?」
マリスタンさんは僕の攻撃に堪えかねたのか分からないが、突然加速魔法と硬化魔法を大剣と体に使い渾身の一撃を僕に見舞う。直感的にこのままでは死ぬと感じた僕は思わず風魔法で空気の奔流を大剣と体の間に作り、効果を倍加させた重力魔法を体の周りに展開するという普段は滅多に使わないような魔法の同時発動を行う。
「私が、気が付いてないと思っているんですかっ!?真剣にやってくださいよ!」
「………」
「私は、私はそんなに弱いですか………?あなたが舐めてかかれるような強さだって、私に言っているんですか?」
「いや、ちが………」
「違くないです!!!」
まずい、怒らせてしまったようだ。女の子が起こっている姿なんて僕だって見たくないのに。でもマリスタンさんの気持ちも分かる。彼女はきっと僕に遊ばれているんだと思ったんだろう。本当の所、僕はリーダーになりたくなくて負けたいだけなのだけど。それは彼女のプライドを傷つけてしまったようだ。
「もう一度言います………真剣にやってください」
「………はぁ、うん分かった。ごめんね」
流石に女の子にここまで心からの気持ちをド直球にぶつけられて二度も無視するなんてことはしない。もしもこのあとMVPに僕達のチームが選ばれても………何とかなるだろう。まぁ選ばれなきゃいい話だからね。じゃあ、今だけは
「真剣に戦おう」
「………ありがとうございます。では」
「「尋常に勝負」」
僕はさっきと違って先に攻撃を仕掛ける。真っ直ぐな一直線の突きの攻撃、マリスタンさんは大剣の腹を咄嗟に体の前面に押し出す。良い反応速度だ、こんな華奢な体付きでよくそんなにも大きい大剣をこの速度で動かせるのか。本来相当強いだろう。
「くぅっ!」
「いいね」
でも、大剣はスピードに弱い。前面に押し出したは良い物の後ろががら空きだ。
「終わりだよ」
「っ!」
「おお………!」
僕が後ろに回りこむとマリスタンさんは大剣を地面に放り投げ、後ろに向かって回し蹴りを繰り出す。良い、とても良い。何なら前に戦った強盗よりも属性効果を使わない素の戦闘能力は高いだろう。戦っていて少し楽しい。
「でも、その足ちょっと遅いんじゃない?」
回し蹴りを繰り出してきたのは良いものの突然体勢を変えたものだから、マリスタンさんの足の速度は遅い。僕は足首を掴んで背負い投げのポーズに入る。
「っ!!!」
マリスタンさんを地面に叩きつける。訳にはいかないので、しっかりと水魔法のクッションと風魔法の気流で勢いを緩めながら地面に軽く投げる。柔道のように華麗な技ではないが、この世界では魔法があるためこんな強引な技もできる。
そして、僕は素早くマリスタンさんの首筋に剣の腹を当てる。僕の勝ちだ。
「………私の負けです」
「勝者クライト!」
近くで見るマリスタンさんの顔は何だか少し晴れやかな顔をしていた。
「ありがとう。楽しかったよ」
「いいえ、やはり私はあなたよりも弱かったですね………私はリーダーを降ります。クライト君がリーダーをしてください」
「………まぁ、いいよ」
これ以上マリスタンさんを悲しい気持ちにさせたくなかったので渋々ながらも了承する。これで僕は晴れてリーダーになった訳だ。全く晴れてじゃないけど。
「勝者のクライトは彼女から欲するものを一つ手に入れられます、何が良いですか?」
「僕は特に要らな………」
「私の序列を上げたいと思っています。クライト君、どうか貰ってくれませんか。私にはまだあなたの上に立つ資格が無いから………」
「………分かったよ、貰えばいいんでしょ貰えば」
最早投げやりになりながらもマリスタンさんを怒らせないように序列を貰う。マリスタンさんの序列は言っていなかったけれど77位で少し縁起が良い。まぁ今の状況からして縁起がいいわけないけれど。
「わがまま言ってごめんね。最後にもう一つ簡単なお願いがあるんですけれど、いいですか?」
「あぁ、うん。もうなんでも言ってよ」
無敵の人に近い状態になっている僕は今ならなんでもしてあげられるだろう………なんだか、将来僕に奥さんが出来たら尻に敷かれそうだなぁ
「クライト、って呼んでもいいですか?」
「あ、そんなこと?もちろん良いよ。というか、同級生なんだし敬語も要らないよ。じゃあ、僕もマリスタンって呼んでも良い?」
「う、うん!もちろん!」
なんなら、学園の外の公式な場で会ったらスタグリアンもユーリアもマリスタンも圧倒的に僕よりも立場が上の存在だから僕が敬語を使うべきなんだけど。まぁ学園では身分関係ないからね。僕だって学園外だったらそういう所はしっかりするし。
「二人とも、こんなところでイチャイチャするな~」
「い、いちゃ………っ~~~!!!」
「イチャイチャはしてないですけど、ごめんなさい」
普通に名前の呼び方を聞かれていただけなのだけど、決闘場のフィールド上にずっといるのも悪いのでそこは素直に謝って退く。
それにしても、僕がリーダーになっちゃったか………大丈夫かなぁ
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