第14話 蛇と毒の剣
「それにしてもデカいなぁ」
「ひぇぇえ!!!」
ボス層にはデカい蛇がとぐろを巻いて眠っていた。低級ダンジョンとはいえやはりボスは迫力が段違いだ。さて、さっさとこいつを倒そうか。スタグリアン達の2人組のことも心配だし、魔物に苦戦して怪我したら可哀想だからね。
「キュールさんはここで待ってて」
そう言って、キュールさんを腕から下ろす。
「え、でも………あ」
キュールさんの言葉を待たずに僕はボスに向かって走る。ボスは僕の存在を感知してようやく起きたようだ。蛇型のボスは固い鱗を持っていて、下手な武器では傷もつかないし魔法の通りも悪い。でも、そういう時の定石は、
「シャァァァ!!!!!」
「口の中から攻撃すればいいだけだ」
「ぇ、く、クライト君!」
〈寛容〉1式を発動させて蛇の体内に侵入する。蛇の口内には狂暴な牙があるから、噛まれないようにできるだけ早く喉を通過する。丸呑みが得意な蛇は喉が広くて通りやすい。蛇は恐らく僕の事を丸呑みにして倒したと思っているのだろう。
「でも、そんなわけないだろ」
蛇の食道は粘膜で覆われていてただ斬るだけでは粘液のせいで有効な攻撃にならない。そのため、蛇型のボスは安心して剣を持った冒険者を丸呑みする事が出来る。
しかし蛇は食道が長く、胃に到着するまでに体の最も大事な部分に心臓がある。この蛇型のボスもその例外ではない。魔法陣を空中で描き、魔力を安定させる。さて、最近練習していた魔法を使う時が来たようだ。
「火球を連結させて、自由に起動の変えられる火柱の完成だ」
蛇の食道全体を焼き切るために自由にカーブする火炎柱を作り放つ。そこで蛇は暴れ出した。でも、これをみこして僕は〈寛容〉1式を発動させていたのだ。全く効かない。
「これで終わりだ」
念のため1分間たって効果が切れた〈寛容〉1式を再度発動させてから、火で粘液が消え去り焼き爛れた食道から心臓を突き刺す。蛇型のボスは痛みでしばらく暴れた後、動かなくなり体が消滅して僕は体外に出ることが出来た。
ボスが倒された事でダンジョン内の魔物がすべて消えて、ボスと今まで倒していなかった魔物の経験値が体内に流れ込む。4人で経験値を等分する装置を付けていて、本来よりも経験値が少ないとはいえそれでもレベルが大幅に上がった。
「あ!く、クライト、くん!………うぅぅ!」
「ど、どうしたの?」
「し、心配しましたよぉ………!」
キュールさんが泣いてしまった。どうやら僕が蛇の魔物に丸呑みにされて殺されたと思ったらしい。しかし急にボスが暴れ出したかと思えばボスが消滅して僕が出てきたため何が何だか分からず、心も頭も整理できなかったんだろう。
「大丈夫?」
「は、はいぃ…そ、それよりも!クライトくんは大丈夫なんですか!?血だらけですけど………回復魔法を使いますから、動かないでくださ…あれ?使えませんね?」
「うん、何とか大丈夫だよ。あ、それは返り血だから。心配してくれてありがとう」
「か、返り血でしたか。でしたら…」
キュールさんは僕の体が傷ついてないと分かると、生活魔法の応用として服を綺麗にする魔法を使ってくれる。たちまちボスの返り血で汚れ切っていた僕の服は綺麗になった。ありがたい限りだし、キュールさんの優しさが嬉しい。
「ありがとね」
「い、いえいえ!大丈夫です、私はあんまり戦闘は得意ではないですしこれくらいしかできないので………」
「まぁ人それぞれ得意なことはあるからね。キュールさんは頭も良いし生活魔法の応用とか、そういう技術も凄いと思うよ!」
「え、そ、そうですか?それは良かったです!」
キュールさんの笑顔は可愛いらしいな。僕も男だ、可愛い女の子の笑顔には弱い。なんでユーリアにしてもキュールさんにしてもこの世界は可愛い女の子が多いのだろう。今回同じチームであるマリスタンさんも可愛いし。
「それじゃ、ボスドロップの宝箱を回収しようか」
「そうですね!何が入っているんでしょうか?」
でも、僕はあくまでも原作のストーリーの根幹には関わりたくないと決めている。そういうのはクレジアントに任せとけばいいのだ、僕は表舞台に立たずとも楽しめるとついこの間再認識したし。裏で活躍するのもいいなって!
「開けるね」
「はい!」
そう言って宝箱を開ける。すると中には一振りの細剣が入っていた。その剣柄には蛇の紋様が入っていて、持ち上げると細剣の下には羊皮紙に何か書いてあった。僕は羊皮紙を手に取るが、何やら複雑な文字で書かれていて読めない。
「あ、これ私読めますよ」
「え、ほんと?」
ほんと?と言いながら僕はゲームでの彼女の役割を思い出していた。キュールさんは自前の頭の良さを生かして民族文字や古代文字なんかを解読できる力を持っていた。キュールさんが居て助かった。何が書いてあるんだろう?
「ええと、『この細剣の先端には永続的に毒が発生する仕組みとなっている。毒は解毒剤などで簡単に解毒できるものだが、その分解毒をすることが出来ないと毒が体に入ってから5分で心臓が痛み出し、15分ほどで心臓麻痺に至る。』と書いてます」
「え、強くない?」
想像以上に強い武器が来た。僕がゲームをしていた時は低級ダンジョンからこんな強い武器が出る確率は100回やって1回ほどだったのに、これは良い収穫だ。もし、僕以外に欲しい人が居なかったら使おうかな。
「それじゃあスタグリアン達と合流しよう」
「そうですね。あ、でも、どうやって合流すればいいのでしょうか………」
あ、確かに。
「えっと、どうしよう………」
「お~い!クライト!」
「クライトさん!キュールさん!」
「あ、クライトさん、来ましたよ!」
「け、計画通り…!」
全くそんなことは無い。でも、結果オーライなのだよ。わかるかね。
「突然魔物が居なくなったので最下層に来たのですけれど、まさかボスを倒したのですか!?」
「えっと、うん。一応そうだよ」
「えぇ………」
「マリスタンさん、クライトはこういう人間なんだよ」
なんだ、スタグリアン。そんな魔物を見るような目で僕を見るなんて失礼な。
「それにしてもクライト、君がボスを倒してくれたおかげで経験値が一気に沢山入ってきたよ!ありがとう」
「そうですね、大幅にレベルアップできました」
「私もです!」
「ううん、気にしないで。それより」
僕はさっき宝箱の中から出てきた細剣を二人に見せる。
「これ、ボスを倒したら出てきたんだけど皆いる?」
「私は大丈夫です。もとより大剣を使っていますし」
「私も戦闘は向いてないので………」
「俺も大丈夫。その剣はクライトが使ってよ、だってボス倒したのクライトだもん」
皆は要らないようなので僕の物になった、正直結構嬉しい。本当はスタグリアンが欲しいかな?と思っていたものの、スタグリアンは要らないと言ったから、僕が貰う事にする。
「ありがとう。それじゃあ戻ろっか」
「そうだね」
「は、はい!私なんにもできてないですけど、ごめんなさい」
「クライト君。学園に戻ったら話があるのですが」
「うん?大丈夫だけど………」
なんだろう?悩み事かな………
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